JR西日本SC開発株式会社では、2019年9月より、JR 西日本グループが運営するショッピングセンターで利用可能な共通ポイント&おまとめアプリとして「WESPO(以下、アプリ)」の提供を開始しました。それまで各施設が独自に保有していたポイントシステムを統合したこのサービスは、鉄道やホテルなどグループ内の別事業も巻き込み、2024年4月に開始した共通ポイントサービス「WESTERポイント」の礎となりました。
会員数170万人を抱える「WESPO」は、今ではポイントサービスとは異なる新たなミッションを担い、進化を続けています。
今回、本プロジェクトを牽引してきたJR西日本SC開発株式会社 カンパニー統括本部 事業戦略室 主任 石川宗志郎氏、JR西日本SC開発株式会社 カンパニー統括本部 事業戦略室 上原眞子氏(株式会社メンバーズから業務委託)に、当初の課題感やこれまでの取り組み、今後の展望について、ギディア クリエイティブ&ブランディングディレクターの石山瑶留が聞きました。
- JR西日本グループショッピングセンター共通ポイント&おまとめアプリ「WESPO(ウエスポ)」誕生!(2019/7/31) https://www.westjr.co.jp/press/article/2019/07/page_14606.html
- 「WESTER ポイント」サービスがいよいよスタート(2023/2/22)https://www.westjr.co.jp/press/article/items/230222_00_press_point.pdf
目次
ポイントアプリから毎日使われるアプリを目指した新たな取り組み
石川:JR西日本グループでは、JR西日本沿線の東は富山から西は鳥取・島根まで、約40の商業施設(ショッピングセンター、以下「SC」)を運営しています。私たちの部署では、これらのSCに関わる「グループシナジーの拡大並びにCRM推進」という大きな取り組みの中の全体戦略などを担当しています。
私たちがCRMと呼んでいるのは、SCに来館してくださる1人1人との関係性の向上です。例えば、年に1・2回来館される方と10回来館される方とでは、翌年以降も継続して来ていただける確率が変わってきます。私たちは会員獲得はもちろん、会員になっていただいた方にいかに来館していただくかを考えていて、アプリやダイレクトメール(DM)などは、そのアプローチ手段の一環となります。
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JR西日本SC開発株式会社 カンパニー統括本部 事業戦略室 主任 石川宗志郎氏 関西大学卒業後、天王寺SC開発㈱(現JR西日本SC開発㈱)に入社 天王寺ミオでは催事や地域共生担当を従事。現在はカンパニー統括本部 事業戦略室にてCRM戦略の推進及びWESPO My リワードの企画を担当。 |
上原:私はWESPOのプロダクトマネージャーという役割を担っています。
WESPOアプリは当初、当社グループ系列のSCがそれぞれに発行していた独自のポイントカードを1つにまとめて、共通ポイント化する目的でスタートしました。詳しくは当社のカンパニー統括本部 事業戦略室のマネージャーである石神のインタビュー記事にまとめていただいていますが、SCでのポイント共通化が成功したことで、2023年4月には鉄道やホテルなど、グループ全体での共通ポイント「WESTERポイント」が誕生しました。
- WESPO、WESTERポイント…JR西日本の「ポイント」をめぐる8年物語 対談:JR西日本SC開発 石神孝浩氏 ギックスCOO 花谷慎太郎(2024/09/20) https://www.gixo.jp/blog/25395/
WESTERポイントに統合されたことで、WESPOアプリは‟ポイントをつけるアプリ”ではなく、CRM施策の1つとして会員様に対してどのようにアプローチしていくのか、新たな役割を考える必要がありました。まずは、ポイントを付けるときにしか開かれないという状況から脱却し、もっと使っていただけるようにするための取り組みとして「WESPO My リワード」を進めていました。
打ち上げ花火にならない企画を設計するためにコンセプトを設定
上原:「WESPO My リワード」というのは、アプリへのログインやトピックスへの‟いいね”、アンケートへの回答などで‟リボン”というインセンティブを獲得でき、貯めると景品等に交換ができるという機能です。開発の背景として、お客様との第一接点はSCのリアルの場ですが、第二の接点として会員数を伸ばしてきたアプリも有効に活用し、オン/オフの両面でシームレスにという思いがありました。
