ビッグデータ活用をデータから考え始めるのか間違いなのか?
本書でも、Owned Mediaでの記事でも、基本的にビッグデータ活用を検討する場合は、自社の競争力強化に寄与する領域に活用すべきと述べてきました。つまり、「儲け話のメカニズム」を検討し、自社の競争力強化のポイントを明確にして、そこにビッグデータの活用を織り込んでいくという考え方です。基本はこれで大外しをすることはありません。ですが、ビッグデータを活用して何か新規事業を考えたい、ですとか、全く新しいイノベーティブな活用方法を考えたいと思われる方がいるのも事実です。正直申し上げると、「儲け話のメカニズム」から考えてもイノベーティブな活用方法を思いつくこともありますが、人間はなにか新たなアイデアを考える際には、もっと右脳っぽい発想法を求めるという感じなのでしょう。笑
弊社がクライアントに迎合しているわけでもないのですが、実はゼロベースから議論をする場合に、目的軸から整理するだけでなく、ビッグデータの特徴、バリュープロポジションから活用方法の検討も合わせて行っていくこともあります。つまり、データからその活用方法を考えることはあながち間違えではありません。ただ、正直書きますと「このデータ何か面白い使い方がなーい?」と議論しても、そこまで面白い使い方が生まれるわけでは無いのです。
データととして捉えるというよりは、むしろ素材として捉えて、商品開発を行うときと同じアプローチで検討していくほうが面白いアイデアが出てくる可能性が高まります。今あるデータは、そもそも何が売りなのか?どこに特徴があるのか?などになります。とは言え、後述しますが、全く何に使ってよ良いよ、という形からゼロベースで考えるよりは、使いドコロを考えて、そこでの活用方法を徹底的に考えたほうが良いのではないかと思います。
すると、現実的な考え方のアプローチとして、データ活用は概ねいくつかのパターンに収斂されるので、そのパターンに合わせて考えてみようというやり方になると思います。
やり方としては、「データや情報」と言うものを売っていくのか、「データや情報」を活用した商品やサービスを売ってくのか、その「データや情報」を自社や自社グループの強化に活用していくのか、という大きな3つのパターンに分類して検討していくことになります。
結局はどのアプローチを取ると自分が考えやすいのか?
何かのパターンに当てはめて検討するほうが考えやすい人もいるでしょうし、全く自由に考えるほうが考えやすい人もいると思います。それは人の思考のパターンなので、どちらにしても、有効な活用方法が考えつけば良いのだと思っています。私個人では、世の中の「成功している活用事例」などを見ると、結局は競争力強化に寄与しているので、どこを強化すべきか、そこにデータを活用できないか、と考えるほうが考えやすいということになります。
例えば、今後はセンサーデータがますます流行っていくと思いますが、そのセンサーデータの有効な活用事例も自分だったら競争力強化から考えつくのではないかと考えているので、そのような検討アプローチを参考例として出しております。
世の中のヒット商品から、「自分だったらどのように考えたら気づくことができたか」という考え方などもしていますので、よろしければそちらも参考にしてください。(あなたはそのアイデアに気づけるか -ヒット商品を生むフレームワーク-)
・コマツ(コムトラック)の例
コマツさんでは、コムトラックという仕組みで建機の稼働している場所と稼働状況を把握しています。彼らはこれらのセンサーデータを活用して様々な取組を行っていますが、これらの活用方法はどのような検討プロセスを経てこれらの活用方法に気づいたのかわかりません。ですが、このセンサーデータを使って、もし私が活用方法を自分のアプローチで考えるとしたら、こう考えたら気づくだろうなと考えてみます。
需要予測:
大型の建機は受注生産になるので、納期を短縮するには中間在庫が必要になります。しかし、中間在庫はB/Sを痛めますので、経営から見ると極力中間在庫を持たなくて済むようにしたいでしょう。一方で、顧客のニーズから見れば、発注後にすぐに納品される方がうれしいわけです。3年待ちとかは発注者も嫌でしょうし。センサーデータを活用して、コムトラックの稼働状況を見る事で、エリア別/タイプ別の需要予測がしやすくなることは考えられます。完成までのリードタイムが長く、極力短納期で商品が欲しいという顧客のニーズと、極力中間在庫を持ちたくないという自社の経営の視点が二律背反するからこそ、ビッグデータを活用して精度の高い需要予測を行えると競争力の強化につながると考えるのではないでしょうか。コマツさんは非常にうまい使いどころをお考えだと思いました。
与信管理:
もう一つが与信管理です。農機具をアジア展開していくビジネスの支援をしたことがあります。買いたい人はたくさんいるが、買える人はそれほど多いわけではない時に、誰に売るべきかという観点は非常に重要になります。販売代理店、つまりディーラーだけに与信管理やリースを任せていると、それほど事業は拡大していかない。一方で、メーカーサイドが現地にリース子会社を作り、そこで比較的ゆるく多くの審査を通していくと、本社から見ても簡単ではないレベルのキャッシュが必要になってきます。ここのコントロールが非常に難しいのです。
