自分が納得できなきゃダメ
プロ、即ち、プロフェッショナル、という言葉を「知らない」という人はいないでしょう。しかし、プロとは何か、ということに関する明確な定義を持って、その言葉を使っている人は少ないと思います。
本連載では、プロフェッショナルとは何か、について考え、そして、プロフェッショナル・ビジネスマンとして生きるためには、どうすればよいのかについて論考を進めます。
前々回は「プロとは何か」について論じました。そして、前回はプロのこだわるべきポイントである「品質と納期」について考えました。さて、本日は、その「品質と納期」の目指すべき基準はどうあるべきかについて考えていきます。
「顧客」と「自分」という二つの視点
世の中に顧客満足度、という言葉があります。非常に良い言葉ですし、非常に重要です。しかしながら、プロは、顧客を満足させるだけではダメです。自分自身を満足させないといけません。
どんな仕事であっても「顧客が満足する」というのは当たり前のこと、大前提です。お金をもらって仕事をする以上、顧客が満足しないような仕事をしていてはいけません。(尚、業務においての「顧客」は上司であったり他部門であったりもします。わかりにくい場合は「作業依頼者」と読み替えてください。)
それに加えて、プロは「自分が満足できるかどうか」という基準を持つべきだと僕は思っています。例え、お客さんが満足してくれたとしても、自分自身が納得できないような成果物を出す、ということに対して、どれだけ厳しく対応できるかが、プロをプロたらしめる重要なポイントだと思います。
「自分」に甘えないのがプロ
この話をすると、ときどき、大きな勘違いをする人がいます。それは「自分の基準を大事にする=独りよがりでもOK」という誤解です。
あくまでも「顧客満足」が大前提であり、プロは「”自分基準”に従って、その一段上目指す」のです。
上図のとおり、「顧客基準」と「自分基準」というものは、顧客基準>自分基準、顧客基準=自分基準、顧客基準<自分基準、の3つのいずれかになります。
顧客基準>自分基準
顧客が求める基準の方が、自分の基準よりも高いケースです。これは非常に未熟な状態です。
品質に関してこの状態ならば、致命的です。また、納期に関してこの状態の人が非常に多いです。以前も述べたように、時間をかければ品質が上がるのは当たり前ですから、品質向上のために時間をかけてしまいがちです。しかし、顧客が求める基準が「もっと早く」である場合、自分の基準で時間をかけてしまうと、顧客満足度を得られません。
一般的な例でいえば、素人が料理を作るときをイメージしていただくとわかりやすいと思います。非常に長い時間をかけて、手の込んだ美味しいものが出てきたとしても、やはり、お腹がすいた時にタイムリーにでてくることがとても重要ですよね。作り手の基準で、じっくり作りこむのは結構ですが、顧客(食べる人)の立場になれば、それでは問題があります。
というわけで、この状況にいる人は、早急に改善が求められます。自分が「アマチュア」であるという意識を持つ必要があります。
顧客基準=自分基準
顧客の求める基準と、自分の基準が一致しているケースです。世の中の「普通」のレベルはここだと思います。外部から求められている基準は満たしているいるわけですから、文句を言われることもないですし、一定の評価を得られます。
この状態におけるマインドセットは、おそらく「顧客要望にミートすればいい」「きっちり仕事をこなしていこう」というようなものになると思います。
もちろん、これが悪いとは思いませんが、「プロ」を名乗るのであれば、まだまだ足りていないと言わざるを得ません。本質的に、プロというのは、顧客よりも専門性が高い、顧客よりも(ある特定の領域において)高い価値を出す、ことが求められています。そのプロが、顧客と同じレベルのアウトプットで満足していて良いのでしょうか。
顧客基準<自分基準
プロが目指すべきは、顧客基準よりも、自分基準が遥かに高い状態です。
例え顧客が満足しても、自分が納得できないようなアウトプットは出さない。これが、プロの意地であり、コダワリであり、そして、まさにプロの証だと思います。
イメージしていただくなら、寿司屋の頑固親父、大工の棟梁などの職人気質の方たちが好例かもしれませんね。お客さんが食べてわかるかどうかは不明だが、冷凍マグロは絶対に出さない、というマイルール。北に生えていた木は建物の北側に、南に生えていた木は南側に使うという宮大工のコダワリ。そういう「絶対に譲れないライン」がきちんとあること、そして、それをしっかり守り抜こうとすること。それが、プロなのだと思います。
自分の基準を持てるか
もう少し補足しますと、顧客基準=自分基準という「普通」の人は、実は、自分の基準を持っていないのです。自分の基準、自分のルール、自分のコダワリ。そういうものがないので「顧客満足度=顧客の基準」というものだけを唯一無二の金科玉条の如く扱うわけです。
プロは、圧倒的に高度な「自分の基準」が先にあります。その上で、予算だったり期間だったりという制約を踏まえ、顧客も自分も納得できるアウトプットを定義し、そこを目指すわけです。(だからこそ、そこに折り合いがつかない場合には、仕事をお断りすることもあるわけです。)
今回は、プロが持つべきコダワリの「基準」について語りました。次回は、この「顧客と自分という二つの基準」を踏まえて、前回も触れた「Quick & Dirty」の概念について掘り下げてみたいと思います。