【考察】B2B領域における「ファンベース」とは?|誰を「ファン」と定義するのか、何の「ファン」になってもらうのか

AUTHOR :  田中 耕比古

法人の「人格」を、どのように捉えるべきなのか

先日の書籍「ファンベース」の読書録を皮切りに、すっかり「ファンベース」の虜になっている僕です。こんにちは。

虜になったと言いつつ、どうしても、「ファンにする」とかいう観点が強いんですよね、実は。既存のファンを理解し、大切にする、というスタンスになれない。どうしてかなと考えていたんですが、やっぱり僕はB2B(BtoB)の世界に居て、且つ、特定少数の顧客を相手にするタイプの仕事に、どっぷり浸かってるせいなんじゃなかろうかって思うんですよね。

今いる既存顧客の中に「ファン」がいる。その人たちのことを大事にすると、それ以外の既存顧客および、まだ顧客になっていない人たちの中から「ファン」になってくれる人が現れる。

この話って、基本的には「顧客(および顧客予備軍)が多く存在し、その人たち同士が自由に交流する世界観」の話になるんじゃないかと思うんです。コンサルティングは、クライアント同士が交流する場を設定するには、一定の制限がありますし、どんな便益を提供したのか(クライアント側からすると、提供されたのか)は守秘義務の関係で共有することは困難です。そうなると「顧客体験」がうまく伝播していかない。

だから、やはり「ファンに ”する” 」という風な感覚になっちゃうんですよね。

そのせいで、頭では理解できても、自分自身の肌感覚とイマイチ折り合いがつかないってことなのかもしれません。

そんなことに思い悩んでいるわけですが、その悩みの一環として僕が抱えているのが「B2B領域におけるファンベースとは、どういったものか」というお悩みです(ファンベース関連書籍「ファンに愛され、売れ続ける秘訣」の読書録でも、その話をしています)。それでは、本日は、そちらの話を。

ファンになるべき「顧客」とは、企業組織なのか、担当者個人なのか

B2B領域における「ファンベース」を考えるにあたって、問うべきは「誰がファンになるのか?」と「なんのファンになってもらうのか?」という2点ではないか、と僕は考えています。

ファンになる(もしくは、ファンである)のは、顧客です。これは間違いない。しかしながら、B2Cならば「顧客=個人」なんですが、B2Bの場合は「顧客=法人」なのが、話をややこしくします。「法人がファンになる」って、どういうこと?そんなことできるの?って疑問が出てきます。

この話において、イメージしやすいのは「担当者がファンになる」ことです。担当者は、人(個人)です。人格もあり、感情もあります。その人がファンになるというのは、しっくりきますね。

ただ、それだけでは「会社(法人)」がファンになった、とは言えません。取引関係が強固になるかどうかは、微妙なところです(もちろん、担当者の決裁権限の大きさ、決裁範囲の広さなどにも依りますが)。

どうしても、B2Bの場合には、組織そのものが「ファン」になることを目指す必要がでてきます。もちろん、組織は所属する人の集合体であって、組織が意思を持っているわけではありません。とはいえ、その組織の向いているベクトルは「好意的」なものであるべきですし、「継続利用意向」も組織として持ってもらうようにしていかなければならないでしょう。

いくら担当者個人がファンになっても、異動や退職、転職などによって、会社との取引への影響力が下がります。そういう事態を回避するためには、組織が求めているものを提供し、組織が追いかけているKPIに貢献していくことが重要になってきます。ここが、B2Bにおける「ファンベース」のポイントになりそうです。

「商品・サービス」のファンになるのか、「営業パーソン」のファンになるのか

続いては、ファンが好きになる対象のお話です。普通に考えれば、提供する商品やサービスのファンになってもらうのが王道です。B2Cでも、そのパターンが多くなると思います。

