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【前編】300万ダウンロード超える「WESTER」、立ち上げた4人が語る始まりのヒストリー

AUTHOR :   ギックス

JR西日本が提供する「WESTER」はアプリダウンロード数300万、会員数900万人を超え、多くの方々に利用されるサービスとなっています。また、交通サービスの枠を超えてさまざまな企業や自治体が参画し、年間で約100件の多様なキャンペーンも展開されるようになりました。

この成長の裏には、「WESTER」誕生に関わる4人、”オリジナル4”の活躍がありました。構想段階からローンチ、その後の成長のきっかけとなった出来事まで、オリジナル4の皆さんに、ギックス 共同代表 網野 知博と花谷慎太郎が聞きました。

2019年10月|ユーザー目線のサービスを目指した3つのコンセプト

花谷 「WESTER」の構想が出来る前からお伺いしたいのですが、最初はどのような始まりだったのでしょうか?

片岡 2019年10月に「MaaS推進部」という部署ができました。MaaS推進部には企画課と推進課があり、企画課に集まったのが内田さん、藤原さん、伊原さんと私の4人で、現在の「WESTER」に至る構想を作ったメンバーです。

花谷 内田さんがおっしゃる、‟オリジナル4”ですか。このメンバーは内田さんが選んだ方達なんですか?

内田 いえ、集まったのは偶然なんです。得意分野がそれぞれ異なる4人だからよかったですね。片岡さんが社内外に向けた説明や発表のための戦略づくり、藤原さんがシステムの開発部分、伊原さんが都度発生する実務対応、私がマネジメントといった分担でした。

といっても、みんな優秀でマネジメントする必要がないぐらいだったんですが(笑)。

左:西日本旅客鉄道株式会社
デジタルソリューション本部 WESTER-X事業部 次長
兼 関西MaaSプロジェクト マネージャー
内田修二氏
2002年に西日本旅客鉄道株式会社に入社、福知山支社に配属後、運転士や営業を経て、総合企画本部にて運輸調査や経営企画を担当。2016年には日系商社のブラジル現地法人へ出向。2019年に帰国後、鉄道本部技術企画部(技術収益化PT)兼オープンイノベーション室担当課長、総合企画本部MaaS推進部課長、デジタルソリューション本部課長を歴任し、2023年4月より現職。

右:西日本旅客鉄道株式会社
デジタルソリューション本部 WESTER-X事業部
X-リレーション兼企画・プロモーション 課長
片岡祐太氏
2010年に西日本旅客鉄道株式会社に入社、岡山支社に配属後、車両メンテナンス業務、運転士や支社間接業務を経て、本社車両部にて戦略企画や車両メンテナンス企画を担当。2018年にはアジアビジネスリーダー人材育成プロジェクトに参加。2019年に帰国後、鉄道本部技術企画部(技術収益化PT)、総合企画本部MaaS推進部、デジタルソリューション本部を歴任し、2024年6月より現職。

片岡 それぞれがやるべきことをやっていた、という感じかもしれません。

当時は「MaaS」という言葉だけが飛び交っていて、誰も定義できていないし、もちろんビジネス化もできていませんでした。JR西日本でMaaSに関するサービスは、せとうちエリアを対象にした観光ナビ「setowa」(現tabiwa by WESTER)がありましたが、「JR西日本のMaaS」について検討を進めることがミッションだった私たちの部署では「何をするか」から始まりました。

伊原 まずは海外も含めて、鉄道会社やいろいろな企業のアプリを見て研究しましたね。

藤原 私はJR西日本で提供しているあらゆるサービスを調べていました。その中で、たくさんのサービスがあるのに連携ができていないことに気付き、ここが課題になるのではないかと。

内田 メンバー全員が調べ、考えていることをもとに、まずはプロダクトアウトで1回形にしてみようというプロジェクトと、同時にユーザー目線のサービスを考えるために「サービスデザインを考える会」を立ち上げました。ユーザーインタビューやアイディエーションを行い、大体1ヶ月くらいかけて、大事にする価値観として3つのコンセプトを設定して。思えばここが本当のスタートでしたね。

・毎日の移動生活にちょっとしたときめき
・シーンや個人のニーズを察した行動のサポート
・必要な時にさりげなく心地よい距離感での寄り添い

現在は「便利・おトク・楽しい」と対外的にはお話ししていますが、原点はこれなんです。ここで初公開です(笑)。

2019年11月|社会インフラと一体化したMaaSを目指す「WESTER」構想

花谷 最初からアプリを作ることは決めていたのでしょうか?

