人生において「いいとこ取り」は存在しない
ダイヤモンド社のHarvard Business Reviewですが、今月の9月号は「一流に学ぶハードワーク」です。前回は「4000人の調査が明かすリーダーの実態 経営者は仕事と家庭を両立できるか」を紹介して自己嫌悪とともに多少くらい気持ちになりましたので、笑 今回は明るく元気になる記事を紹介したいと思います。
今回の紹介記事は「持続的エネルギーの源泉はなにか 仕事のストレスは仕事で癒す」日本電産 代表取締役社長 永守重信氏のインタビュー記事です。永守さんはかねてからハードワーカーで非常に有名であり、その逸話は多数存在しています。
- 毎朝5時50分に起床し、誰よりも早く6時50分に出社する。仕事に入ってからは、バイオリズムにあわせて時間帯ごとに仕事の中身を決めている。
- ウイークデー以上に集中力を発揮できるのは休日。土曜日は役員会の日と決めているので、電話も来客もない日曜日はとくに貴重。長時間かけて、社内報や講演などの原稿を書く。
- 仕事を離れても無駄なことは一切しない。経営に集中するため45歳で酒はやめた。ゴルフや囲碁など時間のかかる趣味もあえて遠ざけている。
新幹線の中で何度かお見かけしたことがありますが、噂通りにガシガシと働いておりました。笑
そんなミスターハードワーカーの永守さんのインタビュー記事を紹介したいと思います。この記事はまさに「努力論」とでも言えましょうか。永守さんのような名経営者の発言に対して持論を挟むことは気後れ致しますが、そこは多少なりとも勇気を振り絞って、当たり障りのない発言を書いて行きたいと思います。笑
努力するだけでは成功しない。だから、懸命に努力する。
私は全てのことに手を抜きません。なぜ全力で働くか。それは努力が運を呼び込むからです。努力をしなければ、運は訪れません。これ以上はやれることはないと言うところまで徹底的に極めて、始めて運が近づいてくるのです。運が7割、だからこそ運を味方にしなければならないと考えています。禅問答のように聞こえるかもしれませんが、努力するだけでは成功しないからこそ、懸命に努力するのです。
成功しているビジネスパーソンの多くが成功と運を努力をセットで捉えているように感じます。事業の成功には戦略は無いよりもあった方が良いですし、成功の確率もあがりますが、私は事業の成功に対する戦略の寄与度は2割程度と捉えており、残りの8割は運だと考えております。では、運だけに事業を任せても良いのか? そんな分けはありません。努力しないでラッキーパンチで成功した会社もあるでしょうし、正しい戦略と正しい努力を実行しても沈んで行った企業は多数存在するでしょう。私は事業成功の構成要素として自分でコントロールできる2割の戦略に携わってきましたが、同時に運の8割をなるべく自分でコントロールできないものかと模索もしてきました。結局のところ精神論のように捉えられるかもしれませんが、努力により運をコントロールするのが一番の方法だと捉えております。「運が良いことに素晴らしいクライアントと巡り会えた」、「運が良いことに素晴らしいビジネスパートナーと出会えた」など、運の良い巡り合わせは、それまでに何度となく無駄に終わった活動の先にある数少ない成功事例なことが多いからです。サッカーの長友選手がごっつぁんゴールを決めた際にも、それまでに何度となく無駄に終わったオーバーラップがあったからに違いありません。
これまで多くの人を見てきましたが、成功している人は凄まじい努力を重ねているものです。1流のプロスポーツ選手もしかり。彼らはこれでもか、と言う程地道な努力を続けています。そのことの重大さに気づかない人達は彼らを天才で片付けてしまいます。しかし彼らは天才ではありません。努力に見合う結果を残しただけです。