一方で、もう一つの考え方としては「営業パーソン」を好きになる、というものがあります。B2Cにおいても、担当営業がつくこともありますが、B2Bの場合は、特殊な例外を除いて、まず間違いなく担当営業がつきます。その「担当営業」のファンになってもらう、ということも考えられます。

先日ご紹介した(そして、本記事内でもリンクを貼った) 「ファンに愛され、売れ続ける秘訣」は、営業パーソン向けの、自分自身を売り物にしてファンを獲得する、というお話でしたので、まさに、このパターンだと言えます。

ただ、この場合は、どうしても「担当営業(個人)と相手(個人)」という関係性になってしまいます。そりゃそうですよね。組織(法人)が、個人を好きになる、というのは成立しません。

こう考えると、

  1. 「個人(担当営業)」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる
  2. 「商品・サービス」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる
  3. 「商品・サービス」に対して、「法人(会社組織)」がファンになる

の3パターンしか成立しないんじゃないか、と思えてきますね。

B2Bの「ファンベース」の3パターン

1. 「個人(担当営業)」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる

そのうち、ひとつめの、「個人(担当営業)」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる は、シンプルですね。人が人のファンになる、は、当たり前の話です。アイドルビジネスもそうですし、世の中の多くの接客業は、このタイプの関係性を構築していきます。

B2Cでも、B2Bでも、基本的に「気が利いていて、誠実な人柄(に見える)」「自分の営業成績よりも、顧客の幸福を優先している(ように見える)」タイプの担当営業が、ファンを作りやすいと思います。(この領域に興味がある方は、上述した書籍を読んでみていただくと良いかもしれません。)

2.「商品・サービス」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる

続いては、「商品・サービス」に対して、「個人(先方の担当者、サービスの利用者)」がファンになる、というケースです。これも、シンプルですね。というか「ファンベースの思想そのもの」です。B2Cと基本的な構造は変わりません。

ただ、B2Cよりは、商品選定に際して、機能的価値が占める部分が増えてくると思います。そのため、ファンになる際に重要なポイント=ファンが好きなポイント、も、自然と機能的価値が中心になってくると思われます。(B2Cだと、情緒的価値が、相当効いてくると僕は理解しています。)

例えば、ITツールであれば、「そのツールが使いやすい」とか、「操作に慣れている」とか、そういう話もあるでしょう。この方向に突き進むと、デファクトスタンダードになっている、などの理由で、ベンダーロックイン状態になっているケースと似てきます。マイクロソフトのOffice(PowerPoint、Excelなど)は、Google Slide, Spreadsheetなどがかなり普及してきた今でも、根強い「それに慣れてるから」層が存在します。(僕も、そっち側です)これは、「好むと好まざるにかかわらず」みたいな話になるので、ファンとは違いますね。

分析ツールや、各種クラウドサービスなども、仕様や操作方法が違うため、「これじゃないとダメ」という話になります。

ただ、その際に、一定の「魅力」を感じさせられれば、「ファン」も作れます。アップルが好例ですよね。アップル社のMacも、選定基準としてスペックが良いというような機能価値があり、また、ひとたび操作に慣れてしまうとWindows機を使えないというベンダーロックイン型の構造になっています。しかしながら、商品のデザイン性も含めた「ブランド」としての価値が高く、ファンを多く抱えていると言えます。

そういう意味で、ユーザーコミュニティを作り、操作方法や便利な機能の紹介などを促進するような活動をしている企業も多くありますし、そこから発展して、大きなユーザーイベントを開催する企業もあります。(僕が身近な領域だと、セールスフォースや、AmazonのAWS、GoogleのGCP(Google Cloud Platform)などが、ラスベガスなどで世界規模の大きなイベントを定期的に開催しています。)

こうした活動は、B2B企業における「ファンベース」の好事例だと言えるかもしれません。

3.「商品・サービス」に対して、「法人(会社組織)」がファンになる

しかしながら、やっぱり考えるべきは、3つめの「商品・サービス」に対して、「法人(会社組織)」がファンになる というものだと思うんです。いや、僕の主たる興味領域がそこにある、と言うべきですね。

