IBM、Watson Analyticsを発表―Watson人工知能が万人にビッグデータ解析能力を与える(TechCrunch)/ニュースななめ斬り by ギックス

AUTHOR :  田中 耕比古

機械は「答え」はくれるが、「問い」は与えてくれない

本日は、TechCrunchの記事「IBM、Watson Analyticsを発表―Watson人工知能が万人にビッグデータ解析能力を与える」をななめ斬ります。

記事概要

  • IBMは、人工知能Watson(ワトソン)の機能を、一般向けに無償でクラウド提供し、高度なビッグデータ活用の門戸を開く。
  • Watsonは、アメリカのクイズ番組”Jeopardy”で、クイズ王に勝利したことで有名になった人工知能。
  • このプロダクトの特長はビッグデータに対して自然言語で分析、加工処理を行えること。そこに、Watsonの人工知能テクノロジーが用いられている。
  • 標準テンプレートで、通常の統計分析も可能。さらに「質問」をすれば、それに対して「答え」を出す。
  • 課題は利用者側が「正しい質問」を知らないことだが、提供されるテンプレートで分析することによって、質問発見の糸口を見つけ出せる。
  • 今月中にβテスト開始、一般公開は12月。

(全文は、TechCrunchでご確認ください。)

Watson(ワトソン)とは

IBMという会社は、すでにご存知かと思います。世界最大のコンピューターメーカー(業界でいうところの”ハードウェアベンダー”)として、長きにわたって君臨し続けています。(売上でHP、Appleに抜かれた、という話もありますが、最大級なのは間違いないです。)IBMは、ハードウェア屋さん(PC部門は売却しましたが)であり、SIer(システムインテグレーション)でもあり、ソフトウェア屋さんでもあります。

ソフトウェアに関しては、買収によって手に入れたものも多くありますが、自社開発のものも少なくありません。その開発の肝となるのが「研究所」です。そこには、最先端、ということばでイメージするものの、さらに最先端の研究を粛々と行っている部隊がいます。

その「最先端の最先端」研究のひとつに「人工知能」の研究があります。そこで開発された人工知能”Deep Blue”は、1997年にチェスの王者に勝ちました。そして、2011年、”Watson”が「自然言語を解析して、”質問”に答える」という形式のクイズ番組に出場し、歴代クイズ王に勝利したのです。

人工知能はIBMのお家芸と言っても過言ではありません。最近では、(もはや門外漢な僕には理解不能なのですが)非ノイマン型の次世代半導体による「人間が命令しなくても自ら学習して問題を解く人工知能」の開発を推進しているというニュースもありました。

関連記事:ニュースななめ斬りbyギックス/米IBM、ヒトの脳まねた半導体 人工知能実現に道(日経新聞)

ワトソンは、そんな「最先端の最先端」の人工知能です。この、現時点で最高峰の人工知能技術の一部を、無償で使えるとなると、いろいろ試してみたくなりますね。わくわくします。

ちなみに、ワトソンってなんですか?という方には、「IBM奇跡の”ワトソン”プロジェクト 人工知能はクイズ王の夢を見る(早川書房)」がオススメです。(関連記事:ギックスの本棚/IBM奇跡の”ワトソン”プロジェクト

正しい質問。これが一番難しい。

この技術がβテストを経て、一般公開されるにあたり、記事内にもあったように「質問力」が問われてきます。

問題は多くのビジネス・ユーザーがビッグデータ解析の専門知識や経験に乏しいため、そもそもどんな質問をするべきなのかよく理解していないという点だ。

正しい問いを投げることができれば、答えを返してくれる、という世界が訪れた場合、人間の賢さは「正しい問いを投げること」に活用するのが効率的です。しかし、この能力は一朝一夕では身につきません。ギックスでは、このスキルを「データアーティスト」と定義しています。

ただデータを眺めていても、答えは見つからない

ただひたすらにデータを眺め、こねくり回しても、答えに辿り着くのは困難です。というのは「そもそも、何に答えるのか」がわからない状況で、答えを探すなんてナンセンスだからです。

これが、コンサルタントでいうところの「仮説」であり、1億人のための統計解析の著者 西内均氏のいうところの「アウトカム」なわけですね。目的をセットしないと始められません。(関連記事:ギックスの本棚/1億人のための統計解析

つまり、Watson Analyticsが世の中を席巻することで「質問力の無さ」という問題が顕在化するだけで、すでに企業内には「答えに辿り着かないデータ分析」が蔓延しているおそれがあるわけですね。

正しい「問い」を見つけよう

世の中「問い」を与えられることが多いです。問いを与えられ、それに対する「問題解決」を図るという仕事が非常に多いのだと思います。

しかし、ある事象をみて「問い」を設定し(そして、それに対する仮説を構築し、その結果となるアウトカムを定義し)ていくことができないと、どこかで行き詰ります。

我々コンサルタントは「知りたいことはなんですか?」「なにがわかったら嬉しいですか?」「あなたは、どうしたいんですか?」という質問をすることがよくあります。これを「コンサルタントなんだからお前が考えて持ってこい」という反応をする方と時々お会いするのですが、僕は少し困惑してしまいす。

コンサルタントは「問い」を設定する”お手伝い”は厭いません。しかし、「問い」を設定するのは、最終的にはクライアント自身であるべきです。(くどいようですが、お手伝いは全力でします。必要ならば、オプションも出します。)

答えるべき問いを設定していないプロジェクト(社内であっても、コンサルタントを雇っても)は、失敗します。そして、答えるべき問いは「意思」によって決まります。意思決定とは、そういうものだと僕は思います。

関連記事:ギックスの本棚/「好き嫌い」と経営

他人に「問い」も「答え」も決められる世界とは

また、「機械が、全ての答えを決める世界」というのはありえません。答え(Findings)から、示唆(Insight)を導き出すのは、人間の仕事です。(これも、データアーティストのスキルです)

「機械が、問いも答えも決めてくれる世界」なんてものがあるのならば、それは一体、どんな世界なのでしょうか?僕は、それこそが「火の鳥 未来編」で、手塚治虫が描いた世界だったのではないかと思います。(関連記事:ギックスの本棚/火の鳥 未来編

コンピューターはツールです。人間を補助する存在として、活用すべきです。コンピューターが「意思決定」するような世界がありえないように、コンサルタントが「意思決定」する世界もありえません。自分自身で「問い」を設定し、コンピューターやコンサルタントを駆使して「答え」を探し出すことが重要だと僕は思っています。

 

あ、ちなみに、僕自身、弊社の役員という立場では、自分で「問い」を設定せねばならない、と思っていますよ。あと、プライベートでも、もちろん。(笑

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