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【後編】セイタロウデザイン山崎晴太郎代表インタビュー:DIサミット講演「デザイン経営とデータインフォームドの幸福な関係」を振り返って

AUTHOR :   ギックス

前編より続く

デザインとデータを接続する3つのポイント

質問:DIサミットでの講演の主題である「データインフォームド」と「デザイン」の関係性について、お話を進めたいと思います。講演の中では「デザインとデータの接続」という表現を使っていただいていたかと思います。このあたりをお聞かせください。

山崎:基本的に、デザインって、データ以外の領域に属していると思うんです。だから、正直に言うと「データとデザイン、、、つながらないなぁ・・・」ってお話になってしまう。笑

質問:講演テーマを無茶振りしてしまったってことですよね。すみません。

山崎:ほんとですよ。笑 でも、当たり前を当たり前と思わずに、切り口を変えて考えてみる良い機会だったなと思っているんです。あれこれ考えていく中で、なんとなくこういうことなんじゃないかと見えてきたのが、講演でもお話した通り「人の気持ちとデータを接続する」という観点です。

質問:人の気持ち、ですね。

山崎:そうです。デザインって非言語的なものです。僕は比較的おしゃべりなタイプですけど、デザイナーの中には、そんなにしゃべらないタイプの人も沢山います。言語で考えないというか、言語じゃない方法で物事を捉えていく。非データ、曖昧、潜在的価値。そういうものがデザインの裏側にあります。
だから、データという形で曖昧さを文節化してしまうと、その瞬間に「そこからは、新しい概念を生み出せない」という風にデザイナーは考えてしまう。

質問:データが現れたら、デザインとは別の領域の話だなと思ってしまうんですね。

山崎:そうなんですよ。でも、そこからもう一歩踏み込んで「非言語領域」において、データを使おうと脳みそを絞って考えてみたところ、そこでの価値は3つあるんじゃないか、というところにたどり着いたんです。

質問:講演でお話いただいた3つですね。1つめが「デザイン思考の初速の解像度を上げるトリガー」でしたね。

山崎:はい。デザインの最初の一歩目で、物事を捉える際の解像度をぐっと押し上げる役割をデータが担えるんじゃないかなと。
デザインにおいて思考するということは、常に曖昧な中にあります。360度全方向に思考が発散していくわけです。ただ、そんなときに、最初にデータを見せてもらったり、情報をもらえたりすると、「こっちの方向じゃないかな」というアタリが付けられるように思うんです。この90度の範囲内じゃないかなとか、60度のへんに答えがありそうじゃないかなとか。
データとデザインは、そういう感じで手をつなぐことができるんじゃないですかね。データの手助けによって、デザインの思考の初速を上げられる可能性があるなと思います。

質問:ありがとうございます。2つめは「仮説の蓋然性の証明」でした。

山崎:仮説思考って言葉はコンサルタントの方もよく使いますけど、デザイナーも仮説を考える仕事だと思っています。例えば、新しいシャツを着たら、こういう風に感じて、こういう風に思うんじゃないかな、って、まさに仮説ですよね。こういうのは、全くデータ化されていない領域です。まだ世の中に起こっていなくて、概念にさえなっていなくて、その行為に名前もついていない。そういうものを探しに行きます。
それを、考えて思いついたままにしておくわけにはいかない。本当に正しかったのかな、と後で振り返る必要があります。自分の仮説、自分の空想は、合っていたのだろうか。もし違っていたとしたら、何がどれくらい違ったのだろう。そういうことを確認したい。
それをする際には、データの力が役に立ちますよね。これが、2つめです。

質問:最後の3つめ、「主観的絶対性の修正」をお願いします。

山崎:僕はデザイナーにとって一番大事なのは、人間を知りぬくことだと思っているんです。人間には、零れ落ちた感情であるとか、可視化できないものが沢山ある。それを自分の主観と接続させて「価値」を可視化することがデザイナーには求められている。
でも、これ、ズレてるかもしれないわけですよ。どこまでいっても主観ですから、なんらかの明確な根拠があるわけではない。これを、データの力、つまり、データの持つ客観性を使って、自分で修正していくことができるんじゃないかなと思うんです。
これは、データが常に客観的な存在であり、事実を突きつけてくるということだと思うんです。それを用いて、自分自身の主観と社会のズレがないかを検証するのは、デザインする際の主観の強度を高めていくのに有効だと思います。