法人が、その商品を好きになる。何度も述べたように、非常に想像しにくい状況です。しかし、「ある法人が、その商品を使い続ける理由がある」という風に考えると、少しヒントがありそうです。

  • ベンダーロックインされている
    良いか悪いかは置いておいて、B2B商品・サービスは、業務に組み込まれます。セールスフォースを導入するならば、それを使うことを前提にした業務設計が行われます。AWSやGCPを選べば、その後に開発されるモジュール群は、その環境に最適化されたものになります。
    これは、「ファン」とは異なりますが、「使い続ける理由」になります。
  • 性能や品質で他を寄せ付けない(明確な差別性がある)
    あるいは、高い性能、高い品質、のようなものがあれば、それもまた、継続利用の理由になります。他のものに切り替えることが会社にとってマイナスになるならば、合理的に考えて、使い続けることになります。他社の同等品よりも明らかに安い、なども、この分類に入るでしょう。
    これは、ある意味では「ファン」と呼んでも良いかもしれません。ただし、差別性だけで勝負していると、その差別性を上回る競合(より品質が高い、より価格が安い、など)が現れた際には、切り替えられてしまうでしょうから、こういう商品・サービスこそ「ファン」になってもらうように努力すべきなのかもしれませんね。
  • 対応力・即応性などの定性的な付加価値でつなぎとめる
    そこで考えられるのが、定性的な付加価値提供です。急な依頼にも対応してくれる。仕様変更やカスタマイズ依頼にも全力で応えてくれる。新しい提案をどんどんしてくれる。など、ベーシックな商品・サービスの機能範囲・価値提供範囲(つまり、基本料金に含まれている部分)以外の領域で、付加価値をだしていくことは、B2Bにおける「ファン」が最も重視するポイントなのではないか、と僕は思います。もちろん、全て無償でやる、ということではなく、正当なる対価をもらうべき部分は、しっかり請求するという前提です。
    上述した「1」の「営業担当者のファンになってもらう」という話と似ている部分はありますが、ここでは「自社の組織力」で相手に訴求するところがポイントになると考えます。営業パーソン個人が頑張ってなんとかするという世界ではなく、商品・サービスを提供する企業・組織が、しっかりと顧客企業のニーズをとらえ、答えていくという姿勢に対してこそ、「ファン」になってもらえるんじゃないかな、と。
    また、この「姿勢(企業姿勢)」には「商品・サービスを、顧客の要望に合わせて、どんどん機能追加していく」というようなものも含めて良いと思います。(CSRとか、SDGsとか、そういうのも加えてもよいですが、ちょっと本筋からは外れるかなぁ・・・)

結論:B2Bでも、ファンベースは実現できそう(が、論点は残る)

と、長々と書いてきましたが、このように考えていくと、やはり、B2B領域においても「ファンベース」の理論は、十分に適用できそうだなと思えます。

構造的には、「ファンは、どの部分に魅力を感じてくれているのか」を調べて、その部分を強化する、という話ですし、ユーザー会などを通じて情報を共有・拡散していくという話ですから、「ファンベースの方法論」に則って実行することが可能そうです。

一方で、機能的価値や、直接的な提供便益といったものが、より強く求められるという側面もありそうです。また、冒頭に述べたように、コンサルティング業などの「守秘義務」「秘匿性」などの制約がある業種においては、情報の共有・拡散のやり方には工夫が求められるという課題もあります。

さらには、顧客の担当者をファンにする、という場合においては、個人的な利益供与等にならないように配慮する必要もあります。(そんなことをすると、顧客の担当者が、顧客企業から処罰されるリスクがあります)

こうした部分を踏まえつつ、B2B領域におけるファンベースの在り方を模索していきたいと考えます。

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