ファンベースを行動データで強化する|ゾクセイ研ブログ

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ゾクセイの考え方で、ファンベースの顧客理解が進む

先日、書籍「ファンベース ‐支持され、愛され、長く売れ続けるために‐」の読書録を公開しましたが、熱が入りすぎて長くなってしまったために、そこでは書ききれなかったテーマについて、改めて書いてみます。

例によって、いろいろ考えている途上なので、テーマがあちこちとっ散らかっていくかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

なお、タイトルにもあります「ゾクセイ研」は、「ゾクセイ研究所」というものでして、ギックスが顧客理解のために有用だと考える「2次属性」「3次属性」などを活用していく取り組みを行っているバーチャル組織です。私は、そちらの ”特別名誉顧問” という肩書も持っていますので、この記事は、ゾクセイ研の田中、ということで公開します。(なお、バーチャル組織として立ち上げて間がありませんので、私の他に存在する肩書は、現時点では「所長」だけとなっています。従って、私の顧問職の、何が特別でどの部分が名誉なのかは不明です。)

ファンベースは、ファンを特定し、理解するところから始まる

読書録 でも書きましたが、ファンベースはファンを理解し、大切にすることを基軸に置いています。そのためには、まず、「誰がファンなのか」を明らかにする必要があります。

この「誰がファンなのか」は、企業の側から見れば「どういう顧客を、ファンと定義するのか」という問いでもあります。

たくさん買ってくれればいい、とか、何回も来てくれればいい、とか、そういうシンプルなお話であれば、いわゆるRFM分析で、Recency(最新来店日)、Frequency(来店頻度)、Monetary(消費金額)で特定することができます。

しかしながら、ファンベースは、本来的には「熱狂的なファン」「コアなファン」を探しているわけですから、こうしたシンプルな指標だけで規定してしまってよいのかは、極めて悩ましい問題となります。

書籍「ファンベース」内でも「ファン・ミーティングをして、ファンをより深く理解する」というトピックに際して、「ファンじゃない人が混入するリスク」と「それへの対策」について触れられています。引用します。

まずファン・ミーティングをするためには、ファンを探してこなければならない。
サイトなどで公募するのが手っ取り早く思えるが、「ファンになりきっていない人」が興味本位で来てしまう場合があり、そうすると偏愛と発見が起こらない。その場合はちょっと面倒に思うくらいな量のアンケートを義務付けるなど、応募のハードルを上げて、よりファン度が高い人を集めるようにした方が良いだろう。

(中略)

他には、例えばすでに濃く盛り上がっているファン・コミュニティを持っているのならそこで募集するとか、NPS(注:Net Promoter Score /顧客の継続利用意向を知るための指標)の数値や購入金額、SNS投稿の内容で判断するなど、様々な抽出方法がある。

「ファンベース」 p.106

注目すべきは、上記引用の最後の部分、すなわちNPSや購入金額などのデータによる抽出です。この部分について、鍵になるのは「行動データ」なのではないか、というのが私の見解です。

行動データは「顧客の真の姿」を映し出す鏡

顧客理解という話で、最初に出てくるのはアンケートです。引用分にあったNPSも、要するにアンケート(質問)です。「この商品を友人に強く勧めますか?」と聞いて、その回答をスコアとして集計していくわけです。

こうした、アンケートは、手っ取り早く、また、大きな傾向を捉えるためには有用です。マーケティングの世界では、太古の昔より使われてきましたし、その設問の設定方法や、そこからの示唆抽出に至るまで、しっかりとした方法論が確立されています。

しかしながら、アンケートの問題点は「主観に左右される」というところにあります。その日の気分や、体調などによっても、回答が変わるリスクがあります。また、(だからこそ、設問設定の方法論があるわけですが)質問の仕方や順番によって、回答内容が変化することも多くあります。

