サマれる人は、殆どいないという現実。
本日は「サマリー」「サマライズ」について考えていきます。
サマライズ、できてます?
サマリーというのは、日本語でいうところの「要約」です。
使い方としては、「ちょっとサマリーを作っておいて」とか「ちゃちゃっとサマっておいて」みたいな感じですかね。議事録を書くときも、冒頭に「サマリー」を付けたり、コンサルティングプロジェクトの最終報告においては「エグゼクティブサマリ―(役員向けのサマリー)」を作ったりします。
端的にいえば「それだけ読んだら、全体が分かる」というものです。
さて、皆さんは、実際にそんなものを書けていますかね?
要約の「要」は、”要点”の「要」
非常に良くあるサマリーの失敗として「情報を薄っぺらくしてしまう」というものがあります。これは、「サマリー=要約」の「約」というところに”だけ”注目した結果なのではないかと思います。少し具体的に考えてみましょう。
週末に彼女と二人で新宿駅で待ち合わせして、白いロマンスカー(VSE)に乗って、ガンダムみたいだね、と盛り上がった後で、車内で景色をみながら生ビールで乾杯して、箱根湯本で川沿いを10分ほど上流に歩いた店で蕎麦を食べてから、ケーブルカーで強羅に行く途中、彫刻の森美術館で足湯に入りながらシャンパン飲んでから、強羅温泉で一泊し、翌日はロープウェイで大涌谷を経由して芦ノ湖の海賊船に乗り、その後、バスで箱根湯本に移動し、ロマンスカーで帰ってきました。
という話を「サマってください」というと、「週末に旅行に行った」とかにしちゃうわけですね。全く具体性が無くなり”抽象的”な情報になってしまっています。これは、サマリーとしては最悪です。仮に、同じ文章量までサマるとしたら「彼女と箱根に行った」とか、あるいはもっと思い切るなら「ロマンスカーで生ビール」とかにすべきです。具体的な情景が思い浮かぶキーワードを選んで、相手にイメージを想起させる「サマリー」じゃないと、何も伝わりません。
仕事の例で言うと、サマってみた結果の文章が「発注業務の効率性が向上します」とか「在庫量を最適化します」とかだったら要注意です。もちろん、世の中には「結果だけが聞きたい」というケースもあるとは思います。でも、それは「サマって」というオーダーではありませんよね。「結論は何?」という質問に対する答えです。(指示を出す側が、この辺りを混同しているのだとしたら悲劇どころか喜劇なわけですけれども)
こういう仕事の改善活動のサマリーであれば「HOW」が書かれるべきだと思います。例えば「推奨発注量が表示されるから」「十分な店内在庫があるものは、グレーに表示されて発注しなくていいと分かるから」とかいう理由の結果、発注業務が効率化されるのであれば、「推奨値提示、発注対象外商品の非表示機能等により、高効率な発注業務を実現」くらいまでは書くべきだと思います。
とことんまで具体的に考えて、そのなかで、一番伝えるべき内容・伝えたい内容(=要点)を厳選して抽出して端的に伝えることが重要です。
クリスタライズしよう
先ほどの「ダメな例」として挙げたものは、すべからく「抽象的」にしてしまっているのですね。ここで「具体性」をしっかりと残していくことに留意するのが大切です。(具体と抽象については、以前ご紹介した書評:ギックスの本棚/読むだけですっきりわかる国語読解力(後藤武士 著)をご参照いただくと良いかと思います。)
具体性を残したまま文章を短くすること、これを、コンサル界隈では「クリスタライズ(結晶化)」と呼びます。
コンサルタントがつくる資料には「タイトル」と「メッセージ」というものがあります。「タイトル」はせいぜい10文字程度、「メッセージ」は長くても100文字くらいの文章です。この「メッセージ」は、その1枚のスライドの「サマリー」です。そして、これを書く行為が「クリスタライズ」です。
タイトルとメッセージの例
具体的な例を見てみましょう。(プロジェクトの資料はお見せできないので、弊サイト内のスライドを引用します)
タイトルで「コンセプト」と「具現化」という二つの概念について述べる、ということを示しています。そして、メッセージでは「良いコンセプトだからといって、具現化できるわけではない」ということを伝えています。最後に、ボディー(つまり、下の内容部分)では、コンセプトと具現化の違いを”具体的な例”で示しています。
このメッセージは、決して「抽象的になっている」わけではないことがわかりますでしょうか。
別の例も見てみましょう。
出所:ギックスの本棚/Think Like a Publisher ~編集者のように考えよう~ コンテンツマーケティング27の極意
これは、非常にシンプルなメッセージの例ですが、言いたいことを「頑張って括りだしている」のを分かっていただけますでしょうか。
メッセージの文字数を少なくしよう、と言われると「メディア運営のスキルセットは下記の通り。」とかって書きたくなるものですが、それは”逃げ”です。せめて「メディア運営のスキルセットは、4つに大別できる」というレベルまでは、エッセンスを抽出するように心がけるべきです。
スキルアップには「訓練」あるのみ
僕自身もまだまだ修行中の身ではありますが、それでも、なんとか「自分なりのサマライズ/クリスタライズの”型”」ができあがってきました。この「自分なりの”型”」を見出すためには、とにかく”質の高い訓練”を繰り返すしかありません。
例えば、小説や漫画を読んだら、その内容を「サマる」訓練をしてみましょう。これは、趣味と実益を兼ねていますし、おすすめです。興味のあるものを、興味のない人に説明する、と思ってみるのが良いと思います。欠点があるとすると、読むのにそれなりの時間が必要というところですね。
もう少し時間を節約するなら、新聞やビジネス誌の記事を「サマる」のが良いです。特に新聞記事は、既に非常に「サマられて」いるものが多いのですが、それを「さらに半分に(or 1/3に)サマる」と考えてみることは、何を本質と捉えるべきか、という視点で記事を読むことになります。これは、時事ネタに強くなる、という効能もあります。
もっと踏み込んで努力するなら、骨太のビジネス書を、章ごとにサマってみる、というのがオススメです。マイケル・ポーターの「競争の戦略」、ジェイ・B・バーニーの「企業戦略論」、コトラーの「マーケティング・マネジメント」あたりを”ガンガン、サマっていく”という行為は、かなりハードルが高い(難易度の点でも、根気の点でも)のですが、ビジネスマンとしての基礎力向上にも役立ちますし、とてもオススメです。
これらのトライは”量”をこなすことが最初のポイントですが、次のポイントとして、そのサマった結果を誰かに見せて批評を受けてください。可能ならば、目上の人やビジネス経験の長い人が良いです。その人たちの視点で、自分のサマリーを評価してもらう(つまり、自分のサマリーで十分、伝えたいことが伝わっているかを確認する)のが”質”につながります。
もし、あなたが、「議事録」を書くような会議に出席する機会があるのならば、積極的に議事録を書きましょう。そして、頼まれていなくても、サマリーをつけましょう。そして、そのサマリーを出席者や上司・先輩に見てもらえば良いのです。サマライズの訓練にもなるし、仕事に対するやる気も表現できるし、実際に議事録があるとチームとしての仕事の効率も精度も上がりますので、一石で三鳥くらいは落とせます。欲張りな方にもピッタリです。
そして、非常に大事なことなのですが、こういう訓練をしている人は、殆どいません。つまり殆どの人はサマれません。ですので、あなたが「サマれる人」になった暁には、仕事におけるあなたの評価は格段に向上します。騙されたと思って、ぜひ、お試しください。
尚、具体的な「サマライズの手順」については、関連記事で書きましたので、そちらもご参照ください。