文書は「みんなのため」に必要です
本章は、6章”命令を伝える”、7章”バベルの塔は、なぜ失敗に終わったか?”において、プロジェクト成功の重要な要素として取り上げられた「文書」に関するお話です。
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ドキュメントは取るに足らないものだと思われがち
「文書(ドキュメント)にまとめて」というと、大抵のひとは「面倒くさそうな対応」をします。例えば、議事録を作るとか、討議に使ったホワイトボードをパワーポイントに焼き直す、などをイメージしていただければ分かりやすいと思います。ね。面倒くさいでしょ?(笑)
しかし、こういう面倒くさいところに、”本質”が潜んでいます。実際、優秀なコンサルタントは大抵「ドキュメント作成のプロ」です。これは「考える」ということと「書く」ということが密接な関係にあるからなのです。
書かれない思考は、思考ではない
「書かれない思考は、思考ではない」という名言があります。(関連記事:クリスタライズの手順)
多くの方は「考えている」というときに、考えていません。頭のCPUの30%くらいはその事象のために使ってるかもしれませんが、残りのの70%くらいは別のこと(夕食のおかずとか、昨夜の飲み会とか)に使っています。
しかし、書くという作業をすることで、例えば、【30%:考える + 20%:言語化する + 20%:手を使って書き記す + 30%:書かれたものを客観視して思考を深める】という具合に、リソースの大半(この例では100%)を「その事象」に注ぎ込むことができます。これは、非常に重要です。
ブルックス氏も、文書を作成することが重要である3つの理由を上げる際に、ひとつめに、その「書くことで、情報を客観視できること」を上げています。
また、文書という形式にまとめることで、他の人が「読んで理解する」ことができますので、コミュニケーションの効率も精度も向上します。さらに、自分自身の道標・ガイドとして、作成した文書を用いる事で、計画通りに進捗させる効果も期待できます
文書の種類はどうなってるの?
ブルックス氏は、そんな重要な「文書」にはどのようなものがあるかを、3つのシチュエーション(コンピュータ製品、大学の学部、ソフトウェアプロジェクト)を想定して具体的に列挙することで、一般法則を見出そうとします。
結論から言えば、一般法則は存在します。そもそも、項目が非常に近しくなります。さらに、「まず”目的”が明確化されねばならない」「予算とスケジュールは必須」「コミュニケーションプランが組織という形で定義されねばならない」などでしょう。
データ活用に関する”重要な示唆”もある
なお、本章のなかで「文書の重要性」の皮を被りつつ、実際には「経営層におけるデータ活用の肝」を説いている一説がありますので、そちらを引用します。
重役の時間のうちで、自分の頭の中に無い情報を必要とする仕事に割かれるのは、ごくわずかな部分、おそらく20パーセント程度しかない(中略)。残りの時間は、諮問や報告、指導や勧告、それに協議や奨励などのコミュニケーションに使われる。しかし、少しでもデータに基づいている場合では、一握りの重要な文書こそが不可欠であり、殆どすべてのニーズを満たすのだ。
つまり、重役は、
- 大抵の物事(8割くらい)を、頭の中に入っている情報(知識・経験則)だけで処理できる
- 残り2割の仕事も、そのほとんどがコミュニケーションする、という仕事であり、データなどは基本的に不要
- ただ、何らかのデータ(あるいは情報)が必要になった瞬間に「文書」によってカバーする必要がある
ということです。
これは、システム開発におけるインプット情報としての話に限らず、経営・ビジネスに関する話と読み替えても良いと僕は思います。「勘と経験」というものに対して否定的なことを述べる人もいらっしゃいますが、世の中には経験則というものが厳然として存在します。そして、大抵の場合、その経験則に従って行動すれば物事はうまくいきます。ただ、その経験則も「きちんとデータで検証されるべき」であったり、「最新情報に更新されるべき」であったりすると思うのです。
勘と経験が悪いのではありません。勘と経験を最新化しないことが問題なのです。そしてそれは、現場を離れて管理職・経営者となった後には「データを用いて最新化するしか選択肢がない」のです。本章で論じられた3つのシチュエーションには含まれていませんが、「経営」というシチュエーションにおける「文書」には経営分析レポート・事業分析レポートなどが含まれていてしかるべきだ、ということになるでしょうね。(関連記事:「知るべきこと」に手が届く”意思決定”に使えるレポート)
実は、この章は、たった5ページしかないのですが、それでも、いろいろと示唆深いものがあります。ご自身の経験と照らし合わせながら読んでいただくと、得るものが非常に多いと思いますよ。
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