ギックスの本棚|ファンベース ‐支持され、愛され、長く売れ続けるために‐(佐藤尚之 / ちくま新書)

AUTHOR :  田中 耕比古

ファンを作ろうとするな。ファンを理解するんだ。

本日は、(とっても乗り遅れた感じがするのですが)佐藤尚之さんの「ファンベース」を読み解いていこうと思います。

ファンを大切にするべし

この本は、初版が2018年2月ということで、6年前に世に出たようです。一方で、僕が「ギックスの本棚」と称していろいろな本の読書録を投稿していたのが2016年頃まで(2017年に2冊分、2019年に3冊分の投稿がありましたが、ほとんど更新できていない状態ですね)ということで、この本の紹介をするに至らなかったという次第です。お恥ずかしい。

最近は、当時とは状況も変わりまして、弊社(ギックス)のブログで本の紹介を積極的に(そして自由奔放に)やっていこうという感じでもないのですが(というか、そういうのは個人のnoteでやれよ、って感じだよなぁと思うわけですが)、この本を読んだところ、ギックスの本業である顧客理解のお話と非常に親和性が高いので、せっかくだからちょっと読書録として残しておこうと思った次第です。久しぶりなので、うまくまとめられるのか不安ですが、ご無沙汰の方も、はじめましての方も、少々お付き合いいただければと思います。

と、前置きが長くなりましたが、本題です。

この本が言っているのは、要するに「ファンを大切にしなさい」ということです。

パレートの法則の通り、20~30%の顧客(ファン)が、売上の8割を占めるわけだから、その人たちを理解し、その人たちに寄り添い、その人たちを大切にしていくことが企業として大切じゃないか!というわけです。

そうです。CRMの基本です。(お金を落としてくれる)優良顧客を大事にしなさい、というお話。王道です。

ファンの人数を追うな!

と、書くと、「なんだよ、結局は、ど王道に ”新しい名前” を付けただけなのか?」 「要するに、古い理論の ”焼き直し”なんだろ?」ってことになっちゃうと思うんですが、いえいえ、そういうわけではありません。落ち着いてください。

この本(理論)が、従来の優良顧客育成と異なっているのは「新規顧客をかき集めて、その人たちをどんどんファンに育てていくのはやめよう」と言っている点にあると僕は思います。

新しい客を集めることに躍起になるのではなく、今、目の前にいる(全体の2割程度の)ファンを大切にし、その人たちのLTV(Life-Time Value)をあげていくことに主眼を置きなさい、というお話です。

LTV、Life-Time Valueとは、顧客生涯価値というもので、「その顧客が、一生のうちに、自社の商品・サービスをどれくらい使ってくれるのか?」を数値化して捉える考え方です。

これを最大化するためには、基本的に「長期間(死ぬまで)使い続けてくれる」状態を目指すことになります。もちろん、1回あたりの購買金額を大きくすることも重要ですし、頻度もあげていくことが望ましいのも間違いありません。

しかし、それだけではうまくいかないのです。

例えば、年に1回1万円使ってくれている人に対して、ある時、なんとか頑張って10万円使ってもらったとします。その時点では、+9万円のLTV押し上げ効果があったと捉えることができますね。しかしながら、その体験によって、その人が「ぼったくられた」とか「無理に売りつけられた」などの不満を感じ「もう、ここには2度と来ない」という判断をしてしまった場合には、話が変わってきます。

「今まで通り継続してくれていた場合(毎年1万円)」と「1回だけ大金を使ってもらった場合(10万円単発)」とのLTVは、10年後に逆転してしまいます。

※NPV(Net Present Value /正味現在価値)で捉えたら、また違うだろう…というセルフツッコミもしていますが、考え方の話なので、ご容赦ください。

ファンを大事にして、しっかり使い続けてもらう(できれば、たくさん且つ高頻度で)

話を戻します。LTVの最大化を事業の狙い・ゴールであると設定した際には、新しい顧客をどんどん集めてきて、その人たちをどんどんファンにしていこう、という方向でトライするよりも、「今いるお客さん(ファン)が、自社のこと、自社商品・サービスのことを、ずっと好きでい続けてくれること」を目指す方が良いんじゃないか?と言っているのが、「ファンベース」のコア部分だと僕は理解しました。

そして、そのためには、ファンを理解することが大事だ、と本書では説かれます。

共感を強くする
A) ファンの言葉を傾聴し、フォーカスする

これは、ファンベース施策を考えるための前提とも言える大切な出発点である。あなたの企業やブランド、商品が大切にしている価値の「支持されているポイントはどこか」「共感されているポイントはどこか」「愛されているポイントはどこか」を、まずちゃんと知ろうということである。

「ファンベース」p.103

そのうえで、その愛されポイントを強化し、ファンにより一層愛されるようにしていくわけです。また、その際には、ファンを新規客よりも優遇することにより共感を強めていくなどの工夫もしていこう、と述べられます。

