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人工知能への長い道(3)|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】

AUTHOR :   ギックス

グーグルカーは走るのか?

今、グーグルは無人走行車の開発プロジェクトを進めています。人工知能の技術を用いて自動車を自動走行させ、人間のミスによって起きる交通事故を根絶するというのは、グーグルの掲げる理想です。無人走行車は交通事故を無くすだけでなく、軍事的な応用が可能です。兵員を乗せずに軍用車を走らせることができれば、戦闘だけでなく輸送作業で兵員を危険にさらすこともなくなります。

2004年、アメリカ国防省は DARPA Grand Challenge という無人自動車による、賞金2百万ドルをかけた自動車競技会を、カリフォルニアからネバダ州の砂漠地帯240kmのコースで開催しました。結果は広い砂漠に設定されたコースにもかかわらず、1台の完走車もなく、もっとも長い距離を走行したのはカーネギーメロン大学の11.78kmという散々なものでした。

ところが、翌2005年に開催された第2回の大会では23台の参加車両のうち1台を除くすべてが前年の記録を破っただけでなく、5台の車が完走するという成功を収めました。2005年のコースは3つの狭いトンネルを通過し、100個におよぶ急カーブを走破するものでした。さらに2007年には3回目の競技会が、今度は街中のコースを設定して開催されました。参加車両は96kmの市街地を6時間以内に通過することを求められましたが、4台が時間制限内に完走しました。

2007年の大会のコースは2004年、2005年より過酷ではなかったのですが、参加車両は交通信号など交通ルールを順守することを求められました。標識を読み取り理解する必要があったのです。これらの成功を受け、無人走行車への期待は高まっています。アメリカ・ネバダ州は2011人には無人走行を可能にする法律を施行しました。この法律によって免許を与えられた最初の車がグーグルがトヨタプリウスを改造して作った無人走行車だったのです。

グーグルの開発チームによれば改造されたトヨタプリウスは既に80万kmを無事故で走行したとされています。2012年にはネバダ州に続き、カリフォルニア州とフロリダ州で無人走行車の走行を可能にする法律が作られました。2014年にはグーグルは無人運転の総走行距離が100万kmを超えたと発表しました。

運転補助でも十分な価値がある

グーグルの無人走行車の技術で興味深いものの一つにグーグルのストリートビューの情報の活用があります。ストリートビューはグーグルマップから指定された場所の道路からの景色を見ることができます。グーグルはストリートビューの情報から走っている道路の状況を知り、車載のセンサーやカメラから得られた情報と合わせて車を走行させます。グーグルの提供する膨大な情報は検索から無人走行車への拡大していくことになります。

ここまでは言わば無人走行車の明るい未来を感じさせるものです。しかし、本当の意味の「実用化」となると問題は山積しています。例えば、無人走行車の「目」であるセンサーの能力があります。現在のグーグルカーは雨や雪の日にはセンサーの能力低下で走行ができなることがあることを明らかにしています。しかし、何と言っても問題は無人走行車が「頭脳」としている人工知能の能力です。

実際に市街を走行すると工事中で迂回路の看板があったりします。看板の中身を読み取り、コースを変えて再び目的地に向かうことなどできるでしょうか。標識のような定型的な表示でなくてもそれができるなら自動翻訳も、もしかすると本物の人口知能すら実現できるかもしれません。少なくとも近い将来に実現できる技術ではなさそうです。障害物があれば停止する技術は既に実用化されていますが、状況によってはその場でじっと停まっているのではなく、引き返した方が良い場合もあります。どんなことにも対応して走り続けることは完全な無人運転では不可能でしょう。

ストリートビューを使うのも通常は大きな助けになるでしょうが、情報が必ず最新とは限りません。カーナビなら古い情報でも人間が修正して運転することができますが無人運転ではストリートビューに頼ることが余計な問題を引き起こすことも考えられます。これから数年の範囲で完全な無人走行を一般的な市街地で実現することはできないと断言して良いでしょう。しかし、グーグルの試みが無駄に終わるというわけでもありません。

飛行機は離着陸はパイロットの操縦がなければできませんが、上空で巡航する時は自動操縦が可能です。空と同じような淡々とした道を何時間も走り続ける砂漠の中の道路を走行するような時、ハンドルを離してリラックスできれば運転の負荷も減るし、居眠り運転の事故もなくせるでしょう。ACC(Adaptive Cruise Control)と呼ばれる装置はカメラで前方の車との距離を感知して、アクセルもブレーキも操作せずに車を走らせること可能にします。ACCは運転者の負担を減らすだけでなく、加減速を素早く自動的に行うことで車間距離を短くすることができます。全ての車両にACCが装着されれば高速道路の渋滞が減少することが確かめられています。

ACCは前方と車との車間距離をカメラで計りますが、車線を検知して車が車線に沿って自動的に走らせる装置も実用化されています。この装置とACCがあれば事実上、ハンドルもアクセルもブレーキも殆ど操作せずに走り続けることができます。このような運転を「補助」する機能をさらに洗練させ、ストリートビューの情報も活用して、運転を現在よりずっと簡単でミスの少ないものにすることはできるでしょう。

人が最終的な判断を下す自動運転

また、無人運転とは直接関係ありませんが、車全体の動きを統合的に監視するコンピュータが運航パターンを検索語を記憶するように学習して、ドライバーに取って快適な走行を行うように援助することも考えられます。さらにそのコンピューターがクラウドにつながって、どんな車を運転してもできるだけドライバーが同様な走行感覚を実現できるようにすることもできるでしょう。グーグルの目標は車を制御する統合OS(例えばAndroid+)とストリートビューやクラウド技術を統合させて自動車技術の主導権を握ることかもしれません。

人が最終的な判断を下す自動運転は、そう遠くない将来に十分「実用的」と言えるレベルになるでしょう。その実現のためには、グーグルカーは「何が可能で、何が不可能か」を知る有用な研究と言えます。それでも完全な無人運転ははるかな目標です。それに夜、横断歩道の前で静かに停まった車の運転席に誰も居なかったら、安心して横断することはできるでしょうか。それはずい分と不気味な光景です。どんな技術もそうであるように、すぐにそれにも慣れてしまうかもしれませんが。

 

(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)


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馬場 正博 (ばば まさひろ)

経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。

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