内田 決めていなかったです。最初はみんな「MaaSってなんやねん」からのスタートでしたから(笑)。

社内外に存在するサービスを見たり、絵を書いたりして議論するうちに、「サービスデザインを考える会」でコンセプトを設定するとともに、まずは目で見て触れる「モノ」を作ってみようということで。そして作るとしたらどんなポジショニングのものを作るのかも考えました。

片岡 すでにあった「setowa」は瀬戸内地域の観光客を対象に提供する「観光型MaaS」です。他には移動と生活サービスをワンストップで提供し利便性を追求する「都市型MaaS」、病院やスーパーなどと連携した街に根差した「地方型MaaS」があると整理していきました。

この中の3つのMaaSを束ねる統合型MaaSとして「WESTER」の構想が出来てきました。

網野 たしかベンチマークにしたサービスがあったんでしたっけ?

内田 「これがMaaSか」というイメージを持ったのがブラジルにいた時に利用していた「Uber」です。そして、「こういったアプリなら作っていいかも」と思ったのが、MaaS推進部発足前の欧州出張で出会ったスイス国鉄アプリ「SBB mobile」のベータ版で、UI・UXが内田の琴線に触れました(笑)

藤原 10月に部署ができ、11月にはRFP(提案依頼書)を出しました。それから8社程でコンペを実施しまして、最終的に3社にプレゼンしていただいて、アプリ開発はアイリッジさんにお願いすることになりました。

花谷 1ヶ月でRFP!すごいスピードですね。

網野 ギックスもこの時ぐらいからやりとりさせていただいてますよね。ここから3月にはローンチの時期が決まっていたと思いますが、本当にすごい速さですよね。

藤原 彼らもやりたかった領域で、大きなチャンスだと捉えていただいていたようでした。優秀なPMに入っていただき、毎週どころか週に何回もレビューをするぐらいの頻度でやりとりしていました。

左:西日本旅客鉄道株式会社
デジタルソリューション本部 システムマネジメント部
MaaS基盤 課長 関西MaaS PT
藤原正道氏
2010年に西日本旅客鉄道株式会社に入社、神戸支社に配属後、鉄道車両メンテナンスの経験を経て、IT本部にてITガバナンスや業務システム開発を担当。2020年より総合企画本部MaaS推進部、デジタルソリューション本部、システムマネジメント部にてWESTERを中心としたMaaSアプリの企画開発を担当し、2024年6月より現職。

右:西日本旅客鉄道株式会社
マーケティング本部 WESTER経済圏
伊原康仁氏
2015年に西日本旅客鉄道株式会社に入社、金沢支社に配属後、創造本部にてJ-WESTカード事業を担当。2020年より総合企画本部MaaS推進部、デジタルソリューション本部にてWESTERアプリの企画、運用を担当。2022年よりグループマーケティング推進部にてJR西日本グループ全体でのマーケティングを担当し、2024年1月より現職。

伊原 アイリッジさんのノウハウもですし、4人という少人数チームでしたので、開発の要所で必要になる意思決定をすぐにできたことがこのスピード感に繋がったのだと思います。

内田 開発プロジェクト自体は2020年1月に開始して、既に割り当てがあった予算でちょうど収まるPoCを実施しようと決めて、開発を進めました。

片岡 既に開発されていた「setowa」の仕組み・ノウハウをそのまま横展開することも考えられましたが、WESTERはWESTERとして別で開発すると決めたのも、内田さんの判断でしたよね。

