前編より続く
目次
2021年6月|背水の陣でマイグル導入、5ヶ月で40万、2年半で220万DL
花谷 その後マイグルを導入いただきましたが、どのような経緯があったのでしょうか。
内田 数々のアップデートを行いましたが、それでもダウンロード数は低空飛行で悩んでいました。当時の機能だけでは足りない、使ってもらうために新たなコンテンツが必要というのは全員一致の意見で。
コアとなるコンテンツを求めていた中、ダウンロード増のために背水の陣でマイグル導入を決めました。
左:西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部 WESTER-X事業部 次長 兼 関西MaaSプロジェクト マネージャー 内田修二氏 右:西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部 WESTER-X事業部 X-リレーション兼企画・プロモーション 課長 片岡祐太氏 |
片岡 その頃「WESTER」のピンチを打開する施策として、マイグルの活用を経営幹部が参加する会議にかけました。そこでマイグルを活用して「WESTER」をどんどん広げていくと社内外に明言し、グループ会社の日本旅行の営業資料にもマイグルの紹介を入れて社外に提案してもらう形で、積極的に推進していきました。
- 1周年を迎えたお客さまとつながる MaaS アプリ「WESTER」がさらにパワーアップ!(2021/9/27)https://www.westjr.co.jp/press/article/items/210927_05_wester.pdf
花谷 導入決定したら「おトクにGO!」というページが用意されていて、かつ完全連携の判断まで。
内田 これは私の独断ではありました。正直みんな「何言うとんねん」と思っていたと思います(笑)。キャンペーンをするたびにアプリの開発やアップデートを繰り返すのは避けたかったので、最初から完全接続をすることに決め、アプリを開いてすぐのホーム画面上にメニューを作りました。
「おトクにGO!」を開くと、開催中のキャンペーンが並んでおり、クリックすると該当するページに移行するようになっています。「WESTER」側の追加開発は不要だけど、新規のキャンペーンをどんどん追加できる仕様です。
花谷 今振り返ると、当時から今時なアーキテクチャで、クラウドネイティブな作りですよね。
内田 最初から当社以外の外部事業者と連携して使うことを念頭に置いて、藤原さんを中心にギックスさんやアイリッジさんと議論を尽くして生まれた仕組みです。
伊原 マイグルでのキャンペーン実施の第一弾は、2021年8月でしたね。
その後、10月に実施したセブン銀行のチャージキャンペーンには多くの方が参加してくださり。キャンペーンを増やして、2021年末には40万、2022年に110万、2023年に220万ダウンロードを達成することができました。
- ギックスの個客選択型スタンプラリー「マイグル」 京都サンガF.C.×JR西日本「WESTER de スタンプラリー」で採用(2021/8/3)https://www.gixo.jp/news-press/17021/
- ギックスの個客選択型スタンプラリー「マイグル 」、セブン銀行とJR西日本が共同開催する「セブン銀行ATMでICOCAにチャージキャンペーン」で採用(2021/10/1)https://www.gixo.jp/news-press/17198/
成功の兆しは社内からの相談、外部事業者から要望増。
花谷 様々な試行錯誤の中で、「WESTER」が上手くいきそうだと感じたタイミングはいつでしたか?
伊原 ローンチの時でしょうか。社外の反応は大きくありませんでしたが、これを契機に社内からは相談が集まるようになり。各部がお客様とのデジタルのタッチポイントを求めていたんだなと感じました。
社内に対しては、ローンチ前に、「デジタル戦略として『WESTERを進めていくぞ』」というシナリオ作りを片岡さんが仕込んでくれていたことも大きいです。ローンチ後は、現場も含めて社内が「WESTER」を前提にして、うまく使っていこうという流れに少しずつ変化した印象です。
片岡 私は2021年10月末に実施した「大津駅100周年記念デジタルスタンプラリー」の時に、風向きが変わったなと感じました。
大津駅では、本社主導ではなく現場起点でポスター掲示などキャンペーンを盛り上げるために様々な工夫がされていて、それが参加者の増加につながりました。これをきっかけに、マイグルでは現場起点・現場主導での盛り上げが1番大事だなと実感したんです。
大津駅での成功を皮切りに、その後は現場発信での企画、若手の斬新なアイデアをベースとした企画など、現場起点の取り組みが増えていきました。
- ギックスとJR西日本、個客選択型スタンプラリー「マイグル」とMaaSアプリ「WESTER」を活用し「大津駅100周年記念デジタルスタンプラリー」を開催(2021/10/29)https://www.gixo.jp/news-press/17299/
「WESTER」の成功要因「既存サービスの有効活用」「会員獲得先行」
花谷 WESTERが成功できた要因はなんだったと思いますか?