「気づいたらなんだか能動的に使っていた」という状態を目指していたのですが、これまでの「ポイントをためる」という使い方とは別の特徴の機能であるため、「WESPO My リワード」への理解・認知を向上させるには少しハードルがあると感じていました。認知・拡大の方法を考えた時に、どうすれば実現できるのか、まったくイメージが湧いていない状況でした。ギディアさんとお会いしたのはそんなタイミングでしたね。
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JR西日本SC開発株式会社 カンパニー統括本部 事業戦略室(株式会社メンバーズから業務委託) 上原眞子氏 |
石山:石神さんからお声がけをいただいたのが2024年2月で、ちょうど天王寺ミオさんのお話しをいただいた1~2週間後ぐらいでした。まずは上原さんにお会いしてヒアリングやディスカッションをさせていただきました。
- 30周年の節目を前に立ち返る「ミオらしさ」 天王寺ミオ 販売促進グループの最初の一手(2024/12/03)https://www.gixo.jp/blog/26199/
上原:最初は「WESPO My リワード」の認知獲得のための広告の出し方の相談という感じで、‟イラストを使う”というアイデアだけお伝えしていました。
石山:これまで単発の広告出稿のために有名なイラストレーターさんを起用したとしても、打ち上げ花火で終わってしまうケースを数多く見てきました。同じ費用をかけるなら、今後にもつながり、広がっていくようなものにしたい。そのためにも、まずはコンセプトから考えることにしました。
上原:ギディアさんと出会う前からサービスの設計は進んでいましたので、頭の中にイメージはありましたが、アウトプットがなかなかできなかったんです。なんとかイメージを伝えたいと思い、一通り資料をお渡しして。
石山:たくさんの資料から、目的や方向性、課題などを整理し「What you say?」から紐解きお渡しした資料から、仮デザインコンセプトの「自分らしい自分に」を、そのまま採用いただいて。
上原:「その通り!」という感じでした。なんて言うんでしょう…感動でした!資料からこんなに読み取っていただいたのかと。
石山:そう言っていただけて嬉しいです!
「WESPO My リワード」で届けたい「キュン」
上原:それからコンセプトをさらに深める中で、アプリとしてどうありたいかなど、ディスカッションを重ねていきました。少し煮詰まってきたタイミングで、石山さんが「1度真面目に考えるのやめましょう」と(笑)。
石山:そうでしたね(笑)。学校の課題でも多分そうですが、皆さんとお話して全員が楽しいと感じる環境でないと、良いアイデアが生まれた試しがないなって。
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株式会社ギディア EO・Creative Consultant Creative&Branding Director 石山瑶留 外資系企業など数社に勤務後、CCCグループのデザイン会社へ入社し、執行役員として複数のプロジェクトやブランディングを歴任。株式会社ギディア立ち上げ時に参画し、クリエイティブコンサルタントとしてブランディング、クリエイティブディレクション、プランニング、スペースデザインなど、幅広い領域を一気通貫して担当。 |
上原:「真面目に考えるのをやめた」ミーティングで、後に「WESPO My リワード」の枕詞にもつながる「キュン」というキーワードが出てきたんですよね。
- WESPO アプリ新機能 日常をキュンに彩る「WESPO My リワード」がリリース(2024/8/5)https://www.westjr.co.jp/press/article/items/240805_00_press_wespo_new_1.pdf
以前からアプリとお客様の距離は近いのに、私たちSC側からはアプリを使ってくださるお客様と少し遠い印象がありました。もう少し生活に寄り添う、馴染むようなアプリになっていきたい。そのためにどういう姿でありたいかといった議論はしていたのですが、なかなかピンと来る言葉がなかったんです。
石山:「キュン」が出た時、「それだ!」ってなって、キャッチコピーの「スパイスひとふり、キュンな日常を」が決まりましたね(笑)
上原:「WESPO My リワード」の仕組みや打ち出し方がだんだん決まっていく一方で、リボンを集めた方にお渡しする「景品」の用意に全く手が回っておらず。そんな中、ローンチ2か月前の6月に石川が異動してきました。
石川:着任してすぐに「WESPO My リワードの景品をローンチまでに全て揃える」というミッションが課せられました。他にも覚えなければいけない業務もある中で、本当に景品を揃えられるのかというプレッシャーがすごくて、もうあの頃には戻りたくないですね(笑)
