広告媒体としてタクシーを捉える
本日は、日本交通がJR東日本とコラボした「Suicaのペンギン」ラッピングタクシー4台を、7/14(=今日)から運行させた、というニュースを取り上げます。(元ネタはマイナビニュースでご確認ください。)
「Suicaのペンギン」ラッピングタクシーのメッセージ
今回の広告のメッセージはシンプルです。
歩道から見える助手席側は、日本交通のタクシーで「Suica」が使えることを告知する図柄に、運転席側には買い物の紙バッグを両手に抱えた「Suicaのペンギン」をそれぞれラッピングする。
タクシーを拾おうとする人に対する「このタクシーはSuicaが使えるんですよ」というアピールは、直接的で分かりやすいですね。
JR東日本=電車という構図が基本なわけですが、電子マネーであるSuicaは電車に限らずアチコチで使えるわけです。決済業界(電子マネーに限らず、クレジットカードやデビットカードなども含む)は、現在、群雄割拠でエラいことになっています。そんななか、「電子マネー領域」において、かなり強いポジションを築いているSuicaが、その立ち位置を固めにかかるのも当然です。
リーチ範囲はあくまでもマス
ただし、このメッセージが届く相手は、必ずしも「タクシーを拾う人」だけではありません。世の中全般(正確には、街を歩く人&車を運転する人全般)となります。公道にいると勝手に目に飛び込んでくるわけですからね。
そうすると、情報の受け取り手には、以下のような種類がありそうです。
- タクシーを頻繁に使う人=日本交通のみならず、東京無線など様々な会社でSuicaが使えることを知っている
- タクシーをたまに使う人=Suicaが使えるタクシーが存在することは知っている
- タクシーをまったく使わない人=Suicaが使えるなんて知らない
(もちろん、Suicaを持っておらずタクシーにたまに乗る人は、Suicaが使えるかどうかに関しては興味が無い=知らないかもしれませんが)
そうすると、このメッセージは「頻繁に使う人」には既知のモノであり、あまり意味が無いかもしれません。また「まったく使わない人」もSuicaが使えるから積極的にタクシーに乗ろう!とはならないでしょう。そうすると、”タクシーでのSuica利用促進”に、このラッピングがどの程度の効果を出せるのかは甚だ疑問です。
しかし、それらを勘案したとしても、「Suicaが使えるのは”電車だけじゃない”」というアピールを行うことに価値があり、また、それが、タクシーに限らず各種決済(コンビニやスーパー、自動販売機など)におけるSuica利用に”気付かせる”ことにつながる、という判断に基づき、実施に至ったのではなかろうかと推察します。
やはり、マスに対して情報発信する事は、「空気の醸成」に非常に役立つのです。(そして、仮に大多数の人がこのラッピングタクシーそのものを見かけなくても、ニュース記事として取り上げられることで十分なPR効果を得ているとも言えます。関連記事:ギックスの本棚/戦略PRの本質 )
タクシーの「車内」は”深いコミュニケーション”が可能
一方、タクシーの車内に目を向けると、そこにいる人の属性は、かなり絞り込めます。
平成25年の大阪タクシーセンターの調査(PDF)によると、利用者の半数以上が「経営者」「会社員」です。また、全体の3割が「仕事」で使っています。さらに、利用頻度は(当該調査のメッセージの切り方とは異なりますが)月に7回以上の高頻度利用者が2割近く存在しており、月4回以上ならば4割に迫ります。そして(想像に難くない結果ではありますが)「経営者」「会社員」の利用頻度は全体平均よりも高めとなっています。
つまり、人数比率だけでなく利用頻度も勘案すれば、利用の多くが「経営者」「会社員」の「仕事目的」となるわけですね。(もちろん、大阪と東京で使い方に差が出る可能性はありますが、一旦の仮説としてこのまま用います)
ビジネス利用ではタクシーに一人で乗るケースも多いでしょう。そこに「ひとりだけの時間」が生み出されます。僕の場合、パソコンをひらいて仕事をしたり、スマホをいじっていたりすることが多いのですが、ごく稀にボーっと窓の外を眺める瞬間もあります。そういうときは「何も考えたくないとき」なので、車内に設置されたパンフレットを手に取ってパラパラとながめたりもしてしまいますが、脱力して頭が空っぽなせいか、書かれた情報を割と深く読み込んでいたりもします。