ファンが求めるものをしっかり提供し、ファンをスペシャルな存在として取り扱っていけば、自然と、たくさん買ったり、頻度高く来店してくれたりするようになるでしょう。そして、もちろん、心が離れるまでは、ずっと通い続けてくれるはずです。

これを目指していこう、というわけです。

ファンが、ファンを呼んでくる

とはいうものの、今いるファンだけを大事にしてても、それじゃぁ、ビジネスが大きくならないでしょう!?と、思いますよね。わかります。僕も思いました。

それに対する本書のカウンターは「大丈夫。ファンを大事にしていたら、ファンがファン(候補)を連れてくるから!」ということになります。

口コミ、特に、信頼できる友人や家族からの評判は、購買行動にビビッドに効きます。これは、本書に書いてあるエビデンスの話に限らず、世の中全般そうだと思いますし、私自身の個人的感覚でも同じように思います。

企業の採用活動における「リファラル採用」も、同じ話だと思うんですよね。社員は、自社のことを一番良く知っています。良い所だけでなく、悪い所も知っています。転職経験がある人の場合は、他社と何が違うのかも分かります。そういう「自社にめっちゃ詳しい人(ある意味では、ファンと呼んで差し支えないでしょう)」が、自分の友人・知人に対して「こいつなら、うちの会社、合うんじゃないかな」と思って紹介してくれる。これが、リファラル採用の本質です。

決して、「リファラルボーナスが出るから頑張る」というものではありません。(いや、もちろん、インセンティブは大事ですけどね!)

自社のことが好きで、自社に合いそうな人を探してくれる。最高のファンですね。そして、そうやって紹介してもらった企業側も「この人は、彼/彼女が ”ウチに合いそう” と思ってくれているんだから、きっといい感じでハマるんじゃないか」という風に考えることになりますので、お互いにとってハッピーなわけです。

これが、まさに「ファン候補の、友人知人を連れてくる」という構造です。「この商品・サービスが、ハマりそうだな」と思って紹介してくれているわけですから、完全な新規客よりも「合いそう」な状態でスタートします。最高です。

もちろん、SNS経由などでの口コミもありますが、その場合も、「自分で情報を見て、自分で ”合いそう” だと判断して来店した」ということになりますから、何も知らない人、あるいは、TV広告などで商品名をみただけの人、よりも、一歩も二歩もファンに近い状態、温まってる状態だと言えます。理想的ですね。

キャンペーンを重ねて関係性を作ろう

そうやって、ファンがファン(候補)を連れてくることを目指していくにあたって、じゃぁ、企業は具体的に何ができますか?という点が気になってきますよね。

その答えは、「キャンペーンを ”重ねる” こと」です。

現在ブツ切りになっている単発施策、そして短期キャンペーン施策などを、もっと意識してつなげ、そこで好意を持ってくれた人(ファンの入り口に立った人)の好意を資産化して積み上げていくこと。

そういう「全体構築」が必要である。

つまり(中略)、好意が資産として積みあがっていくことを目指すべきである。

「ファンベース」 p.31

一つ一つのキャンペーン施策を、バラバラに打つのではなく、つながりを持った一連の活動として、中長期目線でのLTV最大化に効く施策群として組み立てるわけですね。

具体的な、キャンペーンの組み立て方については、p.229あたりで詳しく書かれているので、お手元に書籍をお持ちの方は是非ご確認いただきたいのですが、

  1. 中長期ファンベース施策のみで構築する
  2. 短期・単発施策でファンをゼロから作っていくところから始める
  3. 中長期ファンベース施策を軸に、短期・単発施策を組み合わせていく

の3種類だと本書では述べらていれます。

また、こうしたキャンペーンの成果を、NPS(Net Promoter Score)を用いて計測していき、キャンペーンの方向性を修正しながら、より一層「ファンに喜ばれる企業・商品・サービス」になっていくことを目指しましょう、というお話になっています。

当然ながら、この本に書いてある内容を、そのまま全部やれば、全ての企業がうまくいく、、、というものでもありません。あたりまえです。世の中には、いろんな商品・商材があり、いろんな商慣習や競合関係などが存在するので、全てを解決できる銀の弾丸を期待するのは難しいと言えるでしょう。

しかしながら、本書は、小売業に限らず、消費財メーカーでも使えますし、B2B企業であっても活用可能な部分は沢山あります。ファンベースの考え方を理解し、その中で、自社のビジネスを伸ばすために、どの部分を取り入れるべきかを考えた上で、「エッセンス」を取り込んでいくことが良いんじゃないかなと思います。

なお、本書の考え方が、ギックスの本業領域と非常に親和性が高い、と冒頭で書いておきつつ、その話にほとんど触れていないじゃないかということに今気づきました。ぐぬぬ。そのあたりは、ちょっと別の機会に書いてみようと思います。

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ファンベース(ちくま新書)

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