景品はなんでもいいというわけではなく、「キュン」とするモノという条件がありました。私が思う「キュン」と上原が思う「キュン」にはズレがあり、最初はその意図や定義を探らないといけないなと。毎日いろいろな商品を挙げてみて、感想を聞いていたのですが……。男性なのでコスメなどを見てもよくわからなくて、食べ物ばかり探していました。WESPOユーザー・SCユーザーは7~8割が女性ですので、女性が「キュン」とするものとはどういうものか、もらって嬉しいものを調べてみたり、妻に聞いたりしながら探しました。
上原:本当に大変な仕事だったと思います(笑)。
石川:選定にはもう1つの条件があります。「WESPO My リワード」の景品提供は、企業さんとの協業として進めること。提供してくださる企業様の商品/ECサイトやホームページと、当社会員170万人を繋ぐことで、当社並びに連携する企業様双方にとって価値がある取り組みとするためです。
商品にこだわりをお持ちのDtoC企業を中心に、ホームページで調べて電話をかけるという、地道な営業を行いました。その裏側では、景品表示法に抵触しないよう、法務確認も進めていました。
ローンチまであと3週間となった時、『5つぐらいのラインナップで300個用意する』という追加ミッションも課せられて。これは用意できないかもしれないと思っていたのですが、賛同していただける企業さんも見つかり、最終的には目標とする商品数を用意することができました。
協業企業さんからは、自社の商品を170万人の会員に見てもらうことができるのはありがたいというお声や、ポップアップイベントや店舗で、‟WESPOで見たよ”と言っていただいたというお話しもいただきました。現在WESPOに掲載しているリワードは第5弾となりますが、継続的に関わってくださる企業さんもいらっしゃいます。私たちと提供してくださる企業さん、そしてWESPOを利用するお客様、3者がWin-Win-Winの関係を実現できました。
上原:ギディアさんのプロデュースする「継(つぐ)」も、第2弾から景品にさせていただきましたね。
お取り組みを開始した時に、「継」についても紹介いただいていて。「キュン」というキーワードにも合うので、一緒に取り組みをしたいと思っていました。
- クリエイティブ&ブランディングディレクター石山瑶留が手掛けたライフスタイルブランド『継(つぐ)』が三井住友カードメンバーズセレクションに採用(2024/2/13)https://www.gixo.jp/news-press/24008/
石川:「継」は様々な伝統産業の方と協業されていて、「WESPO My リワード」の景品ラインナップとして、継続して取り組んでいきたいと考えています。SCは楽しい買い物だったり子供の遊び場だったりと、体験の提供に重きを置いています。「WESPO My リワード」でも、キュンとする「モノ」だけではなく、いずれは「コト」も提供する予定です。
各地方の伝統品に触れる体験は、旅行に行ってその場で触れるというハードルがありますが、我々がプラットフォームとしてお客様に触れてもらう機会を提供できるのではないかと考えています。これもお互いにWin-Winの関係ですし、「キュン」と伝統産業というのはとてもマッチしていると思います。今後は「継」の商品だけではなく、製造元の見学などの体験も景品として提供していければと思っています。
石山:石川さんがおっしゃるように、「継」が地域を活性化するきっかけになればいいなと思っています。「継」のベースには、後を継ぐ人が足りないという課題により、日本の素晴らしい技術力が途絶えてしまうことがないよう、継承していけるような座組を作る必要があるという考えがあります。WESPOさんでのお話しを聞いて、本当にぴったりだなと心から感じた嬉しいお声がけでした。
PRキャラクターとして今後の展開も考えた新しい提案
石山:「キュン」というワードが固まったことで、当初のイラストを使うというところから発展し、男の子のキャラクターを中心に複数体制作する方向性の提案へ繋がりました。JR西日本SC開発さんのオリジナルキャラクターができれば、SC内の掲示物や配布物のほか、WESPOをはじめとしたオンラインコンテンツにも自由に活用できますし、もっと言えばグッズ化や、ポップアップショップ・イベントの開催、ノベル/コミカライズ展開やドラマ化なんてことへも広げることができますね。
上原:WESPOの主要ターゲットは主に女性ですので、女性が共感して「キュン」としてくれるということを考えると、なんとなく女の子のキャラクターがいいのかなと思っていましたが、全く新しいご提案をいただいたのでびっくりしました。
石山:私は日頃から、最初に100まで先の展開を考えて提案をしています。どこまでやるのかは皆さんと話しあって決めることですが、もし10までしか考えていなかった場合は10で止まってしまい、その後迷走していくことが目に見えているなら100の方がいいなと。
上原:1度頭を真っ白にして考え直したとおっしゃってましたよね。
