「応用」=基本に関する共通理解があることが前提
今年もそろそろ半分が過ぎようとしている今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
本日は、暑い日が続く関東平野な生活を、さらに暑苦しくしてくれるマンガをご紹介します。あの「漢気(おとこぎ)」の代名詞、北斗の拳のパロディマンガ「北斗の拳 イチゴ味(1巻・2巻)」です。
北斗の拳 とは
まさか知らない人はいないであろう名作 北斗の拳 ですが、一応簡単にご説明しておきますと・・・
日本が核の炎に包まれた199X年の後、ヒャッハーを口癖とするファンキーな格好をした大男が闊歩する何となく日本っぽい地理感のエリアで、愛に生きる漢(おとこ)ケンシロウが、一子相伝の必殺拳「北斗神拳」を操り、邪魔する奴は指先ひとつでダウンな感じで強敵と書いてトモと呼ぶ人たちを、旧友だろうと血縁だろうと義兄弟だろうと、片っ端から容赦なくボコボコにしていく世紀末覇者列伝
な物語です。
魁!男塾 と並び称される「漢(おとこ)が読むべきマンガ」です。
北斗の拳イチゴ味 とは
しかし、本日ご紹介するのは、その「北斗の拳」ではありません。「北斗の拳 イチゴ味」です。2014年6月時点で、2巻まで発売され、累計42万部と大人気の北斗の拳パロディマンガです。
主人公は、(たぶん)聖帝サウザー様です。退かない媚びない省みないの3拍子揃ったあの人です。
そして、基本的に、登場人物全員disられてます。サウザー様もシンも「おかしなキャラ」に設定されます(ある意味で、”見た目通り”のキャラ設定になるわけです。)南都五車星の扱いなんて、最悪ですし、さらにアインに至っては、台詞は全部「意味不明な英語(グランドキャニオン とか)」です。本来の主人公ケンシロウは完全にアホ扱いですが、ラオウとトキがまだギリ常識人かなという感じで、リンとバットが真っ当な突っ込み役、という役どころです。
パロディ≠ギャグ だが、本作は パロディ+ギャグ
本作は、基本的に「ベタなシュール」という分類になると思います。
原作の作画担当である原哲夫氏のタッチをかなり高精度に模倣できる人が作画を担当し、表情やポーズは徹底的に原作に忠実に描かれます。
面白さは「台詞」にあります。もちろん、小道具などでの面白さや、コマ割の工夫、もありますが、基本的には「似た絵・似た構図」で「全然違う事を言っている」というところが鍵です。
昔、リクルート社のホットペッパーのCMが、アテレコだったのを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。構図としてはアレと同じです。「もともとシリアスな演技」の上に「意外性のある台詞」を乗せてギャップで笑いを誘うわけですね。
そして、この構図に「ベタなギャグ」をこってり乗せることで、笑いを積み上げたい、という構図になっています。
原作を読んでいないと笑えない
この笑いを理解するためには、非常に大きな「前提」があります。
当然ながら、「北斗の拳」の世界観およびキャラクターを知っている必要があるわけです。この「原作・原典を知らないと本質的には笑えない」というハードルの高さは、中村光さんのブッダとイエスが立川で暮らす不条理ギャグ漫画「聖☆お兄さん」に通じます。原典を知らないと、ギャップが理解できないわけです。
笑いの基本構造として「ギャップ」を選んだ以上は、この「原作を知らないとダメ」という制約は非常に大きくなります。特に、原作のキャラクターを拡大解釈したり、行動の真意が一般の理解とは違った、というような深い部分での理解、を求めているため、北斗の拳を読んだことが無い人には、何が面白いのか理解できません。
ベタなギャグによる一般層の取り込み?
