読者の理解力が試される本
本日は、「未来をつくる起業家」をご紹介します。
20人の実例
本書は、20名の起業家にインタビューをした内容をまとめた書籍です。
Gunosyの上場に絡んで話題になった木村氏、同じく上場したgumiにかつて事業売却したiemoの村田氏、ビズリーチの南氏、ランサーズの秋好氏などの「有名起業家」20人の生の声を読むことができます。
インタビューということで、非常にさらっと気軽に、面白く読めます。
基本的な構成
基本的に、インタビューは「創業前の経験」「創業時の思い」「創業直後~資金調達(特にシード期)の苦労話」「会社拡大期の視野の広げ方・支店の持ち方」「(既に経験した人は)イグジットの話」「今後の目標」という感じで進められます。
上記のとおり、質問そのものは、ほぼ同じはずなのですが、事業内容も違えば会社および起業家本人のステージがバラバラなため、いろんなスタンスの、いろんな話がでてきます。
起業を志す人、既に起業した人に限らず、”起業家”という人種になんらかの興味がある人にとって、この20の実例は非常に参考になると思います。
”正解”はどこにもない=自分で考えるしかない
ただ一点、こういう書籍を読む際に、勘違いしがちなことがありますので、ご注意を。
それは「起業における”正解”はどこにもない」ということです。もちろん、本書の中にも”正解”なんてものはありません。引用します。
起業家には正解がありません。出来事を後から振り返って、成功や失敗の理由付けはできますが、事業にはこうしたら必ずうまくいくというセオリーは存在しません。
本書より:NOBOT 小林氏
この一文は、非常に重い真実です。
起業家の成功には「再現性」がないことが多い
会社を経営するということについて、絶対的な正解がありません。これは、多くの方が主張していますが、なぜか、いまひとつ浸透していないように思います。(このあたりに興味のある人は、ぜひ、楠木健氏の「ストーリーとしての競争戦略」を読んでみてください。)
これが浸透しない原因は、かつての「経営者本」が、成功した人の”俺様話”のオンパレードだったことにあるのじゃないかなと感じています。なので「こうやればうまくいく」と主張している人がいて、それが”成功のための正解”だという理解が進んでしまったのではないかと。(いまも、ややそういうタイプの本がありますが・・・)
しかし、10~15年前に雨後の筍の如く書店に並んでいたそれらの「経営者本」の著者(=社長)のビジネスは、果たして現在どういう状況にあるでしょう?もちろん、うまくいっている人もいらっしゃるものの、そうでない方も多いはずです。それはなぜか?理由は2つ考えられます。
- その成功が、単なるラッキーだったから(要は、宝くじに当たったのと同じ)
- 成功後、環境の変化についていけなかったから
この2つの理由を、ばっくり大きく束ねて一言で表現すると「再現性のない成功だったから」ということになります。
シリアル・アントレプレナーは「再現性」を意識している
そう考えると、起業を複数回経験している「シリアル・アントレプレナー」は本当に凄いです。彼らは、成功の確度を上げていく、ということに真剣にトライしているわけです。このあたりの「成功の確度向上=再現性の構築」にしっかりと取り組んでいる方の記述は、非常に参考になります。
ただ、それらも”正解”ではありません。あくまでも、一つの”実例”に過ぎないわけです。
Let’s begin. とにかく何かを始めよう。
本書に書いてあるのがすべて「実例」であるということは、この本から「何かを感じ取る」のは読者自身である、ということになります。本書は、いわゆるノウハウ本とは違いますので、「もっとこうしよう」であるとか「こうしたら良い」であるとかいうガイドをしてはくれません。本書を読む人は「ここから何を得るかを試されている」わけです。
以前、”外資系コンサルタントの企画力”の書籍紹介記事でも述べましたが、こういう「具体的な例」を自らの中に取り込み、実践するためには、一度「概念化」することが求められます。具体例を具体例のまま覚えても、使えません。自分なりに各起業家の述べている内容の”本質”を抽出し、自分なりに理論化しましょう。そして、理論家できたら、少しでも良いので自分自身の状況にあわせて実践しましょう。
本書の内容をどのように解釈するか、その解釈の中から何を吸収し何は(敢えて)吸収しないのか、そして、吸収したものを明日からの仕事にどのように活かすのか。小さいながらもベンチャー企業の創業メンバーである僕にとって、この本を読むこと自体が、先輩起業家の皆さんとの勝負!なんだと思うわけです。明日以降も、気合を入れて何度も読み直し、会社経営そのものの高度化および再現性の確立に向けて、邁進していきたいと思います。