例えば、「この商品の価格は3000円です。高いと感じますか?安いと感じますか?」と聞く場合と、「既存の競合商品の値段は4000円です。 この商品の価格は3000円です。高いと感じますか?安いと感じますか?」 と聞く場合では、当然ながら回答傾向に違いが出てしまいます。意図的にそういう設問にしている場合には、分析する時点で、そのブレ幅を調整すればよいのですが、「競合商品を、アンケート外で知っている人」と「競合商品のことを知らない人」が(判定できない状態で)回答社内に混在している場合には、回答内容を評価できなくなります。
※繰り返しますが、そんなことにならないように設問を設計して、上記のような問題を回避するのが、アンケート調査の最大のポイントです。

いずれにしても、事前の保有知識やその日の気分・体調、場合によっては天候や回答場所・回答タイミングなどで「回答内容」にブレが出てしまうのは、アンケート調査の性質上、避けられないことです。(給料日前と、ボーナス直後で「購買意向」に差が出る、とかは分かりやすいかもしれません)

一方で、「行動データ」は、客観的な情報です。

感情や体調、あるいは天候などの外部要因に左右されません。もっと正確に言うと、あらゆる変動要因が反映された後の「結果」が「行動データ」であるため、それらが全て、すでに考慮済みの状態の情報だと言うことです。

雨で気分が乗らなかったから買わなかったのか、給料日前で懐がさみしいから買わなかったのか、他の商品を買いに来ただけなので今回は買わなかった(次回来店時に買おうと思っている)のか、などの理由まではわかりませんが、いずれにせよ「買わなかった」ことが分かる。これが、行動データです。

この情報だけだと、アンケートの方が深い原因・真因に迫れるんじゃないか、と思う方も多いでしょう。しかし、行動データは日常的かつ継続的に取得可能であるということを忘れてはいけません。

アンケートは、どうしても、特定のタイミング・頻度で行うものです。(パルスサーベイのように、毎日1問応えてもらう、というタイプのものもありますが、目的も用途も異なってしまいます。)日常的に、継続的に、顧客の状態を表現してくれるという点で、行動データに軍配が上がります。

顧客が、どのように行動したのか、を示す貴重なデータ「行動データ」を用いることで、その顧客の真の姿に迫ることができます。また、しっかり分析を勧めれば、そこから一歩踏み込んで「そのとき顧客は、何を考えていたのか」を炙り出すことも可能です。

RFMでセグメント分け→各セグメントの行動パターンを分析し、再分類

少し、具体的な話に踏み込みましょう。

行動データからファンを特定しようとする際には、最初は、先述したRFM分析でシンプルに分解していくのが望ましいと思います。いきなり、詳細な区分をすることもできますが、往々にして「解釈に困る」結果がでてくるため、マーケティング施策に使いにくくなるリスクがあります。

どうしても、という場合は、行動データを用いてクラスター分析をぶん回す、という話になると思います。もちろん、それでも構いませんが、一般的な手法(k-means)では、分類の再現性が低いため、ファンベースが想定する継続的な関係構築には適していません。どうしてもクラスター分析を用いてアプローチしていきたい場合は、クラスター分析の後に「ビジネス的に意味のありそうなセグメント」を特定した上で、当該セグメントを規定するための「どの項目を、どの閾値で区分するか」を見極めて、再現性の高いセグメント定義にしておく方が使い勝手が良いと思います。

RFM分析から入るアプローチのお話に話を戻しましょう。

ゾクセイをファンの特定に用いる

RFMの上位グループを抽出します。たとえば、RFMのそれぞれにおいて上位20%以上のグループ(3グループ)を抽出した上で、その中の重なりを見てみると、「Rだけ高いグループ」「Fだけ高いグループ」「Mだけ高いグループ」「RとFが高いグループ」「RとMが高いグループ」「FとMが高いグループ」「R/F/Mすべてが高いグループ」の7グループに分解できるでしょう。

この時点で、どのグループ(もちろん、複数選んで構いません)を「ファン」と想定するのかを考えるのが、非常にシンプルで分かりやすいと思います。

しかし、その区分に加えて、行動特性を見てみると、また違いが出てきます。例えば、

  • 週末の昼間に購買する傾向が高いグループと、平日の夜に購買する傾向が高いグループ
  • 給料日前に購買量が下がるグループと、あまり変動しないグループ
  • セールでの購買が多いグループと、定価での購買が多い(むしろセールに来ない)グループ
  • 特定の商品(あるいは商品カテゴリ)だけを買うグループと、いろいろな商品(カテゴリ)を買うグループ
  • 1回あたりの購買量が多いグループと、少額で何度も買うグループと、購買量のボラティリティが激しいグループ
  • 特定の店舗だけに行くグループと、複数の店舗に行くグループ

