第八戦:vs 吉岡道場門弟 (第3巻より):力試しは”全力で”やるから意味がある|バガボンドを勝手に読み解く

AUTHOR :  田中 耕比古

トーナメント方式では「1位」しか決められない

この連載では、バガボンドの主人公、宮本武蔵の”戦闘”シーンを抜き出し、武蔵の成長について読み解いていきます。連載第8回の今回は、吉岡道場に道場破りに入った武蔵と、吉岡一門の門弟たちとの戦いです。

バガボンド(3)(モーニングKC)

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4年の武者修行を経た「宮本武蔵」の初戦

前回、沢庵から「宮本村の新免武蔵(しんめんたけぞう)」という名を捨て、「宮本武蔵(みやもとむさし)」と名乗るとよい、と言われた武蔵(むさし)が、「作州浪人 宮本武蔵」として、京都の名門剣道場「吉岡道場」に殴りこみます。21歳です。

先代当主「吉岡拳法」の名を掲げた道場に、ひとり乗り込んだ武蔵は、門弟たちをガンガンなぎ倒します。

描写もないまま3人を打倒し、続いて向かってきた千原という名の男は3ページの間一方的に打ち込んでくるものの

これは・・・何の稽古だ?

遅い

これは試合じゃないのか? 木剣とはいえ命を落とすことだってあるはずの・・・真剣勝負では?

スキだらけだが・・・打ってもいいんだろうか・・・

という感想を抱きながら、一撃で打ち殺してしまいます。

これで、さすがに空気が変わり、道場内で一目置かれる 高階 がでてきます。

真剣勝負で一瞬油断した 相手を軽く見た慢心が死を招いたのだ

失礼した 宮本氏(みやもとうじ) 武士として 全身全霊でお相手するのが礼儀と心得る

たとえお命を絶つことになろうとも

おお、なんか河童みたいな髪型だけど、きっと強いんだろうな、と読者にも(武蔵にも)思わせた 高階が、ジリジリと間合いを詰めてくるわけですが

あの・・・ もう 打ってもいいのかな?

という一言ののち、またも一撃で打倒します。合計5人。

これで、武蔵は確信します。

やれる やれる・・・!!

吉岡にも 俺の剣は通用する!!

俺の剣は 天下に通じるぞ!!

と。

目指すは頂点!当主、吉岡清十郎のみ

武蔵は、最強の相手=当主の吉岡清十郎しか興味がありません。あとは「その他」です。

道場に乗り込むなり「吉岡清十郎殿と試合いたい」と言います。吉岡の高弟(位の高い弟子)である 植田良平 に 「まずこの門弟たちと手合わせ願いたい 清十郎先生と試合うには それなりの腕があるところを見せていただかなければ」「腕が立つとなれば 高弟の一人 この植田がお相手しましょう」とあしらわれます。当たり前ですよね。

で、まぁ最強と名高い吉岡道場。植田は「死体の引き取り手はおありか?」と問うわけですが、武蔵はこう切り返します。

あんたを倒せば 清十郎殿と試合できるんだな? 植田さん

いやー、わらっちゃうよね。って感じです。しかし、武蔵は大まじめです。ふざけてるわけではありません。この「目標・目的に対してブレない姿勢」というのは、我々も見習いたいところですね。普通なら「無謀」と笑われることを、臆面もなく貫き通すのは、半端なことではありません。(実際、めし屋の親父に「天下一の吉岡道場に木剣1本さしてのこのこのりこんでいくという あんたが妙にこっけいにすら見える・・・」と言われてます)

× 強くなりたい 〇 自分がいかほどか知りたい

武蔵が吉岡道場に殴りこんだ目的は「修行」ではありません。「力試し」です。前回からの4年間については、特に描写はありませんが、武蔵は徹底的に修行を続けてきていたはずです。そして、自分がいかほどのモノかを知るために、京都にやってきたのです。

こういうときに、普通の人なら「トーナメント方式」を考えます。手ごろな敵から順番に倒していき、決勝戦で最強の敵と戦う、という順番です。

バガボンドの作者である井上雄彦さんの名作「スラムダンク」において、インターハイの2回戦で「最強 山王工業」と戦うのは、(大人の事情はさて置いて)なかなかぶっとんだストーリー構成だなと思ったものですが、正直な話をすると「トーナメントにおける準優勝」は「2番目に強い」を意味しないんですよね。「うっちゃれ五所瓦」という なかいま強 さんの相撲マンガの主人公五所瓦は、インターハイ優勝のライバルと、地区予選の1-2回戦で常にあたってしまうクジ運の悪さによって、まったく知名度がありません。しかし、彼は「全国2位相当」なんです。でも、トーナメント方式だと、これはわかりません。

話が大きく脱線しましたが、結局のところ、自分の本当の強さを知るには「最強の敵と戦って、そことの力量の差を知る」ことしかないんです。たとえ負けたとしても。

武蔵の場合は、命を賭していますので、敗北=死 ですから、相当な覚悟がないとできません。しかし、僕たちのようなビジネス領域の人間としては、負けても命まで取られるわけじゃないんですよね。せいぜい、プライドを折られるくらいのことです。どうせ戦うのならば、最初から、最高峰を目指しましょう。中途半端な山を登って満足するよりは、高い山にトライして、高山病になってリタイアし、リベンジを期する方が健全だと思うんですよね。

さて、露払いは終わりました。次回以降は、頂点を目指す武蔵と、頂点にほど近い存在である「吉岡一門の上層部」との戦いについて触れていきますよ!

 

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