普通に読むと普通の本。ガチで読むと”ちょっと違う世界”が見える。
本日は、ガンプラ、すなわちガンダムのプラモデルの企画設計を行った松本悟さんの著書「ガンプラ開発者が語るニュータイプ仕事術」をご紹介します。
仕事術は、普通の自己啓発本
率直なことを言うと、仕事術としての内容は、普通の自己啓発本です。ホワイトカラーで5-6年仕事をしていると、自己啓発本の1冊や2冊は手に取ったことがあると思いますので、そういう人にとっては、特に目新しい情報はないでしょう。
そもそも、自己啓発本という領域は、完全に開拓されつくしています。自己啓発本の神様ともいうべき中谷彰宏さんは数百冊の自己啓発本を出しています。ちょっと前には年齢別シリーズが一世を風靡しましたね。後は、物語風のものも沢山出ましたし、以前、ご紹介した「夢をかなえるゾウ」や、「夢をかなえるゾウ3」などもあります。どれだけシリーズ化しようと、人間の生き方なんて、そんなにたくさん種類があるわけではないので、表現方法が違えど、だいたい同じことが書いてあります。
ですので、本書も、仕事術という意味では、似たような内容になってしまうのは、仕方のないことだと思います。
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しかし、ガンダム世代にはビビッとくるハズ
一方で、その「当たり前の内容」を裏打ちするエピソードは、非常に面白いです。
たとえば、ガンダムのサイズが18mという設定を、他のロボットキャラのプラモデルで使う「三オンスの金型」にサイズを合わせると、ちょうど1/144スケールになった。価格ありきで設定したら、ちょうど、国際規格のスケールで空想上のロボットのプラモデルを作ることができるようになった。というエピソードは、ググっときます。(※但し、この話は、仕事術には直結しません)
あるいは、業界では「本物」を確かめた上で設計するのが王道だが、アニメをプラモ化する際にはそれが出来ないので「リアルな設定」を先に作るところから始めることで、商品に対する厚みが増し、ユーザーに対する説得力も生まれる、という話も素敵です。(※この話も、仕事術には直結しません。)
また、当初は、顔をしっかり描かないとキャラクターの区別なども難しいため、6~7頭身程度になるのが普通だった。しかし、最近は見た目を重視して頭を小さくしている。下から見上げたようなイメージ(つまり、遠近感がある)で、アクティブな印象を持たせることができるからだ。それもあって、「あるシーンでの一番格好いいポーズの頭と足のバランス」をベースにして、それを再現して商品化することも多い、という話も、「ガンダムというアニメ」に忠実でありつつも、そこから切り離した三次元モデルとして成立させるための工夫が強く感じられて最高です。(※残念ながら、この話も、仕事術には直結しません。)
平面 → 立体 の壁を超えろ
これらの「凄い面白い!」ポイントは、二次元で表現されたものを、三次元に起こす、というところにあります。二次元平面上では、様々な矛盾を抱えていても「見た目上は完璧」に整えることができます。
例えば、岸本斉史さんの「NARUTO」は、圧倒的な画力で、敢えてパースを崩して表現する、と言われますよね。こんな感じ。
2chまとめサイトより引用: http://orenomanngasokuhou.blog.fc2.com/?no=1135
これ、このまま立体化するのって大変ですよね。ぐにゃーってなります。あるいは、有名なエッシャーの絵とかだと、パース狂いどころか、空間そのものををゆがめてますよね。(ご興味のある方は、NAVERまとめとかでチェックしてください) そういうのを立体化(三次元化)することは不可能です。(正確には、ある角度から見た場合に限って絵と”同じに見える”ようにしか、立体化できません)
この壁を如何にして越えたのか、というところが、この本の一番の読みどころだと僕は思います。
目指すゴールを、ちゃんと定められるかどうか
これって、結局は、何をゴールにするかの問題なんですよね。例えば、「立体化に際して、事前に設定を決める」という部分に注目したとします。でも、「設定を決めきる」って、目的じゃなくてあくまでも手段なんですよ。
- 徹底的に設定を詰め切る
- それを立体化する
という手順を踏む場合、2.の立体化ステップで何らかの齟齬が出た場合、どちらを優先するか。それは「立体化」なんですよね。
だから、徐々に「格好良さを重視して、頭部を小さくしていく」というようなアレンジが可能になるわけです。ゴールはあくまでも「立体として、イケてるものを作り上げられるか?(そして、それがちゃんと市場に受け入れられて売れるのか)」なのです。
アイデアを具現化するときに、アイデアに縛られすぎて具現化できないとか、アイデアに固執するあまり実用性が犠牲になるとか、そういうのって”本末転倒”ですよね。現実を見るってめちゃ大事です。
(余談ですが、この辺りの話は、本書の著者である松本悟さんと仲吉昭治さんとの共著である「俺たちのガンダム・ビジネス」でもしっかり語られていますので、ご興味のある方はご一読されると宜しいかと思います。ただ、この2冊は、同じ人の同じエピソードを扱っているわりには、なんだか内容に齟齬があるような気がしてならないのですけれども。笑)
原点回帰の重要性を知ろう
ということで、僕の中では「二次元を三次元に持ってきた苦労話」だけでお腹いっぱいなのですが、さらに、もう一点、本書の中で特筆すべき点を挙げるとすれば、この部分だと思います。(最終ページくらいです)
『ジ・オリジン』は『機動戦士ガンダム』のリメイクの内容になっている。『機動戦士ガンダム』の世界観を今の解釈でやったらこうなる、という世界になっているのだ。この内容を、視聴者がどう受け止めるか。こえrがもし成功しないと、「ガンダム」は終わりだろう。
ただ、私はこの流れはとてもいいと思っている。(中略)『ジ・オリジン』に変えることで、また自由なスタンスが生まれるかもしれない。いい意味で原点、定番はきちんと守るということがどこかにないといけない。
『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』まで来てしまうと、ドラマとして行きつくところに行ってしまったということもある。それでたまたま、『ジ・オリジン』は10年前ぐらいから連載をしていたのだが、そうやって地道にやっていた「『ジ・オリジン』をやろう」と言ったときに、反対というよりも、「ああ、『ジ・オリジン』いいよね」という話が出た。これはサンライズにとってもいいことだと思っている。
(中略)
原点回帰はときとして重要だ。それこそ、長く続けているものであればなおさら振り返る瞬間はあってしかるべきだろう。
これ、長い期間、同じ仕事に携わってる人は、自分に問いかけたほうがいいです。(長い、の定義は微妙ですが、5-6年似たようなことやってたら、一回問うてみるべきだと思いますね。)
以前、守破離の話をしましたが、「離」に到達したタイミングで、「”離れる”ために、もう一度【型】について考える」必要があるんです。例えば、和食の料理人がフレンチフュージョンに進む、という「離」を選択した場合も「人が食べるものを作る」というところからは離れませんよね。(もちろん、和食の料理人が和の技法を最大限に活用したドッグフードを作りたい、なんて場合には、「人が」の部分から離れるかもしれませんけども)
型から離れるということは、何は「守る」かを決める事でもあるんですね。非常に長い間、ガンダムに携わってきた松本氏の「原点回帰」という言葉は、とても重みがあります。ガンダムオリジン、敢えて近づいてないのですが、やっぱり読もうかなー・・・。