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マネジメントの成功の鍵は、己の行動規範を理解することだ
本日は、第4章、ヘンリー・ミンツバーグ氏の古典と呼ぶべき名論文「マネジャーの仕事(1975年発表)|ページ数:38p」を読んでみましょう。
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ヘンリー・ミンツバーグはマネジメントの権威
ヘンリー・ミンツバーグといえば「戦略サファリ」です。この本は、ポーターの「競争の戦略」、コトラーの「マーケティング・マネジメント」と並ぶ、”3大さっさと電子書籍化すべき本”だと思うんですよね。
それはさておき、今回紹介するミンツバーグ氏の論文「マネジャーの仕事|The Manager’s Job: Folklore and Fact」は、1975年度マッキンゼー賞を受賞しています。そして、ミンツバーグ氏は、前回ご紹介したドラッカーと並び称される”マネジメントの権威”です。ということで、彼の語るマネジャー論をしっかりと読み解いていきましょう。
注:ここでいう「マネジャー」は、誰かの指示に従いつつ部下を管理する中間管理職ではなく、経営者もしくは、経営に直結する意思決定を行うもの、です。役職が経営者であるかどうかではなく、自己の判断で組織を運営する人のこと、と理解すると良いと思います。要するに、部下3人の係長でも”マネジャー”になりえますし、上場企業の役員でも”マネジャー”ではない、というケースもあると思うんですよね。
マネジャーの仕事は計画・組織・調整・統制・・・ではない!
本論文の冒頭で、ミンツバーグ氏は「マネジメントは、計画・組織・調整・統制の4つの言葉に縛られてきた」と断言します。そして、それらは、まったく実態に即していない、と。
本稿の意図は簡単である。読者をファヨールの4つ単語から引き離し、もっと根拠のある、そしてもっと役に立つマネジャーの仕事の説明に案内することである。
マネジメント業務についての4つの神話
ミンツバーグ氏は、マネジメントに関する4つの伝説を述べます。そして、これらすべてに対して反論します。要約して引用します。
- マネジャーは内省的で論理的、そして計画を軸に考える →マネジャーの行動は、簡略・多様・不連続で、常に判断を伴った”行動”につながっている
- マネジャーは、職分(明確な担当業務)を持たない →顧客折衝は重要なCEOの業務
- マネジャーの求める情報は、情報システムによって獲得できる →電話・会議を重視する
- マネジメントは科学であり、専門的職業である →マネジメントは暗黙知だ
まず、3以外は、40年たった現在でも、なんら色褪せない真実ですね。昨日書いたと言われても、頷けます。3に関しては、さすがに「1975年当時の情報システムは今と比べ物にならない簡素なものだった」という側面は否めませんが、だとしても、現状も多くのシステムが効果的には使われていない、という事実は揺らぎません。
マネジャーの10個のロール
では、マネジャーの仕事とはなんでしょうか?ミンツバーグ氏は、マネジャーには10個の役割があると定義します。それぞれについて、要約します。(詳細は、是非、原典に当たっていただきたく)
対人関係における役割(3つ)
- 看板的役割:社外・社内問わず、対人関係の”看板”として振る舞う。意思決定は必要ないが重要な役割
- リーダー的役割:直接的にはスタッフの採用・訓練をおこなったり、間接的には部下の方向付け・モチベートする
- リエゾン的役割:直接的に管理する若しくは自分が所属する組織の”外”とのコミュニケーションを担当する
情報における役割(3つ)
- 監視者としての役割:常に情報を求めて、動き回る。その情報の大半は口頭で収集され、ゴシップ・噂・憶測が多い
- 散布者としての役割:部下に必要な情報を渡すのみならず、部下間の情報の橋渡しも担う
- スポークスマンとしての役割:講演などで外部に発信したり、上長に対して必要な情報を提供する
意思決定における役割(4つ)
- 企業家としての役割:変化に対応するために、組織を改善する。それにより、複数のプロジェクトを並列的に推進する
- 妨害排除者としての役割:圧力に対処する。内的・外的に依らず、推進への障害は常に発生しうる