などの分類ができます。

こうした行動特性(当社では「ゾクセイ」と呼びます)を踏まえて、「理想的な使い方」をしてくれているグループのことを、「ファン」と規定することも可能ですし、トライしてみる価値がある取り組みだと思います。

ゾクセイをファンの理解に用いる

もちろん、ファンベースの基本的な考え方である「企業側で決めつけない」に倣うのであれば、アンケート等であらかじめ規定された「ファン」の行動特性を、行動データを用いて定義しに行くというアプローチも可能です。

コアなファンとして定義された顧客(例えば200人)の購買行動を分析し、先ほど述べた例のような軸(ゾクセイ)で評価すると

  • ファンの8割は、平日の夜に購買している
  • ファンの中で、セールに行く人は3割程度
  • ファンは、複数の店舗に訪問する(使い分けている)

というようなことがわかるかもしれません。

そうした情報が分かった場合には、「ファンは、平日夜に購買し、セールには行かず、複数店舗を利用している」という風な定義をすることができます。こうした情報があれば、「同じような購買行動を取っている顧客は、ファンの可能性がある」という風に考えることができます。つまり、ファンをデータ的に理解した上で、その情報で、ファンの特定に使うこともできる、というわけです。

なお、ここではシンプルな例として「ファン」を一括りにして理解しようとしましたが、実際には、ファンを「行動データ」によって、さらに細かく分類していく(セグメント分けしていく)というケースの方が多いです。(少なくとも、当社ではそういうアプローチをとることが多いですね。)

なにも、ファンの行動パターンを、一種類だけだと決めつける必要はないので、行動データを用いて、様々な角度からファンを理解するように努めることが望ましいと言えるでしょう。

「行動」は、購買だけではない

と、かなり長くなってしまいましたので、そろそろお話を締め括ろうと思いますが、最後に一点お伝えしたいのが「行動データは、購買だけではない」というところです。

ここまでは、話が複雑になるのを避けるために、「行動データ」=「購買データ」であるかのようにお話してきました。しかしながら、行動には、もっと多くの種類があります。

スーパーマーケットを想定した例をあげると、来店した、商品に興味を持った、試供品を持って帰った/試食した、見切り品コーナーを確認した、レジ横にあるレシピの紙を複数種類持ち帰った、など、いくらでも「行動」を思いつくことができます。ただ、残念ながら、それらを「データ」としてとるのは、一筋縄ではいきません。

しかしながら・・・

  • 会員証を作成・発行した
  • 来店時にチェックインした
  • アプリに配信されたお得情報を確認した
  • 電子クーポンを利用した
  • チラシのQRコードを読み取って情報を得た
  • 貯めたポイントを使って買い物をした
  • 当該商品の広告を、スマホ画面に表示した
  • 広告をクリックした
  • 商品詳細ページに30秒以上滞在した
  • デジタルスタンプラリーに参加して、途中で離脱した(完遂しなかった)
  • 貯めたポイントを失効させてしまった

などの情報は、取得することが可能です。

店内カメラなども利用できるなら、「店舗内のどこで立ち止まったか」なども分析できます。個人と映像データの紐づけをどうするか、などの技術的・倫理的課題をクリアする必要はありますが、「あの人は見切り品コーナーで立ち止まって物色したが、結局買わなかった」とか「アジア食材コーナーにかなり長く滞在したが、最終的にはイタリアン食材を買って帰った」なども、行動データとして取得できるようになります。

これらの情報をうまく用いれば、顧客の理解はより一層深まります。行動データによって、顧客を理解し、ファンを抽出する。そして、さらには、ファンをより深く理解する。ファンベースを実行し、ファンベース企業になるためには、行動データの活用力が鍵を握るのではないでしょうか。

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