普及価格帯の建機を大量に販売していこうとすると、例えばアジア圏の地場の建設会社に販売する場合、現金一括で支払う余力は無いので、販売先を広げるためにはリースで販売する必要があるでしょう。リースとなれば当然ながら貸し倒れのリスクが伴います。かといって現金払いのみに限定すると、受注のボリュームは得られません。リスクをとって拡大させるか、堅めに行って、収益の安定性をとるのか、どちらにするかは難しい判断です。しかし、稼働状況をリアルタイムで監視することができれば、「この建機はこれだけ稼働しているから、この企業は貸し倒れリスクが低いのでもう一台売る事ができる」や、このエリアの仕事はまだまだ飽和していないなどといった支払い体力を測る目安にして、与信管理を行うことが可能になります。
与信という観点で、これは推測ですが、楽天カードはおそらく楽天の購買履歴などを見ながらクレジットカードの審査をしていると思われますが、そのために他のクレジットカード会社とは違った審査方法でスピード入会を認められるのだと思います。クレジットカードの入会に関わる手間、時間、などがボトルネックで、そこを解消できれば競争優位性に立てると考えての作戦でしょう。膨大な購買履歴情報をどのように使うべきか、という議論からそこに行き着いたというより、他社より精度よく素早く与信を行うためにはどうすべきか、という発想からそのような活用方法に行き着いたと考えるほうが合理的かなと思います。
・ロールスロイスの例
ロールスロイスは車で有名ですが、世界でもトップシェアを持つ航空機エンジンサプライヤーです。ロールスロイスでも、同様に顧客の困り事を解決する、自社の競争力強化という観点からビッグデータ活用を検討することができます。
航空機業界の話を少しすると、航空機は絶対額としてすごく高い値段がするのですが、エアライン会社が航空機を買う時は実際の原価から見ると、もの凄く格安で購入しているので、航空機部品サプライヤーはほぼただ同然とは言いませんが、原価割れとかで部品を提供する事になります。では、どこで収益を得て行くのか。プリンターの本体とトナーと同じ関係と言えば分かりやすいですが、その後の保守・メンテナンスの際に利用・交換する部品を定価で買ってもらう事で収益を得て行くパターンが多いようです。ですので、一つのモデルに投資にして、回収されるまでにそれこそ10年、20年と言う期間を見て行く必要があります。逆に言えば、ロングセラーのヒット商品となる機体に部品を納入し、長年使ってもらえればそれこそドル箱になりうるメカニズムになります。だからこそ、交換部品は常に自社のものを買ってもらわないと困る訳です。
一方で、航空機エンジンの顧客であるエアライン側の視点で見てみましょう。JALさんの経営破綻の時にも騒がれましたが、エアライン会社は何千億円という量の航空機部品の在庫を抱えています。人の命にかかわる機械なので、飛んでいる時の故障は許されませんし、飛ぶ前に故障があったら飛べませんので、その間はその機体からは収益を得る事ができません。ですので、エアライン会社は主要空港の整備工場に多くの部品を抱えていないといけません。ただ、飛行機の部品は非常に高いです。すると当然ながら部品の在庫費用は下げたいと言う想いにかられて、許認可さえ通るなら純正品ではなく、サードパーティーでもいいよねというメカニズムが働きます。
では、どうしましょうかと言った時に、エンジンにセンサーが組み込んであるので、そのセンサーデータから故障の予測をたてられることができます。そして、故障予測に自信があれば、エアライン会社に対して「この部品を持っておけば大丈夫ですよ」という情報を提示するだけでなく、「我々の在庫扱いであなたの倉庫に必要な部品を置いておき、使った分の部品代だけ請求します。」といういわゆる富山の薬売りのようなコンサインメント型のサービスを始めることができます。究極的には、エアライン会社は飛行機を飛ばして収益を得ることが目的の企業であり、エンジンを保有する企業ではないと捉え、エンジンの稼働時間に対してお金を請求するというサービスを展開することも可能になります。センサーデータの活用で稼働状況や故障・メンテナンスの予測などが分析できるよになれば、実現できるサービスの幅は広がって行きます。
センサーデータは今後の鍵になると言われていますが、流行っているからどのように使うべきか?と考えるのではなく、自分達の儲け話のメカニズム、競争力の強化のキードライバーに寄与するか否かを考えて行くことでも、有益な活用方法にいきつけるのではないかと考えています。同様に、自社のビッグデータ活用でも、流行っているから何かを考えよう、ではなく、自社の競争力強化に寄与するにはどのような活用方法があるのか、という観点で良いのではないかと思っています。たとえ、自社の競争力強化にビッグデータが必要でな無い活用方法しかないとしたら、それはそれでも構わないのではないかと思います。ビッグデータを活用すると税制が優遇されるという法律があるわけでもないですから。笑
ロールスロイスは、きっと世界で一番良いエンジンを作る、ではなく、安定的なエンジンを提供してエアライン(顧客)の収益に貢献するためにはどうすべきか、と言うところから競争力強化に向けた活動を始めたのでしょう。どうせ「ビッグデータを考えと!」と騒ぐなら、こういう本質的な競争力強化から考えれば良いのにな、と思っております。
次回に続く