- 資源配分者としての役割:自信の時間を含む”資源”を最適に配分する。多くは、複雑な状況を踏まえて”認可”を与えるということになる
- 交渉者としての役割:保有している情報量と資源配分の権限により、交渉に適しており、その責務を果たす必要がある
こうしてみると、確かに「計画」「調整」「組織」「統制」という感じではないですね。場当たり的だとまでは言いませんが、かなりアドホックな仕事のやり方になってります。また、この10個の役割は、独立しているわけではなく、全てを統合的にこなす必要がある、とミンツバーグ氏は説きます。どれか一つをやめてしまうと、残りの役割にも影響が出る、と。
一言で言うと
どのケースを取り上げてみても、対人関係、情報、意思決定の役割が、分離不可能なことは変わらない。
となります。
効果的なマネジメントのために
それらを踏まえ、「効果的なマネジメント」を行うための3つの方策が提起されます。抜粋して、引用します。
- マネジャーは自分が所有する情報を分かち合う、系統だったシステムを確立するよう、求められている
- ここで再びマネジャーは、表面的な仕事に追いやろうとするプレッシャーを意識的に克服するために、真に関心を払うべき問題に真剣に取り組み、断片的な具体的情報ではなく、幅広い状況を視野に収め、さらにまた分析的なインプットを活用するよう求められる。
- マネジャーは義務を利点に変え、やりたいことを義務に変えることによって、自分の時間を自由にコントロールできるように求められている
つまり、「情報をシェアすることに努める」「専門的なアナリストを情報収集の鍵とする」「義務的な仕事を”チャンスと捉え”、やりたいことを”スケジュールに組み込む”」ということです。
最後の一つは重要ですね。”やりたいこと、興味のあること”を「仕事」として定義し、成立させてしまうわけです。経営者(マネジャー)は自由度が高い、のですが、それって「ヒマだから、自由になる時間が多い」ってことじゃなくて「やりたいことを、仕事にしてしまう自由がある」ということなんです。経営者はめちゃめちゃ働いていて週末も関係ない、ということと、経営者が自由だ、ということは両立し得るってことです。
尚、本論文の最後に収録された、マネジャーのための自習問題、は、なかなか含蓄深いです。経営者(マネジャー)の方には、是非ご一読いただきたいですね。
雑感:今も昔も「使われない」システム
本論考の中で何度も述べましたが、本書の内容は、40年たった今も、なんら色褪せることがありません。今も同じ状態なんですよね。これと、似たような感覚を、最近、人月の神話を再読して感じました。システムに関しても、経営に関しても、本質的には何も変わらないのかもしれません。
さて、本論文の中でミンツバーグ氏の言う「強大な情報システムが機能していない。マネジャーがそれを使おうとしない」ということは、システムが進化した現在でも同じ状況です。引用します。
マネジャーは、自分の自由になる五つのメディア、書類と電話、予定された会議と予定外の会議、そして現場の監視を駆使して指令を発するのだ。
この40年で、ここに電子メールという強力な武器が追加されていますが、まぁ、書類と電話が高度化した程度と考えるのが良いでしょう。もちろん、情報ポータルだの、社内SNSだのといういろんなものがありますが、本当に活用されているかというと疑問が残ります。
しかし、情報があって困るということはありません。結局は「誰のための、何のためのシステムなの?」という話です。経営者(マネジャー)が”意思決定”をするために必要な情報を、しっかりと受け取ることは非常に重要です。定性的な情報は、電子メール、電話、会議、現場の監視などで得ていくべきでしょう。しかし、定量的な情報は「使える情報システム」があるに越したことは無いでしょう。
実際、弊社も「意思決定に使えるレポート」ということを目指して、”データビジュアライズサービス:graffe/グラーフ”というものを提供しています。システムを作ることが目的ではなく、システムを使って価値を出す事が重要だ、という大前提を忘れなければ、「使える情報システム」が実現されるのかもしれません。(関連記事:OUTPUTとOUTCOME)
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