石山:そうなんです、真っ白にしましたね。(笑)「キュン」を軸にしたら、格好良い男の子のキャラクターが含まれている方が良いだろうと、社内でも相談したり話しました。そしてWESPOのPRキャラクターであるということは第一として、今後もいろいろな展開を広げていくことを考えたら、人数も多い方が良いのではないかと考えが広がっていった感じでした。
その最初のキャラが天上帝(てんじょう・みかど)くんというわけです。複数であることの重要性を伝える中で、結果的にギックスからも予算を出して協力して作るという動きにもつながりました。
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左から水無瀬 鶫(みなせ・つぐみ)、天上 帝(てんじょう みかど)、水無瀬 大牙(みなせ・たいが)。
- WESPO My リワード紹介ページ https://wespo.westjr.co.jp/rewards/
おしゃれなキャラクターにより、お客様がファッションに関心を持つきっかけを作り、その流れからSCのファンになっていただけたらという思いがありますし、もちろんそれぞれのキャラクターのことも「推し」てもらえたら、嬉しい限りです。
上原:「認知拡大のためにキャラクターを作る」という施策は、最初は社内で理解を得るのは難しかったですね。私にも‟推し”がいるので、「キュン」を軸にした石山さんの提案にとても共感したのですが、”推し”がいない人にはなかなか理解できないかもしれません。正直言って、社内でも信じて進めるしかないといった雰囲気だったのですが、8月のリリースやキャラクターに対してSNSで大きな反響をいただいたことなどを受けて、今は社内の理解も得られています。結果で示していくしかないと思いますので、SCのお客様にもっと認知されるような施策を行っていきたいですね。
石山:そうですね。複数のキャラクターを展開していくことで、それぞれの性格などのユニークさに対して、お客様が思い入れを持っていただけると嬉しいなと思っています。お客様だけではなくて、社内の皆さんにも”推し”ていただけるとありがたいですよね。女性に限らず様々な方々に、男性や年配の方にも、自分の経験と重ね合わせてみたり、お子様やご家族などとの共通性を感じていただいたり、いろいろな楽しみ方をしていただけたらなと思っています。
SCへの来店動機として日常に溶け込むWESPOへ
上原:「WESPO My リワード」は2024年8月にローンチしていますが、まだまだ認知させていく必要があります。サイネージ広告や新しいキャラクターのお披露目など、これから認知拡大に向けた施策を展開する予定です。
石川:私たちが携わっているWESPOアプリやリワード・キャラクターなどは、全て当社グループのSCに来ていただき、そこで楽しんでファンになってもらい、生涯を通じて身近なSCとして買い物を楽しんでいただくということが目的です。WESPOはSCのファンになってもらうきっかけに過ぎないと思うので、目指す理想の姿は、お客様の日常にWESPOが溶け込んでいることだと思っています。
お買い物をする時にWESPOを開くのではなく、来週休みだからWESPOで天王寺ミオの情報でも見ようとか、リボンが貯まったからリワード交換しようといった使い方になれば良いなと考えています。
上原:石川と同じく、WESPOが生活に溶け込んで使ってもらうことを目指し、今回のギディアさんとの取り組みであるキャラクターたちは、WESPOとお客様の新しい接点として認知の役割を担いながら、SCを盛り上げるために活用していきたいと思っています。そのためにも、WESPOやSCを知る・利用するきっかけとなるようにキャラクターを活用し、それをきっかけにSCへ足を運んだりWESPOを利用したりしていただき、そしてそこで素敵なお買い物体験をしていただく、という一連の体験を、いかにスムーズに楽しく作れるかが大事になるかなと思っています。
石山:WESPOは素晴らしいアプリケーションだと思っています。 いろいろな企業さんで‟全部繋げたいけどバラバラになってしまっている”というのはよく聞く話ですが、JR西日本のWESPOは全部の商業施設繋がっている状態の座組がしっかりできています。
このWESPOを、SCとお客様とのコミュニケーションツールとして適切に機能するように接続することが、私たちの一番大きなミッションだと考えています。例えば、いつも行くSCではなく、ほかのSCに行こうとしてアプリ上で情報を見たときに、行ってみようと思う仕掛けがあったりすると面白いかもしれませんね。
最終的には、お客様やSCで働いている方、開発に関わる方の全員が、‟やって良かった”‟体験して良かった”と思える楽しい毎日に繋がれば、ご依頼いただいたことは実現できているのかなと思いますので、今後も様々な方々に親しまれるようなアプリになっていけるよう、皆さんの夢が広がるように、尽力して参ります。