本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)
目次
「新時代IDPOSデータ分析高速PDCAサイクル」を回せ!
東急エージェンシーが顧客の個人情報を用いないマーケティング分析ツールを開発・販売されたという記事が、「日経ビックデータ6月号P24 IDPOSデータから買う可能性が高い顧客特定」にて掲載されておりました。本日は記事を解説しつつ、PDCAサイクルが高速であることの重要性について考察していきたいと思います。
東急グループは分析を分かっている(記事概要)
東急エージェンシーが開発したツールでは、「独自の確率的潜在意味解析(もとはテキストマイニング用の解析手法。同じ商品を購入した顧客同士の他の購入商品を比較し、購入されそうな商品をダイレクトメールで提案する)」とあり、この手法では「性年代、趣味趣向などのパーソナルデータを使わない」という特徴が書かれています。流石、「分析を分かっていらっしゃる」と感じられる記事でした。文中には、「東急グループではさらにグループ内各社のデータを合わせた分析も見込んでいる」とも書かれており、今後も期待される分析ツールと言えるのではないでしょうか。
パーソナルデータを潔く捨て、実際のマーケティングに活かしている!
古くから分析の世界では、「まず属性情報で切ってみる」という、不文律に近い思想がありました。それを潔く使わない(理由は個人情報保護という後ろ向きの理由が記事には書かれておりましたが・・)という決断で分析手法を考えて、それをマーケティングに実際に活用している東急グループに純粋に敬意を表したいと思います。(そこまで割り切れる企業が多くないですので)
また、導出した分析結果を実際にマーケティングに活用しており、PDCAサイクルに着実に組み込んでいるという点で分析を武器とする企業とも言えるでしょう。(記事中には例として、東急百貨店で食品を買った人がShinQsで化粧品を買うことが多く、そのような顧客に近いと判別され、かつ化粧品を買っていなければ、化粧品をレコメンドしていくという流れで紹介されています)
それでも捨てきれない「クラスタの名前付け」
しかし、理解することが難しかったことは、折角そこまで、(ある意味)半自動化の分析手法が開発され、高速化されたPDCAサイクルを実現している(しかもパーソナルデータを用いていないと謳っている)のに反して、「顧客を「松濤マダム」「東横店利用のOL」と名付けていることに違和感を覚えました。
今回紹介されている、東急グループの「確率的潜在意味解析」ではどの商品のダイレクトメールを送るべきかがクラスタ別にでるのでしょう。上司への説明なのか、それとも記事としてわかりやすくするためなのかはわかりませんが、クラスタに名前を付けて顧客を理解しようと試みていました。
「顧客の嗜好は多様化している」と言われて何年経つかわかりませんが、「ユニクロ着てポルシェ乗る」「ロクシタンと髭剃りをオネエが買う」など、顧客像を見ていくときりがないことは、マーケティング担当者なら、肌感覚で感じているはずです。
マーケティングの出口がダイレクトメールなら、むしろクラスタ名を考えることに時間を使うな
しかし、「こういう人が顧客」を考えないとならないという呪縛にかかっている人や会社に我々もよくお会いします。強いて言えば、マスマーケティング視点を大事にしている人や会社ほど、その傾向が強いように思います。個々人にアクセスすることが難しい業態や時代であれば、マスで顧客を捉え、アプローチしていくのに、クラスタに分けることは有効でしたが。個人個人にアクセスできるダイレクトメールがあるのであれば、顧客を一定のグループ(クラスタ)に分ける行為そのものが不必要と考えるのは私だけでしょうか。(と申し上げつつも、世の中にどんな人が多いのかなど、トレンドを見ていくために、顧客をクラスタに分けて、社会全体を理解していくことも非常に価値があることではあります)
東急グループはPDCAサイクルを徹底して早く回して、インプットデータを増やすべき
東急グループの確率的潜在意味解析のような手法は、そのアルゴリズム精度如何でマーケティングの成否が決まる部分もあります。しかも、分析前に保有している顧客の属性情報(パーソナルデータ)を使わないという以上、アルゴリズムの精度をいかに上げていくかに注力すべきと考えます。そのためにも、クラスタリングなどで「人間が理解する」ことを大胆にも止めてしまい、「よくわからないけど、ソフトは、このグループにダイレクトメール打つようにと言っている」「だからよくわからないけど、ダイレクトメールを送付する」というサイクルを試行してみることが実は重要ではないかと考えています。というのも、アルゴリズムの精度によるものである以上、トライ&エラーが最も精度向上に寄与するはずであり、実際の反応と取得される新データが更なるアルゴリズム精度向上に寄与すると考えられます。
分析はゴールではない。分析ベースマーケティングの結果としての売上がゴール
「分析によって顧客がクラスタに分けられる」、また「高精度アルゴリズムにより顧客を理解できる」などデータを分析することで、様々な事象が見えてくることは、非常に有意義なことであります。特に、顧客が本当に必要と思うものを購買した結果が購買履歴データであり、それを分析し、その結果指標のみから顧客を理解すると考え方は「嗜好の多様化」に合致するものであり、画一的な顧客理解とは一線を画した一歩進んだ分析だと感じられます。
しかし、最も重要なことは、理解した顧客に対して、“有効な”マーケティング施策を行い、売上向上に繋げることであります。その為に、“有効な”マーケティング施策を誰にどのように打つのかを素早く導き出し、まずはトライ&エラーを覚悟で失敗を恐れずに、素早くPDCAサイクルを回して新たなインプットを得ることに注力することが、分析手法の強化や新たな分析視点の創出に直結します。
その為にも、素晴らしい手法を生み出している東急グループの担当者の方には、多くのPDCAサイクルを素早く回し続けて頂き、成果を生み出して頂きたいと考えております。