内田 モックが出来上がってからは、社内のいろいろなサービスに、連携させて欲しいと奔走しましたが、当時はどこにいっても協力を得るのに骨を折りましたね。社内でも「MaaS」自体がなんだかわからない状態でしたし、私たちもそう思っていましたから当然でした。

花谷 逆境だったんですね。今では信じられません。

2020年7月|「JR西日本アプリ」ではなく「WESTER」、名称決定の舞台裏

内田 ローンチの時期が決まってから、じゃあ名前が必要だなという話になり。実は「WESTER」の名前を考えたのは伊原さんなんです。

伊原 「WEST」を「MASTER」する、「WESTER」というアイデアです。「JR西日本」を入れないということは、4人の中で一致していた意見で、いくつか案があった中のひとつです。

内田 「社会インフラと一体化するMaaS」ですから、外部のサービスと連携するならば他の事業者さんが参加しやすいネーミングでなければと。ただ上層部からは「JR西日本アプリでなくて良いのか」という意見もありました。公式感がないし、ダウンロードするときにお客様が困るのではと。

それで最終的に、伊原さんを連れて直談判に行ったんです。

伊原 「コンセプトを考えると『WESTER』の方が良いと僕たちは思ってます」とお伝えした結果、承認が通りました。

花谷 公式アプリに始まり、事業部から統合ポイントの名前まで「WESTER」ですもんね!今や西日本で普通に使われる言葉になってます。

伊原 最初は少し恥ずかしかったですが(笑)。ありがたい限りです。

2020年9月〜|初日にダウンロード数「ナビゲーション部門1位」を取るも130位へ転落

花谷 そこからいよいよローンチしたのが2020年9月でしたね。

藤原 9月24日にリリースだったのですが、当日に社長会見があり、それまでにアプリストアに公開できなかったらどうしようか不安でいっぱいでした。当日の朝にダウンロードできる状態にしておき、社長にレクチャーして、昼から会見というスケジュールでしたので、朝10時がリミットだったのです。

内田 初日のダウンロード数は伸び、「ナビゲーション部門1位」で喜んだのも束の間。その後は130位くらいまで落ちてしまい。

花谷 その後はどうやってダウンロード数を延ばしていったのでしょうか?

内田 トレンドに合うものをクイックに出すことで話題に取り上げてもらおうと、ネタ作りに意識を向けていました。例えば紙の時刻表の配布を廃止するタイミングで時刻表機能がある「WESTER」を宣伝するとか。

片岡 遅延証明を「WESTER」上で出せるようにしたり、コロナのワクチン会場を目的地に設定して経路を表示させたりといったアップデートも行いました。

あとは1周年の2021年9月、ICOCAの残高表示の機能ですね。残高が少ない時に「ICOCA」のマスコットキャラクターのイコちゃんがひっくり返ったり、泣いたりする仕掛けをしたところ、お客様のツイートがきっかけで話題にしていただきました。

これも最初に設定したコンセプトの1つ、「ちょっとしたときめき」の要素ですよね。どうやったら高頻度でアプリを開いてもらえるのか、より「WESTER」を使ってもらえるかを考えた時、ミーティングで「残高に合わせてイコちゃんが泣いたり笑ったりしてたら可愛くない?」という話になり、実装することにしました。

花谷 よく覚えています。かなりバズってましたよね。

片岡 それから、今では多くの方に使われているクーポン機能も追加しました。伊原さんが各事業者に働きかけて、クーポンを出していただく交渉から登録まで、最初は全て手作業で行っていました。

今ではショッピングセンターや飲食店でたくさんの事業者さんが「WESTER」にクーポンを出してくださっています。それを見るたびにあの努力が実っているなと思います。

内田 他にも「混雑度傾向」は絶対に最初のリリース時に仕込んでおこうと決めていました。当時はコロナ禍で、混雑回避、密回避と言われている中での開発でしたので、列車の走行位置や混雑傾向の情報を駅に紐づけて、アプリからすぐにアクセスできるようにしました。価値観として掲げた「シーンや個人のニーズを察した行動のサポート」が伝わって利用いただけたのかなと。

後編へ続く

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