この前提知識が薄い人でも、本作だけで楽しめるように「ギャグ」要素を強く加味しているのではないかと思います。(違ったらごめんなさい)
その「ギャグ性」は、方向性は”シュール”系なのですが、その使い方は”ベタ”です。テンドンを多用し、属性が似たキャラをグルーピングし、オチも比較的シンプルなものが多いです。全コマでボケてやる、という気概を感じます。個人的には嫌いではないです。
しかしながら、あまりに原作キャラが「濃い」ため、その「ギャグ」要素は霞みます。なんせ、初登場してから数ページで死体となる脇役でさえも際立つキャラクター揃い(ビジュアルのみならず、言動も)の北斗の拳です。主要人物のぶっ飛び方は半端ないわけです。知らない人は、そのビジュアルだけで笑っちゃうわけですから、「全員そろって濃いキャラな人たちが、揃って面白いことを言う・やる」というのは笑いとして”重すぎる”ように思えます。(例えば「逆の事例」としては、魁!クロマティ高校の神山くんが、唯一”普通の見た目”だから笑いが引き立つのが好例です。スイカに塩って奴ですね。)
となると、やはりターゲットは北斗の拳ファンとなってしまうのでしょうね。致し方ないことです。この本は、企画としては非常に優れていますので、北斗の拳ファンは、ちょっと読んでみてもいいんじゃないかな、と思います。そして、本書を読む=北斗の拳をもう一度読む、ということを意味します。つまるところ「北斗の拳の販促本」ということになります。(しかし、発行元は徳間書店。マーケティング戦略的にどうなんでしょうか・・・と思ったら、実は「北斗の拳 究極版」が徳間書店から出版されていました。なるほど、さすがや。)
応用 のむずかしさ
本書を読んでいて強く感じるのは「応用する」ということが如何に難しいか、ということです。
応用と言うのは、基本があるから成り立ちます。「基本」を深く理解し、「基本」の本質を捉えなければ、「応用」はできません。(せいぜい「模倣」で終わります。)
本書の場合、「北斗の拳」というものを深く理解しておかないと、キャラをズラす、という行為が成立しません。構成の段階で、決してそのキャラが言いそうにないこと、を探さないといけないので、本質を理解していないと「普通のこと(=そのキャラが言いそうなこと)」を言わせてしまいかねません。それは、ギャップを生まない=面白くない という事につながります。
この話は、ビジネスの世界でも同じことだと僕は思います。例えば、他社事例やケーススタディにおいて「本質」を見抜くことを怠ると、「ふーん」で終わります。(っていうか、世の中の大半の人は「ふーん」で終わってますよね。実際。)また、資料作成において、棒グラフの色をどうするのか、あるいは、パワーポイントで四角と角丸四角をどう使い分けるのか、→と⇒、「」と【】、などに意味はあるか、などなど色んなルールが各者各様(あるいは各社各様)にあると思います。しかし、これらのルールをいくら丸覚えしても無駄です。なぜ、そういう使い方をするのか、を知らないと(正確には、自分の頭で考えないと)他の資料を作成する際に応用することができません。
そして、ここが非常に重要なポイントなのですが、「応用した結果」を誰かに伝える際には、その「相手(本書の場合は、読者)」にも「基本」の理解を求めているのです。一定の共通認識が無いと、話が通じません。
仕事においては「前提の省略度合い」が鍵
顧客なり、上司なり、(あるいはチームメンバーなり)に何かを説明する場合、重要なのは「前提を共有すること」です。しかし、前提を全てしゃべっていると、前提共有だけで時間を使い果たしてしまいます。それでは目的が果たせません。ですので「端折っていいところは、可能な限り端折る」ということになります。
ここで「どれくらい端折れるか」が鍵です。必要最低限の「前提」だけ共有する、のです。(反対に、端折り過ぎると「自己満足なプレゼンテーション」になってしまうわけです。難しい所です。)
本書の場合、表紙が「原哲夫タッチの聖帝サウザー」で、タイトルが「北斗の拳 イチゴ味」です。明らかに「北斗の拳に関する何かだ」という事が分かります。一方、「イチゴ味」という文字は、北斗の拳らしからぬフォントで書かれ、サウザーの台詞もサウザーらしからぬウェルカム感を醸しだし、さらにはイチゴの画像も差し込まれています。これで「原作通りという事はあり得ない=きっとパロディだろう」ということが読み取れます。
メインターゲットの北斗の拳ファンが、思わず手に取るには十分のインパクトであり、情報量です。
仕事において、このような「共有しておくべき前提情報」がなんなのか、を正確に理解した上で「どこまで冒頭で伝えるか」を考えるということは、残念ながら意外と行われていません。そして、それが大きなリスク=最終目的達成に対する障壁となり得ることも理解されていません。
例えば、本書の場合、原作だと間違えて買われてしまう、というのは大きなリスクです。最終目的である「笑いを与える」どころか、反対に憤りを与えることになり得ます。それを、前述の通りの前提情報の伝達により回避しています。(あとは、中身が面白いかどうか、という議論になりますが、それは「誤解による失望・憤り」ではないため、ここでは論じません)
本書を読む方は、原作を再読するにとどまらず、日々の仕事での「前提の共有の大切さ」と「自己満足なプレゼンテーションにならないための機微」をかみしめていただけると良いのではないかと思います。
それでは、最後に、本書より雲のジュウザ(パロディ版)さんの迷言葉 with 炎のシュレンさん&風のヒューイさん を引用して〆たいと思います。
炎のシュレン:おまえは色んな意味で自由をはき違えているのだ!!
雲のジュウザ:フッ はき違えるも 自由
炎のシュレン:なんて難しい子なんだ!!!
炎のシュレン:いいか五車星において おれ達はおまえの「自由」というキャラクター性は買っている だが定義のない「自由」ほど扱いづらいモノもないのだ!! すでにおれたちはリハクというぼやけたオヤジを背負っているんだ!! その上でおまえがしっかりしてくれないとマズイ事になるんだぞ!!
雲のジュウザ:フッ しっかりしないのも自由?
炎のシュレン:オイオイ 自由を飛び越えて一休さんを気取ろうとしてないか!?
雲のジュウザ:スイッ 我が拳は我流 我流は無形!!
炎のシュレン:うんっ そういうのはもっとやっていこう!!
風のヒューイ:あと貯金とかするなよ!!基本待ち合わせには遅れてこい!
雲のジュウザ:ニヤリ フン自由のための自由なんて自由じゃねぇ!!
風のヒューイ:やっぱ難しいぞ シュレン!!
というわけで、自由をはき違えた結果、週末だからと言って会社の公式メディアにこんな駄文を書き殴る僕をお許しください。天よ。