本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)
目次
イシュー=答えるべき問いを設定しなければ、解答欄は埋められない
本連載では、日経BP社より出版された「トップデータサイエンティストが教えるデータ活用実践教室」を、勝手に読み解いていきます。
今回は、ヤフー安宅和人氏による第2章「どうすれば良い分析ができるのか」を取り上げます。(前回=第一章はコチラから)
イシューベースで考えよ
本章では、大きく3つの事柄が述べられます。
- 5つの「失敗の類型」を知り、二の轍を踏むな
- イシュー(つまり、解決すべきこと・答えるべき問い)を明確にせよ
- データクレンジングが最小限で済む、きれいなデータを入手せよ
この、ひとつめとふたつめは、とても端的にいえば「目的を明確にせよ」という同じことを言っています。(それだけ、”目的”が大切ということです)
上記1の、5つの「失敗の類型」を挙げておきます。(”→”以降は、わたしの理解に基づく解釈です。)
- 「何のために」がない →目的が不明確
- 「分析の軸」が不適切 →知りたいことが明確ではないので、軸が決まらない
- データに問題がある →きたないデータを使っている(上記3つめと同じ話)
- 異質なものの比較 →リンゴとリンゴを比べていない。ある意味では「軸決め」でコケているのと似ている
- 解釈が間違っている →これだけは意味が違う。”業務”と”分析”を正しくつなげていない。
issue-based problem solving
これらの具体的なテクニックについては、本章を読んでいただければ良いのですが、ここでは「目的を明らかにすること」の大切さについて考察したいと思います。ちなみに、イシューという言葉は、コンサルティングの世界で良く使われる言葉です。(issue-based problem solving という言葉もあります。)イシューの最適な訳語は、おそらく「論点」ではないかと思います。あるいは「答えるべき問い」と言っても良いでしょう。
さて、分析において、この「答えるべき問いを決める=分析の目的を明らかにする」ということは、とても重要です。本書より引用します。
「何のために」がはっきりしないものは、よほどセンスの良い人がそこにいない限り、そもそも分析として意味を持ちようがない。
ビッグデータや定量調査データなど、まとまったデータがあると、そのデータを処理しているうちに何か意味が生まれてくるかのような誤解があるが、それは大きな間違いだ。
その上で、具体的な対策を、安宅氏は以下のように述べます。
例えば、マーケティングのためにデータ分析をするなら、市場ニーズの見極めなり、取り組みの効果検証なり、具体的に何を行い、その結果何をしたいのかをはっきりさせよう。
目的が見えたところで終えてはいけない。これでは漠然としたゆるい分析になって迷路に入るのがオチだ。目的の視点で、今回の分析で何が本質的な分岐点であるのか、つまり何がイシューなのかを見極める。
イシューは「出題」で、分析結果は「(あなたなりの)解答」
イシューが無い状態は、目的地を定めずに歩くようなものです。自分が新宿に行きたいのか、六本木に行きたいのか、銀座に行きたいのか。それが決まっていないと、どっちに歩くべきか判断できません。さらに言えば、目的地だけが定まっていてもダメです。早く着きたいのか、楽に移動したいのか、実は移動することそのものが目的なのか。これらのことが決まっていないと、移動手段も選べません。
要は、イシューが決まる、ということは、試験問題が決まる、ということなわけです。解くべき問いがあるから、解答欄を埋めることができますよね。「マークシートを好きにぬってください」という問題はありません。これは、小学生でもわかる理屈です。
しかし、こと「分析」の話になった途端、「マークシートをとりあえず塗ろう」となってしまう人が増えます。これは、単純に【ゲームのルールを良くわかっていない】ということが原因でしょう。
世の中に「答えを教えてくれる魔法の道具」はありません。また「勝手に問いを考えてくれる便利な機械」も、まだ登場していません。自分なりに考えるしかない、というのが実情です。
イシューベースで考えるために、何が必要か
然しながら、イシューベースで考えよ、と言われても、実際にはなかなか難しいです。(もちろん、本章で解説してくれていますが)
では、どうするか。それは「筋のいい分析結果を沢山見て、考える訓練をする」ということしかないと思います。筋の良い分析結果とは、いわゆるコンサルタントなどが「こういう仮説に基づいて、こういう分析をしたら、こんなことが分かった(ファインディングス)」や「この分析結果から、こういう結論が導ける(インサイト)」といった風に”分析結果とビジネスのリンク”をつくっている資料のことです。
こういう「筋の良い分析結果」に触れるために、有償セミナーなどで、ダミーデータや事例から学ぶという選択肢を取りがちです。ただ、それを実際の業務に役立てようとすると途端にハードルが高くなります。セミナーで手法をしっかり学んだものの、自社に戻ってみると、データの型も違う・分析環境もない、ということで結局手も足も出ないわけです。
できるかぎり自社データを用いて、簡易でも良いので分析に着手してみることが大切です。自社データを使って”練習”することは、そのまま”成果に結びつく”わけですので、事業会社で忙しく働く皆様にとって「スキルも身につけながら仕事に直接役立つ=まさに一石二鳥」ということになりますね。
尚、株式会社ギックスの提供する「データビジュアライズサービス graffe/グラーフ」の、「自社データを用いて学ぶ、データサイエンティスト育成講座」は、そんな皆様のニーズにお応えできるサービスとして設計されていますので、この機会に、是非ご検討いただければと思います。
トップデータサイエンティストが教える データ活用実践教室
- 第1章:スピードを求める人のためのデータ分析術|分析は短サイクルで何回も
- 第2章:どうすれば良い分析ができるのか|issue-based problem solvingのススメ【今回】
- 第3章:会社を動かすデータ分析戦略|アウトプットではなくアウトカムを重視せよ
- 第4章:データサイエンスを活用しよう|従来の戦略論とデータ分析を組み合わせる
- 第5章:分析官の決断|社内ハッカソン、社内アイデアソンもやってみてはどうか
- 第6章:予測分析の技法|予測の前に”課題”を括りだそう
- 第7章:データ活用の未来|万能型データサイエンティストはつくれない