一瞬の間に無限の時間が押し込められている人間(じんかん)
地球の直径は12,756kmですが、1千万分の一に縮小すると127センチほどになります。地球儀とすればずいぶん大きいですが、両手を広げれば収まるほどの大きさです。この縮尺だと、人間は概ね0.2、ミクロン以下、ウィルスは0.05ミクロン程度ですから、ウィルスより少し大きい程度です。
大腸菌は縦横3×1ミクロン程度なので、千万分の1に縮小された人間には、長さ30m、幅10mくらいになり、鯨より大きく見えます。人間と比べれば地球は巨大ですが、人間を地球くらいの大きさにすると、鯨より少し大きな細菌や、人間より小さなウィルスに病気にさせられます。環境破壊は人間がウィルスに冒されているのと同じようなものなのかもしれません。
直径127センチの地球の重さは、大体5トンです。同じ体積の鉄より少し軽いのですが、そんなに変わりません。1千万分の1の世界では地球は5トンくらいの鉄の玉と思ってもよいでしょう。この鉄の玉の3分の2くらいを平均0.38ミリメートルで薄く水が覆っています。これが海ですが、海の体積は全部で2リットル弱になります。陸水はその3%ほどですから、約60CCです。この60ccの大部分は南極で氷になっています。人間が利用できる水は1ccもないでしょう。
6千5百万年前、この1メートルより少し大きな地球に、直径1ミリ程度の隕石が衝突しました。砂粒ほどの大きさですから、地球は何の影響も受けなかったのですが、表面にいる生物種の90%は恐竜以下絶滅してしまいました。1メートルの地球儀に砂粒をぶつけても、表面の細菌が全滅するようなことはありませんから、大きな生物はずいぶんやわだと言えるかもしれません。
地球の外に目を向けると、月は大体38m離れたところにある、直径35センチくらいの天体です。重さは72キログラムくらい。頑張れば持ち上げられないこともありません。バスケットボールの直径は25センチ、バスケットコートが縦横、28m、15mですから、バスケットボールより4割大きなボールが、バスケットコートのはしとはしより少し離れたところに転がっているというのが、地球と月の関係です。
太陽系を見渡すと、距離感がぐっと違ってきます。地球から一番近い火星は大きさが直径68センチくらい。地球に一番近づいたときでも、7.5km先にあります。太陽の直径は140メートルくらい。霞ヶ関ビルの高さとほぼ同じです。地球からの距離は約15km。太陽を東京駅に置くと地球は川崎の少し手前になります。
同じように考えると、太陽に一番近い水星と太陽の距離は3km程度ですから。田町駅あたりです(東京在住じゃない方、ごめんなさい)。これが木星では直径14メートルで太陽から80km弱ですから、熱海くらいになってしまいます。
冥王星が惑星じゃないということになったので、太陽系で一番遠くにある惑星の海王星は、太陽から450kmくらいはなれていることになります。東京駅からの直線距離では神戸あたりです。こんなに遠くではいくら太陽が霞ヶ関ビルくらいの直径があっても、点のようにしか見えないでしょう。
太陽系の外に出ると、一番近い恒星のケンタウルス星系のアルファA、Bで太陽からの距離は実寸で4.36光年、千万分の1の縮尺で4百万キロくらい離れています。せっかく千万分の1に縮めたのに、(実寸の)月の10倍以上遠くにあることになります。
さらに続けると、銀河系の直径は10万光年ですから、1千万分の1にしても、1千億kmになってしまいます。これは実寸上の太陽と海王星の距離の20倍です。これではイメージがわかないので、もう1万分の1(つまり千億分の1)に縮めると太陽は1.4センチのハエくらいの大きさになって、一番近いケンタウルス星系のアルファA、B星までの距離は400kmくらいになります。この縮尺で銀河の直径は1千万km。東京と神戸くらい離れたハエが、月と地球の30倍くらい離れた空間に散らばっているというのが銀河系の星の密度ということになります。銀河に星が密集しているとはいっても、日本全土にハエが数匹いるくらいでしかありません。
1千億分の1の縮尺で宇宙を見ると、銀河系から一番近いアンドロメダ星雲は2億kmで地球と火星が一番近づいたくらいの距離の2-3倍です。この縮尺で考えると、宇宙の大きさは1兆3千億kmくらいで、太陽系の3百倍くらいの大きさです。この縮尺を人間に当てはめる(人間を千億分の1に縮める)と、人間の大きさは原子の10倍くらいですが、それでも、陽子や中性子の百万倍以上あります。この世界で人間が陽子や中性子を見ると、大腸菌と同じくらいの大きさになりますから、肉眼ではとても見ることができません。
陽子や中性子を大腸菌の大きさではなく、1センチ程度にしようと思うと、さらに人間側が1万倍縮小する必要があります(実寸の千兆分の1ですね)。そうすると宇宙の大きさも、1億3千万kmくらいになるので、実寸上の太陽と地球の距離と同じくらいになります。つまり、宇宙が太陽と地球くらいの距離に縮んで、その世界の人間がこちらの世界(何もかも千兆倍の大きさ)に来ると、陽子や中性子が1センチ程度に見えるということになります。
この縮尺でも電子はたった1ミリです。今の物理学では陽子、中性子はクオークというさらに小さな粒子からできていると考えられていますが、クオークの大きさは電子のそのまた百分の1程度です。クオークを1センチくらいにするように縮尺を続けると(100京分の1ですね)、電子は1メートル。陽子、中性子は10m、原子は1千kmにもなります。クオークが1センチ程度の大きさに見える100京分の1の世界の人間の住む全宇宙は13万kmくらいで実寸の地球の10倍くらいの大きさです。
物理学の最先端の超ヒモ理論では宇宙の基本は極小のヒモで、そのヒモの振動で全ての物質ができているということになるのですが、超ヒモ理論が予測するヒモの大きさはクォークのそのまた10京分の1程度です。何度も縮尺を繰り返しているので難しいですが、超ヒモ理論の描く、ヒモがクォーク程度の大きさになると1個の原子が全宇宙ほどの大きさになることになります。
以上単なる計算上の話で、積極的に何か意味があるということではありません。しかし、宇宙の大きさや時間の長さは無限と言っても良いほどですが、最新の物理学の世界の描く微小な世界から見ると、私たち人間の大きさや時間も無限と呼ぶのにふさわしいほど巨大です。一瞬の間に無限の時間が押し込められていると考えれば、私たちの人生も無意味とはとても言えない気がするのではないでしょうか。
(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)
馬場 正博 (ばば まさひろ)
経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。