自分に見えている世界が「絶対ではない」と知る
本日は、日本に320万人いると言われている色盲・色弱な人にとって、この世界がどう見えているのか。そして、その人たちにとって分かりやすいデザインとは何か、を説いた「カラーユニバーサルデザイン」をご紹介します。
色盲・色弱とは
色盲(しきもう)、あるいは色弱(しきじゃく)とは、色覚異常という症状です。
特に多いのは「赤と緑の区別がつかない」ということなのですが、多様なケースがあります。また、先天性だけではなく、後天性の異常もあるようです。
詳しくは、コチラ(コトバンク)をご一読ください。(簡単にまとめられています)
色の無い世界
本書では、色弱の人が、どういう世界を見ているのか、を「写真」で表現しています。そして、それが、どれだけ「暮らしにくい」ことなのかも。
例えば、
- 焼肉の「焼け具合」がわからない(赤いのか茶色いのかが判別不能)
- 進入禁止の標識(赤)が、街路樹などの風景(緑)に溶け込んでわからない
- 赤い服と黒い服が、濃紺と黒という感じで見分けられない
- 山手線(緑)と総武線(黄)が、大体おんなじ感じに見える
という感じです。
写真はオリジナルと、色弱者に見える世界と同様に加工したシミュレーションが並べられていますので、一目瞭然です。正直、驚きます。
どうすれば良いのか
本書の第一章は「見え方」や「それがどんなに不便か」を教えてくれます。そして、第二章では、そのメカニズム「なぜ、そう見えるのか」を掘り下げます。つづく第三章・第四章では、具体的な対応策を教えてくれます。
僕の理解では、大きくは下記の4つになると思います。
- わかりやすい色に修正:学校のチョークの色を、新しくする活動があるようです。赤は「パキッとした」赤になっています。
- 皆にわかる色しかつかわない:最近の地球儀は、同系色の色で濃淡をつけることで、分かりやすさを向上させています。
- カタチを変える:線の太さや点線と実線、丸と三角と四角などの「色以外の情報」を付加する
- 色に加えて記号や文字を入れる:東京の地下鉄のマークは色だけでしたよね?今はアルファベットが入っています。テレビのボタンも「青」「赤」などと書かれているものが増えています。
これらの配慮をすることが、「みんなに伝わる情報」のために重要なわけですね。
伝える とは?
この話は「色盲・色弱」という世界に限った話ではありません。
誰かに何かを伝えようとするときには、同じような配慮が必要です。
コンサルタントが資料を作るとき
コンサルタント(の、ある特定流派だけかもしれませんが)は、習熟度が上がるにつれて「水墨画のようなパワポ」を描くようになる傾向があります。
つまり、同系色の色を使って、濃淡で「違い」を表現します。また、同時に「違わないものは色を付けない(=黒)」ということも徹底します。同時に、フォントも「特殊な理由がない限りは同じもの」を使います。フォントサイズももちろん統一します。10.5ptと11ptの違いにもこだわります。
そして、図形は、丸、三角、四角、角丸四角、矢羽根(ホームベースを横にしたもの)あたりが基本ですが、これを「明確に使い分ける」ようにします。少なくとも、同じスライド(ページ)の中で、四角が3つあれば、それは「同じもの・概念」を示しているハズです。
加えて、線は、実線か点線か。矢印も、先が塗りつぶされた三角形になっているか、線になっているかを区別します。
これらの「違い」を駆使すると、複数の色どころか、同系色の濃淡さえも殆ど不要となります。「誤解なく伝える」というためには、こういうこだわりが必要になってきます。
誰に、何のために伝えるのか
上記のレベルでのこだわりを徹底しているコンサルタントがどれだけいるのかは知りませんが、「プロフェッショナル」を標榜するならば、これくらいはやっていて然るべきだと僕は思っています。
上記のようなこだわりは、「プレゼン用」として使われるケースでも重要なのですが、実は、その後に「クライアントに社内回覧される」というケースで非常に大切になってきます。
コンサルタントと言う職業は、「顧客が自らを変革するお手伝いをする」のが本分です。(もちろん、実行支援をやるのは吝かではありませんが、本業は「変革を後押しする」という仕事です。)そうすると、コンサルタントの「納品物」であるパワーポイントは、「社内でバンバン回覧される」ことを想定しておかねばなりません。最近は、”印刷しない文化”が広がってきたように思いますが、現場レベルでは紙資料が重宝されています。そして、経費節減のことも考えると、白黒コピーがまだまだ主流です。
そういう状況下において、「色で見分けろ」というのは不可能です。そんなときでも「ちゃんと誤解なく伝わる」「きっちりわかる」ということまで考えるのがプロフェッショナルだと思います。
何かを誰かに伝える時には、自分の視点での見え方だけにとらわれず、受け手に「100%届く」ような準備を心がけていきたいものです。