CAO(Chief Analytics Officer)とは:経営とデータを密接につなぐ存在|戦略用語を考える

AUTHOR :  田中 耕比古

最高アナリティクス責任者は”データ分析”で経営を改革する

CxO研究シリーズの中でも、個別のCxOを深掘りしていく本連載。栄えある第1回は「CAO=Chief Analytics Officer=最高アナリティクス責任者」について考察します。

CxOってなに?

CxOに関する解説はコチラをご参照いただきたいのですが、一言で言うと「”x”に入るアルファベットで表される専門領域・スペシャリティで、経営課題を解決する人」のことです。CMOなら”マーケティング”で経営課題を解決し、CIOなら”インフォメーション=情報システム”で経営課題を解決する、というわけです。

再掲:CxOとは

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じゃぁ、CAOって?

この文脈で考えれば、「CAO」の定義は「”アナリティクス≒データ分析”で、経営課題を解決する人」となりますね。

まぁ、そうなると、今度は「アナリティクス」というものがなにものなのか気になるところなんですが、とりあえず、今日のところは「データ分析」としておいてください。(別途、解説します)

CAOの役割は、データを”課題”と絡めて活用すること

さて、ようやく本題です。CAOが「”アナリティクス≒データ分析”で、経営課題を解決する人」なのは分かったとして、具体的に、何のために、どんなことをしてくれる人なんでしょうか?

一言でいえば「データを”経営課題”と絡めて、上手に活用する」ことなんですが、具体的には3つに大別できると僕は思っています(し、弊社=ギックスでも、そのように定義しています。まぁ、そのうち変わるかもしれませんけど(笑))

その3つとは

  1. データを用いて、経営課題を解決すること
  2. データ分析から、経営課題を発見すること
  3. 上記2点のために、過不足が無いデータ活用の方針を策定し、基盤を設計すること

です。

what_is_CxO_004

 

CAOは、あくまでも”経営者”であるべき

1.データを用いた経営課題の解決

まず、もっとも分かりやすく、もっとも実行する機会が多いであろう役割は「与えられた経営課題を、データによって、どうやって解決するかを考える」というものです。〇〇部門の売上が不振である、新商品の立ち上がりが思ったよりも遅い、一部地域で品薄状態が発生しているものの全国的な在庫は十分にある(在庫偏在を解消したい)、などの経営上の課題があがってきた場合に、「どういうデータを使って、どういう解決を図るか」を考えるわけですね。

具体的には、

  • 手元のデータでどんな分析ができるか(もちろん、やる意味があるか、は実行前に考えるんですけれども)
  • その分析をやった結果、どんな示唆がでたか
  • その示唆に鑑みて、どういう打ち手があるか
  • その打ち手の効果として、どういうものが期待できるかを明確化
  • その打ち手を実行すべき人=自分以外のCxOに提案する

と言う流れになります。尚、分析はCAOの業務範囲なのですが、多くの場合、最後の”打ち手”は「CAOではない誰か(CMOやCIOなど)」の領域になります。(これは、縁の下の力持ちCxOと花形CxOという概念で説明できますので、関連記事をご参照ください。)

この役割は、CAOの果たすべきもののなかで、一番メジャーです。しかし、これをやっただけで満足していては、CAOとは呼べません。(せいぜい、データ分析部長、ですね)

2.データ分析による経営課題の発見

CAOとして経営改革を行うのに欠かせない役割が「データから課題を見つけ出す」というものです。これは、先ほどの課題解決に比べると、頻度も少なく、表立って依頼されることが無い役割です。しかし、これこそが”経営者”としてのCAOが果たさねばならないものです。

例えば、社内のデータ分析結果を日々眺めていると、なんらかの”変化”に気づくことがあります。そこで、その”変化への気づき”を軸にして、仮説を構築し、仮説を検証していくことになります。これは「自発的な活動」です。これこそ、経営者として求められているものです。経営者は「誰かの設定した問いに答える」ことでは決して満足せず、「答えるべき問いを、みずから設定していく」べきなのです。

このマインドセットをもってCAOの役割をこなしていくと、「1.課題解決」に取り組んでいる際にも、「問いが違うのではないか」と気づくことができます。具体的には・・・

  • 売上増進を目指していたが、分析の結果、中長期的な利益確保には、コスト削減が必要であることが分かった
  • 新規客獲得をターゲットにして活動していたが、それと並行して行うべき、既存客へのリテンション策がおろそかになっていたことが判明した
  • コスト削減に取り組んでいたが、小さな費目を削ることに終始しており、削減効果の大きい費用には”聖域”として踏み込んでいないことが分かった

などが考えられます。これらの「答えるべき問いの設定ミス」をデータに基づいて見極めていくことも、CAOの重要な責務です。

3.過不足のないデータ活用基盤の設計

CAOが上記2つの役割を果たしていく中で、情報の過不足を見極めて、そのギャップを埋めるべく活動することが求められます。すなわち「過不足のないデータ活用基盤の設計」ということになります。”データ活用基盤” の ”設計” という表現をしましたが、順に解説します。

まず、”データ活用基盤” ですが、必ずしも、システムやツールだとは限りません。例えば、各種情報を蓄積しておく物理的な場所(ファイルサーバー)なども考えられますし、もっともっとシステムから外れた世界では、マーケティングリサーチのインタビュー項目の設計プロセスなども「後から、データを統合的に活用するための基盤」だと言えます。この「あとでデータ分析する前提で、データ活用基盤を考える」ということができていないために、多くの企業で、多くのデータが塩漬けになってしまっているわけですね。

続いて、”設計” ですが、構築・運用を担当するのがCAOとは限らないため、設計と表現しています。例えば、システムであればCIOの領域になることが考えられますし、マーケティングリサーチであればCMOなどが担当することもあります。しかし、それらの「思想的な統一」「整合性の確保」は、分析という観点でCAOが音頭を取って(無理であれば、せめて、全体の調整を行って)いくべきです。なぜならば、それらのシステムやリサーチ結果を実際に使って、データ分析のアウトプットとして企業価値向上につなげていくのは、他でもないCAOの責務だからです。

これらがきちんと整備されれば、既に社内に存在しているデータを取得するためにコストが発生したり、実は必要ではないデータを購入・取得してしまったり、ということがなくなります。目的に合わせて、どういうデータが必要なのかを見極めるプロセスが確立され、さらに、それが社内にあるのかないのかをCAOが常に把握できるからです。

CAOが定着するとき、データ分析は企業経営を変える

データ分析は、所詮は”手段”に過ぎません。その”目的”である「課題解決」「課題検知」を念頭に置いて、そのために、どういう「データ活用の方針があるべきか」を考えられる人が、CAOです。こういう「CAO」が世の中にしっかりと根付いた時、初めて、うわっつらだけのキレイごとではなく、本当の意味でデータを活用した企業経営が実現されるのだろうと、僕は思います。そういう時代が一日も早く訪れると素敵ですよね!

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