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分析業務を丸受けし、意思決定を支援する
本日は、「アナリティクスBPO(分析アウトソーシング)」を解説します。
BPO=ノンコア業務の外出しによって経営資源をコア業務に集中すること
BPO=ビジネスプロセスアウトソーシング ということは、既にご存知のことと思いますが、簡単に説明すると「業務を外部委託して、効率化すること」です。最大のメリットは、自社の利益の源泉でない業務(いわゆるノンコア業務)を外部に委託することにより、自社の経営資源を利益を生むために集中できることです。
一方で、BPOを提供する企業にとっては、「委託元の企業よりも、効率的に(つまり低コストで)運営するための仕組みや仕掛けがある」ことが鍵となります。業務品質を落とさずに、委託元よりも低コストで運営することが可能であるが故に、その差額がBPO提供企業の利益となるのです。
もっとも分かりやすいやり方としては、中国やインドなどの人件費が(先進国に比べて)低い国で受託するという「オフショア」型によるコスト低減が挙げられます。日本語が必須となるコールセンター業務等の場合には、東京に比べて賃金が安い沖縄などで行うこともあります。もちろん、そのような賃金格差を利用するだけではなく、業務プロセスの統廃合を行って業務効率を向上させるBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を併用することも重要です。
アナリティクスBPO=データ分析業務のBPO
本稿で解説している「アナリティクスBPO」は、データ分析業務のBPOです。従って、このサービスを提供する企業は、以下の3つの条件を満たしていることが求められます。
- 高度なアナリティクス(データ分析)機能を保有している
- そのアナリティクス機能を、他企業よりも低コストで実施できる
- さらに、そのアナリティクス機能を「多くの企業に」同時並行的に提供できる
1,2は前述の通りですが、3も重要な要素です。特定の1社だけの仕事を受けていっぱいいっぱいだと「アウトソーシング事業」として成立しません。それは(資本関係の有無は査定おいて)「機能子会社」とでも呼ばれるべき存在でしょう。
ディシジョン・サイエンティスト集団「ミューシグマ」
このアナリティクスBPOを提供する企業の代表格は、インドの「ミューシグマ」社です。
2015年9月時点で、3,600人の理系人材を抱えています*。彼らは世界のトップ大学・大学院をでた優秀な”頭脳”を持った人材です。これらの人材が、日本や欧米諸国と比べると低コストで分析業務にあたるという「オフショア型」のメリットを生かしたサービス展開が特徴です。数千人規模の人員を抱えた、いわゆる「労働集約型」のアウトソーシングになっているわけですね。
とはいえ、トップ人材を大量に雇用しているわけですから、人件費の安さだけで勝負しているということではなく、業務プロセスの整理や分析ソリューションの開発等にも注力しているのは想像に難くありません。さらにミューシグマは、それらのトップ人材を「データ・サイエンティスト」ではなく「ディシジョン・サイエンティスト」と位置付けて、企業の ”意思決定(ディシジョン)” をデータによって経営判断を支援するために1年半の研修で鍛え上げることで、高品質なサービスを維持しています。
ギックスの考える「アナリティクスBPO」
一方、日本国内に目を移してみると、私の所属する株式会社ギックスも「アナリティクスBPO」カンパニーと位置付けられます。
しかしながら、ギックスでは、ミューシグマのような数千人の人材を抱える、というタイプの「人的リソースの多さ」によって労働集約的に業務運営を行うというアプローチを取っていません。また、今後も、そちらの方向に進むこともありません。
ギックスの特徴は、”徹底的な仕組み化・プロセス整流化” による分析業務の効率向上です。そもそも、ギックスは、その出自が戦略コンサルティング・サービスにありますので、そのコアである「考える仕事」に注力するためには、相対的にノンコアに位置づけられる「分析する作業」を効率化する必要性に迫られていました。その結果、効率的なやり方でありつつ、スピードを犠牲にしない(むしろ早い)分析業務を開発することとなりました。(この分析手法・分析プロセスに関しては、既に特許を取得しています。)
関連記事:日経ビッグデータ2016年2月号に、ギックスの特許戦略に関する記事が掲載されました
この「自社の戦略コンサルティング・サービスを支えるために開発した高効率なデータ分析手法・プロセス」を他社のデータ分析業務にも適用する、ということが、結果的に「アナリティクスBPO」というサービスに分類されることとなったわけです。
アプローチは大きく異なりますが、目指すところは、ミューシグマと非常に似ています。実際に、ミューシグマの言うところの「経営の意思決定指南」を、ギックスでは、「チームCAO(Chief Analytics Officer)」という名称で、CAOの業務をサポートするサービスとして提供しています。
今後の流れ
データ分析、データ活用は、今後ますます隆盛を極めることが予測されます。データ分析が企業経営に与えるインパクトは、IoTをはじめとするインプット情報の増加によってどんどん大きくなっていきます。その状況に鑑みると、アナリティクスBPOを標榜する企業が増加してくるのは必然です。しかしながら、アウトソーシングは、そのサービスを提供する側の企業がサービス品質を高めていくことが前提ではあるものの、委託先を選ぶクライアント企業の”審美眼”も試されます。クライアント企業がパートナーを選定する際に、「単なる分析業務を代行する企業」に委託するのか、「分析結果(OUTPUT)から成果(OUTCOME)を生み出す部分まで支援できる企業」に委託するのかは、非常に大きな分岐点となると思います。(関連記事:OUTPUTとOUTCOME)
アナリティクス(データ分析)は、「非常にコアに近い、ノンコア業務」です。それを、どのようにして効率的且つ高品質に実現するかは、全ての企業における重要な経営課題となってきますので、自社内で行うにせよ、外部を活用するにせよ、非常に戦略的な意思決定が求められるのは間違いないでしょう。
(脚注)*:参考文献|日経ビジネス 2015年9月28日号「インド人CEO 世界を制す」