努力論のここが難しい部分だと思います。おそらく、スポーツにしても、ビジネスにしても、成功した方々の大半は生半可な「努力」ではすまない「努力」をされてきたのだと思います。成功者を分析したら、全員が同様に凄まじい努力をしていた。では、失敗者は一応に努力が足りなかったのか。足りなかった方々も同様にいるでしょうが、同じくらい努力をして成功者に成れなかった人も大勢いる。「努力」とは、成功の確率を高めるものではありますが、成功を確実にするものでは無いと言う事実、また努力は自分内での絶対値ではなく、競争環境においては相対値に成ると言うことが、努力=成功に至らない難しい変数を生んでいるのでしょう。とは言え、多くの人にとって「努力」と「成功」が大きく見れば正の相関関係にあることは経験知的にも感覚知的にも納得いくものなのではないでしょうか。
ウサギとかめ
いわゆる「1流の人材」は、頭のできがよいので、つい先のことを考えてしまいがちです。先見性と言えば聞こえは良いですが、必ずしもよいことばかりではありません。努力する姿勢を身につけた先にどのような未来が待っているか。それを勝手に悲観し、目の前のことに懸命になれないのです。
その点「3流の人材」は先を見ることが得意ではありません。いま、目の前にある山を越えることに集中するだけです。ところが、1つの山を越えた先にあるもっと高い山に向き合い、懸命に登ることを繰り返すうちに実力を身に受けます。やがて、1流の人材のはるか先を走るようになります。
永守社長は努力することは後天的に身につけられる、努力する姿勢は教育できると述べております。ただし、それに火をつけてあげる必要があることを触れております。ただし、「ハードワーク」はただ努力すれば良いとか、長時間働けば良いと言うわけではなく、もっと高い要求をしております。
仕事で問われるのは成果です。必要なのは考える力です。つまり、ハードワークは時間ではなく、質の問題に変わりました。勝つまでやる、成果が出るまでやる。それが知的ハードワークと言う言葉の意味です。長時間働くハードワークで成果が出るのであれば、いくらでも長く働けば良い。しかし、今のビジネスでそういう仕事はほとんでありません。
根っこの部分は変わらずに、働き方が変わったのです。
「(努力する)+(知恵を使う、考え抜く)」が伴って、知的ハードワークであり、ただの長時間労働ではハードワークにならないと言うお言葉です。ただし、「努力する+知恵を使う、考え抜く」と言う行為は、長時間労働は避けられないので、長時間働きつつ、そこに更なる相当の工夫が必要だよねと言う解釈で良いかと思います。こうした表現は昨今はブラック企業などと言うレッテルを貼られるようですが、永守社長は世の中にいいとこ取りはなく、何かで大成したいなら、どこかに犠牲はつきものだと言うことを冷静に淡々と述べているにすぎません。現にワークライフバランスに関する彼の持論がそれを物語っており、聞きあたりの良い人生のバランス論などを述べることもなく、「努力」ということに誰よりも真摯に向き合ってきたことが感じ取れる一言でインタビューが終わります。
仕事だけでなく、プライベートをエンジョイする人も高く評価します。俺は偉くならなくても良い。人生をエンジョイできればいい。それが素晴らしい人生だったと心から思える人ならそれで良いのです。しかし、自分の選択を後になって反省するような人に、私は納得がいかないだけです。
趣味を楽しんで定時に帰る一方で、仕事でも成功したい。そのような「いいとこ取り」が成立することは聞いたことがありません。人生の楽しみを遊びに見いだすのであれば、思い切ってエンジョイすべきです。懸命に努力し、仕事で苦しんだ分しか、仕事に成功はついてきません。ラッキーパンチが1発あたるのは偶然にすぎません。人生を通じて仕事で成功したければ、人の何倍も努力し続けること。これがワークライフバランスに対する私なりの答えです。
最近の日本の書籍の風潮は、「1週間で・・・」「誰でも・・・」「簡単に・・・」「○○だけで・・・」と言う簡易的な自己啓発本が流行っているように見えます。「死ぬ程努力をすれば実現できます」と言う本では、言われなくても当たり前だし、努力するのは大変だし、そもそもタイトルのキャッチではないし、と言うことで全く売れないでしょうから敬遠されるのでしょう。ですが、耳あたりの良い嘘では自分も会社も世の中も変わらないことは事実です。「努力しろ」と正面切って正論を主張されているこの記事が本来は本当に努力が必要な方々に届くのか分かりませんが、永守社長の「努力論」をご紹介致しました。