そういう意味で、マスに向けた認知向上媒体としてのラッピングタクシーと、理解醸成媒体としての車内広告は、同じ「タクシー」でも完全に別物だと言えます。
タクシーの車内広告は「おもしろい」
タクシーを良く使う方はご存知でしょうが、多くのタクシーには助手席の背面に「アドケース」というものが設置されています。
ここには、不動産投資、DMなどのアド関係、毛色の変わったところでタクシー会社の求人、などの多様な広告パンフレットがならんでいますが、その中でも際立って多いのは、
上述した通り、仕事で使う人が多いわけですから、皆が楽しい気持ちで乗っているとは限りません。疲れ切っている人も相当数いるでしょう。そして、そんな人に上手にインパクトを与えて手に取ってもらうのが車内広告です。タクシーの車内広告(パンフレット)は、ターゲットを明確に狙い撃ちして「深いコミュニケーション」に持ち込むために、非常に工夫が凝らされています。
例えば、先日、こんな広告をみつけました。 (走行中の車内で撮影したのでブレててすみません)
おおっ って思いました。で、手に取ってみると、こうなります。
これは、確実に、 「
この「一瞬の気持ちの揺らぎ」を生み出してパンフを手に取らせるインパクト(課題の共有)、そして、その「わずかな心の隙間」にスルッと滑り込んでくるパンフの表紙(ソリューションの提案)という構成は、本当に素晴らしいと思います。渋谷DSクリニック院長 林先生恐るべしですね。
ついでに申し上げておくと、パンフレットを手に取った時点では「美容整形」「脂肪吸引」的なものだろうと僕は思っていました。が、実際に、このパンフレットの中を読んでいくと、これは「医療ダイエット」なのだそうで、「最先端機器での診断」「個々人にあわせた痩身治療プラン設計」を行い、「痩身マシン」・「栄養指導」・「漢方による体質改善」などの様々な手段を組み合わせてダイエットをお手伝いする、というお話でした。現在ダイエットに取り組んでいる僕としては、まさに王道のアプローチじゃねぇか!と感銘を受けた次第です。(関連記事:ダイエットを”プロジェクト”として捉える)
さらに、そんな診断とかって言われてもさぁ、病院行くのってハードルが高いよねぇ・・・、などと思ってしまう人達の受け皿として、「ダイエット本を出版しました。本書では、太りやすいタイプを8種類に大別し、ダイエットレシピと生活改善アドバイスを紹介しています」という書籍購入のススメまで用意されています。なんて、裾野の広い広告なんだ。(ちなみに、その本はコチラ)
この「白馬の王子様」のみならず、年末にご紹介したKMタクシーの求人冊子「タクシードライバー前原健一」のように、非常にクオリティが高い(色んな意味で)ものが散見されますので、ひとりでタクシーに乗った際には、これらのパンフレットをちょっと手に取ってみるのも一興かと思いますよ。
ラッピングタクシーでの「車内」活用に期待
また、上記観点からみると、今回取り上げたSuicaのペンギンラッピングタクシーも、「Suicaが使えるお店リスト」や「Suicaポイントクラブの説明」をアドケースに差しておくとか、いくらでも追加の打ち手がありそうです。マイナビ記事にあった”利用者に対するSuicaペンギングッズの配布”に留まらず、車内広告もSuica関連で埋め尽くす、くらいのことはやっていて然るべきですよね。
是非、乗車して仕掛けの奥深さを確かめてみたいところです。(都内を4台しか走ってないとなると、乗車どころか、遭遇することさえ難しいかもしれませんが・・・)
ご参考:ちなみに、日本タクシー広告のサイトによると、ラッピング広告は最低単位=10台×1ヵ月の運用で広告料は35万円だそうです。このほかにラッピング費用や各種審査費用等が掛かりますが、媒体料金としてはかなり安いな、という印象です。もちろん、走行エリアの限定が難しいことを考えると「効果」は微妙な気もしますが、「ちょっとやってみたくなる」値段設定ですよね。