別に、決めつけてるわけでもないんですよ。
本連載は、2016年11月に発売された『デキる人が「あたり前」に身につけている! 仕事の基礎力(すばる舎)』の内容に、具体例や詳細な説明を追加したり、ページ数の関係で割愛せざるを得なかった図版などをご紹介する解説記事です。(書籍の概要はコチラをご参照ください。)
本日は、第5項で取り上げた「仮説思考」に関する補足です。
仮説ってなんだ?
仮説というものは、コンサルタントが良く使う言葉ですが、すでに人口に膾炙した感があります。
しかし、正しく仮説思考ができているか、というと、そういう人は少ないように思えます。どういうことか?それは、仮説という言葉の意味を正しく定義できていないからなんですよね。
hypothesisとassumption
仮説、という言葉は、英語の「hypothesis(ハイポゼシス)」の訳語であると同時に、「assumption(アサンプション)」の訳語でもあります。これが、事態をややこしくしているのではないか、思うんですね。
まず、わかりやすいほうから。assumptionは、assumeの名詞形ですから、「仮定する」という感じの言葉がしっくりきます。仮定、と言われると「とりあえず、一旦そういうことにして、ほかのことを考えてみる」というニュアンスを感じますよね。また、「一旦、(便宜上)そう決めただけなので、違うことも十分ありうる」ということも意味に含まれているな、と思っていただけるのではないでしょうか。
一方で、hypothesisとはなんでしょう。耳慣れない方も多いかと思います。
hypothesis assumption difference とかでググると、いくつかサイトが出てきます。今回は、コチラのサイトから引用します。
What is Hypothesis?
Something that has yet not been proved to classify as a theory but believed to be true by the researcher is labeled as a hypothesis. A hypothesis is merely a proposition that is presented or put forward by a scientist to explain a natural phenomenon. It does not become a theory until it is proved and tested under different conditions and circumstances. At best, it is an assumption that has been made working.
ざっくりいうと・・・
- まだ、Theory(セオリー:理論)というほどに証明されていないが、おそらく真実だろう、と思われるくらいの確度がある。
- 完全に証明されないと、Theory(セオリー:理論)とは言えない。
- 検証されつつある、assumption、というところ。
って感じですかね。(間違っている場合は、僕の英語力の問題なのでだれか教えてください。)
ようするに「これから検証していかないとね」というのがassumptionで、「まだ途中ではあるけれど、検証が進んできているよ」がhypothesisという感じです。
2016/1/10追記:
友人でもある「ましうさん(@Matthew_GP)」から、以下の指摘をいただきました。ありがとうございます。
ちなみに、理系の世界ではhypothesisという時には「実験などにより取得した結果データを説明するために必要とされる仮定」「直接的に成否の判断ができる」などが挙げられます。ざっくりいうと「Hypothesisは、そもそも先にデータありきで、それを説明するために構築する仮定」という感じでしょうか。Assumption → 実験 → Hypothesis → 実験(検証) みたいな感じで進むイメージです。
— ましうさん (@Matthew_GP) 2017年1月10日
つまり、上記の僕の説明よりも、「検証状況としてはやわらかい=検証前段階のもの」且つ、その一方で「原因・理由として検証可能な状態=何をもって検証すればよいかクリアになっているもの」がHypothesisと言えそうですね。
- Assumption=こういうことがありえる・おこりえるんじゃないかな?と思う。
- データを集めて、その事実及び、構造を理解する
- Hypothesis=どうやら、こういう理由が背景にありそうだ・こういう理由で説明可能そうだ、と仮定を立てる
- データによってその仮定を検証する
- 仮定が証明され、Theory=理論として確立される
という感じでしょうか。なるほど。こうして考えると、ビジネス界においてTheoryはないんじゃないか、という気がしてきます。これは、人工知能(というか機械学習)が極限まで進んでも、経営判断のような複雑な意思決定は不可能だろう、という僕の持論と合致します・・・が、あまりに別の話なので本日は割愛します。またの機会に検討してみましょう。
——– 追記 ここまで ——–
世の中の人は「hypothesis」っぽく捉えているんじゃないか
で、コンサルは、assumptionに近い感じで「仮説」という言葉を使います。しかし、世の中の人(つまり、聞き手)は、hypothesisっぽいニュアンスで「仮説」という言葉をとらえているのだと思います。
なので・・・
- コンサル:これ、こういうことだと思うんですけど、どうですかね?
- クライアント:全然違う。何言ってんの?素人がっ。
とか
- コンサル:こういう風に考えると、こういう結論もあり得ると思うんですが。
- クライアント:現場も知らないくせに、適当に決めつけやがって・・・若造が。
とかいう誤解が生まれているんじゃないでしょうか。
この部分が伝わっていないのは、コンサル側の説明不足に起因するところが大きいわけですが、ただ、こういう部分を理解すると、コンサルが「好き勝手言ってる若造」というわけではない、ということをご理解いただけるかもしれません。(いや、好き勝手言ってる若造が、まったくいないとは申しませんが・・・大半は、そんなことないと思うんですよ。ってことです。)
コンサルの「初期仮説」は、assumptionより”ちょっとカタい”
もうちょっとだけ補足をさせていただくと、コンサルタントが「初期仮説」とかいう言葉を使っているときは、「assumptionよりは、ちょっとカタい」と思っていていただくとよいと思います。ただ、「Hypothesisよりは柔らかい」です。
どういうことか。つまり、「何も根拠がないわけではなくて、いろいろな知識や経験に照らし合わせて、一定の妥当性でそうじゃないかと思えるんだよね」くらいのところまで持っていったものが、「初期仮説」です。
例えば、食品メーカーさんの営業改革をする、といった場合に「電機メーカーだと?」「小売業だと?」「金融だと?」と考えたり、あるいは「他社ではどうしている?」とか考えたりします。さらに言うと「法人営業に限らず、個人向けビジネスではどうしている?」「新規開拓の場合と、既存客への対応強化ではどういうやり方がある?」「アップセルとクロスセルでやり方が違う?」いうようなことを組み合わせて考えた結果、「こういう営業改革方針が、一定の妥当性をもって”ありえそう”だな。」という初期仮説が導かれるのです。
仮説を立てる、が、すなわち「考える」ということ
この、初期仮説、を導き出すプロセスは、まさに「考える」ということの真髄です。
よくわからないこと、に対して、「それって、こうなんじゃないか?」「いや、こういうことかもしれないぞ。」「あの事例を考えたら、こんな可能性もあるな」という風に、多面的に考え、多面的に捉えるのです。
最初の段階で、こうやって多面的に考えておくことで、その後、でてくる色々な追加情報を「お、あの事例をアレンジしたらハマりそうだな」とか「思っていたのとは真逆の情報だが、それは、どこに”違い”の原因があるのかな」というような”思考の拡大ツール”として取り入れることができます。
物事をしっかり考えるということに注力していると、新たな情報に接した際に、より深く考えることができるようになる!というわけですね。
コンサルタントの思考法がどうこう、とかいうことではなく、常に「推測」とか「仮定」を考えるようにしてみよう、というお話です。(ま、みなさん、こんなことは言われなくても多かれ少なかれやっていることだと思いますので、少しだけ意識的にやってみてはいかがでしょうか。)