俳優ケビン・ベーコンのベーコン数
まったく知らない同士が、間に何人を介してつながっているか。この問いに対する答えとして、6次の隔たり、つまり平均的には6番目には目標となる人に到達できるという仮説があります。これはいくつか実験が日本を含めて行われていて、6人から7人目には見知らぬ人にたどり着くというのは事実のようなのです。
とは言っても、日本人同士ならともかく、相手がアメリカ人、あるいはアルメニア人だったらどうかという疑問がわきます。しかし、国や人種が異なっても、どうやら1人か2人、間の人が増える程度でよいらしい。この話は欧米では昔からかなり知られていて、アメリカなどでは「6人と握手をすれば誰とでも知り合いになれる」というのは一般的な常識のようになっています。
この話は初めて聞くといささか信じがたい気もするのですが、これを例証するために、ヴァージニア大学の研究者たちがベーコン数というものを考えだしました。ハリウッド映画は出演者をデータベース化しているのですが、このデータベースを使うと、俳優同士が共演したかどうかを調べることができます。その中で着目されたのはケビン・ベーコンという男優です。
ケビン・ベーコンは1958年生まれの俳優で、多数の映画に出演しています。日本ではJFKやアポロ13号などが比較的有名ですが、決して大スターではありません。しかし、中堅俳優の常として多数の映画に出演して、結果的に多数の俳優と共演しています。そこで、ベーコン自身をベーコン数0として、ベーコンと共演したことがあればベーコン数1、さらにベーコン数1の俳優と共演したことがあればベーコン数2という具合に、ベーコン数を求めていきます。ベーコン数を使えば、ある俳優が共演者を介してどのくらいケビン・ベーコンと近いかを知ることができます。
ヴァージニア大学の研究者は、ベーコン数を算出するWebサイトを立ち上げています(http://oracleofbacon.org/)。このWebサイトでベーコン数を求めてみると、トム・クルーズ、は1(Few Good Manで共演)。ニコラス・ケージは2、マドンナも2ということで、6人どころか概ね2の範囲で主要なハリウッド・スターがカバーされてしまいます。つまりハリウッドの俳優は、非常に小さな世界に生きているということがわかります。
俳優の出演映画がデータベース化されているのはハリウッドだけではなく、日本映画もデータベース化されています。実は日本の俳優のベーコン数を求めることも、上記のサイトで可能です。調べてみると日本の代表的国際スターだった三船敏郎は2、渡辺謙も2です。まさにハリウッドスター並と言ってよいでしょう。それどころか渥美清は3になっています。渥美清はハリウッド映画の「トラトラトラ」に出演していて、そこでの共演者からのリンクでベーコンにつながっているのですね。
さらに調べると、およそハリウッドに縁のなさそうな八代亜紀も3、上戸彩も3です。八代亜紀は1986年に玄海つれづれ節という映画で三船敏郎と共演しているのですね。三船敏郎がベーコン数2ですから、八代亜紀は3と言うことになります。上戸彩はまだ14才の頃、別所哲也と「裏切りの凶弾」という大映映画で共演しているのですが、別所哲也はSolar Crisisというアメリカ映画に1990年に出演していてその関係でベーコン数2なのです。
日本の俳優、芸能人たちが3とか4という小さなベーコン数でケビン・ベーコンにつながっているのは、日本の俳優の中にも三船敏郎、真田真之、渡辺謙といった少数ですがハリウッドで活躍する日本人俳優がいるからです。これは多分一般の人同士のつながりでも同様で、非常に多くの知り合いを持つ人が間に入ることで、まったく無縁と思える人と6次の隔たりでつながることができるのだと思われます。
このように多数のつながりをもつ人はネットワークのハブと呼ばれます。人ではありませんが、航空路線はハブ空港のお蔭で関係の薄い離れた都市に比較的僅かな乗り換えで到達することができます。HIVの感染経路、インターネットの通信接続などは皆ハブの存在があります。「口コミ」で宣伝する方法も、SNSなどで多数の知り合いを持つハブとして機能してくれる人が含まれなければ、なかなか大きな広がりにはなりません。
ベーコン数に話を戻すと、ハリウッドの俳優がベーコン数が大体2で納まることから、日本の俳優はおそらくベーコン数4の範囲で概ねカバーされると思われます。大体の人は1人か2人を間におけば、あまり売れない俳優ぐらいとはつながっていそうですから、ベーコン数だけ考えても、アメリカ人と日本人が6ステップ程度でつながっていると考えても無理はないでしょう。確かに世界はSMALL WORLDのようですが、それはハブがあってのこそと言えるでしょう。
(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)
馬場 正博 (ばば まさひろ)
経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。