【”考え方”を考える】フレームワークの活用:ナーチャリングを”二軸”で使う

AUTHOR :  田中 耕比古

「ナーチャリング」を2軸に使ってみる

フレームワークは「知っていればOK」というものではありません。既存のフレームワークを、如何に活用するか、が重要です。

今回は、「ナーチャリング」について考えてみます。

ナーチャリングとは

昨今、マーケティング領域で盛んに使われている用語ですね。

「nurture(ナーチャー)」という言葉は、養育する・育てるという意味です。そこから「顧客育成のプロセス」を指し示す用語として使われるようになりました。複数のチャネルを組み合わせ、顧客と相互理解をしていく、ということになります。

ここでは「相互」というのがポイントです。従来は、自社の商品を知ってもらう、ということに主眼が置かれましたが、双方向コミュニケーション(行動ログという無意識的に顧客から企業に提供されるものも含む)が当然のものとなった現在では、「顧客が何者なのか」を知っていくことがとても重要です。それによって、提供すべき情報も変わっていくはずですから。

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ナーチャリングというと、上図の左側が、一般的な図だと思います。それぞれのフェーズで、どういうコミュニケーションチャネルを使うのか。などを考えていくわけですね。

ただ、この図はコンサル的思考の定石で考えると「上下が削られていく」ということに意味があるのか?と問いたくなってしまいます。(まぁ、一種の病気なんですが)

もう少し具体的に言うと、この概念は上図右側に記載の通り、ステージが進むにつれて「ユーザーの理解度は上がる」が「見込み客が減る」ということを言っているにすぎません。つまり、ここで重要なのは「減る」ことではなく「理解度が上がる(or上げる)」という方です。(だって、減るのは当たり前ですから)

理解度のコントロールを「2軸」にしてみる

では、この「ナーチャリング」という概念を、戦コン視点では、どのように応用するのでしょうか。

例えば、僕ならこういうことを考えます。

コト×モノのダブル・ナーチャリング

良く、世の中で「コト」とか「モノ」とか言われますよね。その「どちらにもナーチャリング」をしていくべき、でしょう。

その際に、「ナーチャリングプロセス」がどう進むのか、を整理してみました。

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上図の縦軸は「モノ」に関するナーチャリングです。世の中の「ナーチャリング」は自社商品・サービスに関するナーチャリングを意味しますので、この縦軸について語られることが多いと思います。それに対して、横軸は「コト」に関するナーチャリングです。この横軸を切り出して2軸で整理してみました。

そうすると、世の中にある「ナーチャリング」は、自社商品・サービスの認知・関心・理解を推し進めつつ、それと同時に「なぜ、その商品・サービスが必要なのか」「その商品・サービスがあれば、自分の生活はどう変わるのか」というコト軸についても理解度を上げていく、という取り組みになります。(上記 赤色のB:「モノ=コト」パス)

もちろん、それが悪いという事ではありません。しかし、コトに関して、自社と顧客(見込み客)の相互理解を深めていくことも重要な中で、それを、商品・サービスのナーチャリングと同じやり方・同じタイミングで進めていて良いのか、と問いたくなります。

これは、特に購買検討に時間のかかる商品・サービスにおいて顕著でしょう。たとえば、(特に、都市部における)自動車は「コト」の理解醸成が重要です。トヨタ自動車のCMなどは、自社の特定車種の魅力を伝えるものよりも「クルマのある生活っていいよね」「最近のクルマは環境に悪くないんだよ」というコト軸のCMが目に付くように思いませんか?

この流れは、上図の青いパス(A:「コト⇒モノ」パス)を通っている、ということになります。(実際には、「コト」軸の”関心”段階で、「モノ」軸の”認知”段階に進む、なども起こり得ます。)

このように「顧客の心理状態を整理する」ために、「通常、一軸のナーチャリングプロセスを二軸に設定する」という工夫が、フレームワーク、概念を使いこなす、という事だと僕は思います。

もう一歩進んで「活用」する

とはいえ、これでは「整理した」にすぎません。折角応用したのですから、それをキチンと使いこなすことが肝要です。

例えば、こういう活用方法が考えられます。

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自社のマーケティング施策(TV-CM、Webサイト、協賛など)が、どのステージの顧客を対象に企画されているのか、また、その顧客をどのステージに進めようとしているのか、ということをマッピングすることで、マーケティング施策の管理が可能です。

もちろん、同じTV-CMでも、先ほどのトヨタ自動車の例のように、「0」の顧客を「A0」方向に進めていくためのCMもあれば、特定車種について「0」の顧客を「B1」方向に進めていくことを目的とするCMもあるでしょう。(言うまでもなく、TV-CMはメディア特性として、無関心⇒認知が主体で、せいぜい認知⇒関心フェーズくらいまでしか使えませんから、A2の客をA3に進める!という使い方はできません。特に、自動車のような高額且つ検討期間が長く、比較購買をされる耐久消費財においては。)

フレームワークを知っている、ということは単なる”知識”です。知識そのものには意味がありません。その知識を、どのように応用し、活用するか、ということが”知恵”であり、そこにこそコンサルが存在する意義がある、と僕は思っています。

このようなフレームワーク活用の具体例については、今後「”考え方”を考える(思考の型)シリーズ」の中で、随時記事を追加していきます。

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