日本人ならば、日本語を知らないとね
本日は、小学館辞典編集部編の「美しい日本語の辞典」をご紹介します。
「日本語らしい日本語」をまとめた一冊
本書は、美しい日本語、味わい深い日本語、懐かしい日本語を(中略)集大成したものです。
本書は、「日本語」の辞典です。内容は、大きく4つに分けられます。
- 日本の色
- 後世に残したい日本語
- 自然を友として -雨・風・雲・雪・空の名前
- 擬音語・擬態語
それぞれ、「日本語らしさ」がたっぷりつまった色や言葉が掲載されています。
ちなみに、普通の辞書として使おうとすると、この4分類だけでは正直厳しいです。また、網羅性という意味でも疑問があります。しかし、それでも尚、本書を購入して手元に置いておくことに、僕は十分な満足感があります。
”実利”ではなく”教養”を求めよ
僕が、本書のどういう部分に感銘を受けているのか、あるいは、どういう目的で本書を使っているのかをご紹介します。
色
日本の色、ということで117色が紹介されています。この117色を眺めていると、いろいろと気づきを得られます。
僕は、特に「はないろ(花色)」という色に驚きました。花の色と聞いて、僕は「赤」「黄」などの暖色を思い浮かべました。小野小町の「はなのいろは うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」という和歌でもそうですが、基本的に「花」といえば「桜」です。なので、ピンク色に近いような色だろうと思ったわけです。
が、実際は「青」です。花色の「花」は、ツユクサを示しているんだそうです。面白いですね。
尚、使い方としては、色の名前から調べるのではなく、117色の並んだ色見本の中から気になるものを見つけて、その名前を調べることをお勧めします。
後世
このカテゴリーは、一番使い勝手がいい言葉が多いです。実用的です。(ただ、前述のとおり、網羅性には疑問がありますが)
使い方としては、「パラパラめくって、気になる言葉が目に入ったらちゃんと読む」です。実用性を求めてはいけません。この本で得られるのは「教養」です。「実利」じゃありません。
僕がいま、ぱっと開いて目に留まった言葉を、幾つか引用しておきます。
玄関:もと、玄妙な道に進み入る関門の意。奥深い禅門への入門や、端緒をいった。現代では、建物の正面などにある、その建物の正式な出入口をいう。台所にある「勝手口」に対する。「玄関で茶漬けを食う」といえば、きわめていそがしいことや、ひどくせわしいことのたとえ。「玄関を張る」といえば、玄関の構えだけを立派にするところから、外観を飾ること。見栄を張ること。
一般的な言葉である「玄関」を調べたら、突然「玄妙(げんみょう)」とか、「端緒(たんちょ)」とか言われて戸惑います。「玄関で茶漬けを食う」「玄関を張る」とか初めて聞いたし。
齟齬:くいちがうこと。物事がうまくかみ合わないこと。上下の歯がくいちがってかみあわないの意から生じたことば。いきちがいを生じるの意の「齟齬を来す」の形で用いられることが多い。「そぎょ」とも言う。
*鳥獣戯話〔1960-62〕<花田清輝>三・一「一時、策略に齟齬を来したかに見えた反信長派も」
これを読む前に、「そぎょ」とか言う人がいたら、「あいつ、ばかだねー」と言ってたに違いない。僕がバカでした。ごめんなさい。そして、「鳥獣戯画」じゃなくて「鳥獣戯話」なのね。一瞬、鳥獣戯画に言葉とか書いてあるのかと思ってビックリしたよ。
山勘:勘にたよって、万一の成功をねらうこと。「やまをかける」「やまをはる」「やまがはずれる」などに用いられる「山」と「勘」が合わさった語で、もとは、鉱山の採掘事業を行う山師のように、相手を計略に賭けて欺くことの意。「山」は、見込みの薄さや不確かさを、鉱脈を掘り当てるのが運まかせだったことにたとえたことからのもの。ほかに、武田信玄の軍師であった山本勘助の中らとする説もあるが、例がみられるのが明治以降である点で従いがたい。
はい。山本勘助が語源だと思ってました。すみません。。。飲み屋で調子に乗って言ったこともあると思います。すみません。すみません。
というわけで、毎日いろいろ発見があります。
自然
僕のお気に入りは、この「自然」カテゴリーです。僕は、山奥のスキー宿で生まれ育ったということもあってか、自然崇拝的な気持ちが少なからずありますので、本書の「自然」カテゴリーは非常にワクワクしますし、しみじみきます。
また、このカテゴリーは「雨の名前」「風の名前」という具合に、分類されていて使いやすいです。ただし、非常に使いやすいにもかかわらず、日常生活において、まったっく役に立ちません。
あげ雨:関東地方で、降ったりやんだりする雨。あげぶり。
え、関西では使っちゃダメなの?
浦西(うらにし):驟雨をいう、盗人仲間の隠語。
で、驟雨ってなんだよ、と。
驟雨(しゅうう):急に降り出す雨。にわか雨。夕立。《季・夏》
なるほど。にわか雨のことを「浦西」って言うのね。盗人は。って、どういうシチュエーションで使うの?
鼠の嫁入(ねずみのよめいり):香川県地方で、日が照っているのに雨の降る天気。また、その雨、天気雨。
え。狐の嫁入りじゃないの?うどん県、おそるべし。
というわけで、雨の項目だけでも十分楽しめます。ちなみに、風の項目だと「いなさ」「翠嵐(すいらん)」「天狗風(てんぐかぜ)」「不通坊(とうせんぼう)」なんて感じで、なかなか趣深いです。
擬音/擬態
この項目は、「xxxなようす」といって、その様子を示す擬態語・擬音語を紹介しています。
例えば、「働かない ようす」としては、「うだうだ」「ぐうたら」「ぐだぐだ」「ごろごろ」「のうのう」「のらくら」「のらりくらり」「のんびり」「のんべんだらり」「ぶらぶら」が紹介されます。
あるいは「騒ぐ ようす」では、「がやがや」「ぎゃあぎゃあ」「ごたごた」「ざわざわ」などの耳なじみのある言葉に加えて、「やっさもっさ」とかいう言葉も紹介されています。ちなみに「やっさもっさ」は
やっさもっさ:大勢の人が混乱して騒ぐ
だそうです。混乱して騒ぐ!?
日本語の奥の深さにしびれます。僕、このあたりを外国の方に説明する自信は全くないですね。
言葉選びは重要。
ここまでご覧いただいてご理解いただけたことと思いますが、この辞書が、ビジネスの世界でそのまま役に立つか、と問われると、なかなか難しいなと思います。しかし、日本人が、日本人を相手に仕事をするのであれば、日本語を”正しく使う”ことは「当たり前」です。そして、日本語を”美しく使う”ことは「好ましい」です。
英語ができることが重視されている昨今ですが、なんらかの言語で「正しく論理的に話せること」がコミュニケーションの基本です。それができないで、複数の言語を操れても、仕事ができる、とは言い難いです。(もちろん、複数の言語を自在に操ることそのものは、非常に素晴らしいことだと思います)
自分の日本語力に対して改善意識のある方には、本書や、以前ご紹介した「ギックスの本棚/読むだけですっきりわかる国語読解力」、あるいは外山滋比古先生の日本語の作法 (新潮文庫)や「読み」の整理学 (ちくま文庫) あたりを熟読し、日本語力を鍛え上げることをお勧めします。母語って大事ですし、教養って大事ですからね。