内田 いわゆるMaaS、‟検索から予約、決済までをシームレスにする”というのは、一気にできることではありません。そのため、まずは「散在してたデジタルアセットをまとめる」ことからスタートしたのが良かったのだと思います。すでにあるものと連携する前提で必要最低限の仕組みだけ備え、「WESTER」はアジャイル的に小さな機能を作って足していく、軽い方式で作っていこうとスタートしました。
網野 今のお話で、MaaS推進室の責任者として異動された当時の奥田さんに「MaaSって何だと思う?」と聞かれたことを思い出しました。その時「そもそも鉄道はas a serviceだ」と答えたんです。
- DIサミット基調講演「JR西日本グループ企業変革物語〜ゆでガエルからの脱却〜」レポート(2024/6/19)https://www.gixo.jp/blog/24802/
例えば海外では、複数の交通機関を横断して使える決済手段がないから、ゾーン制でチケットを売るようなMaaSを展開しています。一方日本ではICOCAのような決済手段があるし、定期券もいわばサブスクサービス。必要なサービスを必要なタイミングで使える、何十年も前から「as a service」ではないか、と。
だからこそ日本の鉄道会社においては「それぞれのサービスを繋ぎ、間を埋める」ことが「MaaS」になるんじゃないですかと緊張しながらお話ししたのを覚えています。
藤原 そんなことがあったんですね。確かに「MaaS」という言葉に捉われて、一括決済やシステム連携に注力しなかったのが良かったのだと思います。あらゆる機能を入れると一見良く見えますが、連携先が増え、使えない機能も増えることで、お客様が分かりづらくなってしまいます。まずはできるところから提供してしまい、顧客体験をどうやって上げていけるかに注力したことが成功につながったのだと思います。
内田 グループ共通の「WESTERポイント」が開始する2023年3月以前から会員獲得ができていたのも大きな要因ですね。
- 「WESTER ポイント」サービスがいよいよスタート(2023/2/22)https://www.westjr.co.jp/press/article/items/230222_00_press_point.pdf
藤原 「WESTERポイント」は、以前から2023年3月に開始することが決まっていました。普通に考えたら、キャンペーンのインセンティブ付与の方法としてポイントを活用したいので、ポイントサービス開始まで待つという判断になると思います。お客様に還元できる手段が確立出来ていない訳なので。
このような中でも、ダウンロード数を増やすためにキャンペーンをどんどんやっていこうということで、応募や抽選にWebフォームを活用したり、賞品を現地で渡したりなど、できる範囲でのインセンティブを設定して試していました。そのおかげで、「WESTERポイント」開始時には、すでに多数のキャンペーンで獲得した会員を抱えている状況を作ることができたのも成功の要因の1つだと思います。
「自分が使って楽しいか」を判断基準に。楽しく取り組んでほしい
花谷 ここまではこれまでの取り組みについてお伺いしてきましたが、現在「WESTER」に関わっている方々に対して、大事にして欲しいと思うことや、今後期待していることはどんなことでしょうか?
片岡 私が今、WESTERサービスを外部の法人さんへ販売する部署にいるからかもしれませんが、「WESTER」は、JR西日本の沿線に住んでいる人たちだけが使うものでは無いということを忘れずにいて欲しいと思っています。「WESTER」が誕生する前は、鉄道を軸にしたサービスしか提供できませんでしたが、「WESTER」がタッチポイントとして機能することにより、鉄道に限らず、幅広い領域を対象に支援することができるようになりました。せっかく「JR西日本」という名前を入れなかったんだから、JR西日本のアプリだということを忘れるぐらい、どんどん使われるようになって欲しいです。
藤原 社内の多くの部署や、世の中からも期待いただいていると思うので、これ以上は望みませんが一言だけお伝えしたいのは、「楽しんでやってほしい」ということですね。自分が楽しくないと、お客様にとっても楽しいものにはならないと思います。期待されていることやビジョンを踏まえながらも、うまく楽しんで作っていって欲しいと思います。
左:西日本旅客鉄道株式会社 デジタルソリューション本部 システムマネジメント部 MaaS基盤 課長 関西MaaS PT 藤原正道氏 右:西日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 WESTER経済圏 伊原康仁氏 |
伊原 私は現在WESTERなどを活用して施策を実施する部署にいることもあり、藤原さんと真逆で事業者視点が強くなってしまうかもしれませんが、これまでは「WESTER」の存在感を高めるため、たくさんの施策を行うフェーズでした。これからは、「WESTER」をもっと使いこなし、収益に結びつけていくフェーズにきているのではないかと思っています。取捨選択してより効果的な施策を行い、収益最大化を目指していきたいです。
内田 当時「西日本をマスターしよう」とスタートした「WESTER」なので当然そこは大事にしてもらえればと思いますが、お客様がどういう体験をするのか、ユーザー体験として3つの価値観に合っているかどうかについても、常に意識して考えて欲しいと思っています。ダウンロード数などの数値はもちろん気にしましたけど、根本は「自分が使って楽しいか」「それって面白いのか?」という議論をみんなでしながら進化してきました。
ユーザーにとって「便利でおトクで楽しい体験とは」をとことん考えて、最終的には自分が楽しみながらより良いサービスにしていってくれたら嬉しいなと思います。