あなたはそのアイデアに気づけるか
-ヒット商品を生むフレームワーク-
「どのようにしたらヒット商品を生むことができるのか」。残念ながら確実にヒット商品を開発する手法は存在しないが、“気づき”を促すフレームワークを活用することによってヒットする確率を上げることは可能である。商品開発・マーケティングは深く広い領域であるが、本稿では商品開発プロセスの源流となる「アイデア発想」につながる“気づき”に的を絞って、その手法を解説する。
(2008年秋東洋経済THINK!記事)
アイデア発想力=“気づき”力を高めるコツ
アイデア発想のプロセスは理解いただけたと思うが、慣れるまでには試行錯誤が必要だ。アイデア発想のフレームワークを活用し続けていくために、前提として知っておいたほうがよいもの、より発想しやすくなる取り組み例などを紹介する。
何はともあれ仮説思考
「顧客の声を聞け」。古今問わず有効な手法であるが、近年ではいきなり“声”を聞いても求める答えは出てこない。確かに顧客調査手法は進化しており、顧客インサイトを探りやすくなっているが、仮説なくしていきなり顧客調査を実施しても、望んだ結果は得られない。最近はブログやフリー百科事典『Wikipedia』などによる情報量の増加、そしてインターネット検索エンジンによる検索技術の向上により、消費者の情報の同質化が進み、同じような意見しか出てこないことが多い。また、グループインタビュー慣れした消費者も増加している。意図的にメーカー側が喜ぶ好意的な意見や、優等生的な意見を発言し、担当者を喜ばせてくれるが、本音ではないため、その後のアイデア創出にはあまり役に立たないことも多い。
まずは粗くてもよいのでアイデア発想で仮説を立案し、顧客の声を聞きながら検証し、再度アイデアをブラッシュアップするプロセスを実践してほしい。
4Pの制約を無視する
アイデア発想の際には「制約」があるほうが考えやすいと書いたが、マーケティング4P(Product、Price、Place、Promotion)に関しては、完全に制約をかけないでほしい。
Product:(ケースでも触れたが)“うちの会社は××屋だから”という考え。「セット売り」「Co-ブランド」など、アイデア発想の際には業種の壁を取り払ってアイデアを発想してほしい。アパレル企業でも、車メーカーとコラボレーションして「セット売り」も全くないわけではない。
Price:既存商品の価格帯にこだわる企業が多い。「自分の会社は数百円の消費財を作るメーカーだから数万円の高額品は無理」といった固定観念で制約をかけてしまうケースだ。ユニクロでも2000~3000円の商品だけではなく、カシミヤ商品などでは1万円近くするものもある。「絶対額が高いか、安いか」ではなく、商品カテゴリ内での「相対価格」に注目してほしい。「低価格」「デチューン」のパターンに一貫性があれば、高額商品を取り扱っても企業文化が混乱することもないはずだ。
Place:チャネルの制約も、アイデア発想の際は無視してほしい。チャネルとセットになることで生まれる新商品のアイデアもある。「ウェブなどのダイレクトチャネルは無理」「デパートに売るのは無理」「コンビニやスーパーとは付き合えない」などチャネルの制約を考えずにアイデアを発想したい。
管理による制約
自分自身を管理するために、制約を与える手段もある(意志が弱い人向け)。
時間管理型:文字通り、考える時間を先に決めてしまうやり方。例えば「1時間考える」と決めたら、ひたすら1時間考える。時間を延長することも禁止にして、ひたすら時間と戦いながら、とにかく1時間考え抜いてアイデアを列挙していく。
結果管理型:もう1つは、出すアイデアの数を決めてしまうやり方。「10個アイデアを考える」と決めたらとにかく10個出す。
結果管理型でも、ある程度は時間を決めたほうが望ましい。私は「30分間で10個」など両者をあわせた「ハイブリッド型」で自分に制約をつけてアイデア発想を行っている。
場所は「会議室」でも、「トイレ」でも、「外出して散歩しながら」でも構わないが、自分でアイデアが発想しやすい環境を見つけてほしい。ただ、「気分が乗ったら発想する」という逃げ道を作るやり方は避けて、時間でも結果でもよいので制約を設けてアイデアを発想する訓練をしてほしい。
とにかく数をこなす
管理による制約を用いる利点は、結果的に数をこなすことにある。とにかく慣れないうちは数をこなしていくしかない。我々コンサルタントも、新人時代は数百枚のスライドを書いても、最終報告書に採用されるスライドは数枚程度しかない。
同様に、有名なデザイナーから聞いた話がある。「若い頃に何千枚と描いてきたから、今は1枚のデザイン画を仕上げるために1枚だけ描けばすむようになっている。若い頃には完成品1枚を仕上げるのに、毎回1000枚は描いた」。
ヒット商品は、1000の商品から3つくらいしかヒットが出ないとされ、よく「千三つ」と言われている。ヒット商品の源流となるアイデアならなおさら数千、数万と考えておく必要がある。1万のアイデアから1つのヒット商品。最初は、とにもかくにも考え続ける。
ヒットの確率を上げるには、とにかく良質なアイデアを量産することが望まれる。本稿で紹介したツールが読者の皆さんの今後のアイデア発想の一助となれば幸いである。