質問:ありがとうございます。当社、ギックスはコンサルティング出身者が立ち上げた会社ですが、当社の経営メンバーが日々言っている話に、非常に近いように思います。

体験とデータを等価にする

質問:講演では、体験とデータの関係性についても言及していただきましたよね。

山崎:はい。僕がデザインをする上で非常に大切にしているのが「体験」です。先ほども申し上げた、「零れ落ちている感情」とか、「まだ名前がついていない気持ち」とか、そういったものをすくいあげて可視化して世の中に接続していくことが、とても大事だなと思っています。そういうことをやっていこうとすると、自分自身の体験を通じて、いろいろな事象の中の共通項を探していくのが大切になってきます。
UI・UXという言葉もありますけど、まさにその体験のレベルというか、体験の深度・深さみたいなものをデザインする際にどうやって取り込んでいくのか、がとても大切なことだと思うんです。

質問:体験を通じて、デザインに取り込むべき要素を見極める、ということですよね。

山崎:ええ、そうです。その反対側にデータがある。数値化できるもの、言い換えると数値として表現できるもの。例えば、この図の右側にあるような「データ」がでてきたときに、「これは、本当なんだろうか」という気持ちを抱いてしまうんですよね。僕だけですか?(笑

質問:お気持ちは分かります。数字は「事実(ファクト)」だけど、それをどのような切り口で集計していくのかというところには、恣意的というか、作為的な意図を込めること「も」できますよね。

山崎:良かった。僕だけじゃなかった。笑
でも、仰るように、データは事実ではある。しかも、客観的な存在である。これはこれで大切だと思うんです。なので、主観的な体験と、客観的なデータが、ちゃんとつながることが大事だと思うんです。つまり「体験とデータを等価にする」ことが大切。

質問:主観的体験と、客観的データの関係性ですね。

山崎:体験は、とても個人的なモノです。誰しも自分自身にとっては「絶対的」な体験がある。でも、それは、周りから見ると「そう感じたのはあなただけでしょ?」って話になる。そうなると、せっかく自分自身が感じた「絶対的」な体験に対して、もしかしたらちょっと違うのかも、、、と感じてしまって口をつぐんでしまう。

質問:たしかに、自分自身の感じたものに対して、そんなに強い自信は持てないですね。

山崎:そういうのって、とっても勿体ないと思うんです。だって、自分の体験で自分がどう感じたかは、その人自身の正解なわけです。絶対的に正しいのに、相対的な評価に飲み込まれてしまう。
だから、その2つを「等価」にしていきたい。データだけで何かを決めるわけでもなく、データも使って考える。自分の感性、感じたことを、データを使って「合ってるかな?」と考えてみる。反対に、データを見て、何か違うんじゃないか?と感じたら、それはそれで大事にしたい。
これって、まさにギックスさんの言う「データインフォームド」だよなと思います。

質問:ありがとうございます。データインフォームドの本質的な部分をご理解いただいていて、大変嬉しいです。

考える切り口・視点はたくさんある

山崎:体験とデータについてのお話をしましたけど、そうやって考えていくと、あぁ、ほかにも僕はいろいろとデザインするにあたって大事にしていることがあるなって思ったんですよね。例えば「観察」。いろいろな物事をフラットに見る。そこから何かを読み取っていく。これ、大切ですよね。
「体験」も、受動的に待っているだけじゃなくて、積極的に新しい体験をしようと試みてみる。
あとは、何かの行動とか、動きとかがあったときに、その「本質」的な意味ってなんだろうとか、「社会」的な価値ってなんだろう、という視点を持つのも良いですよね。
あるいは、いろいろな制約をすべてとっぱらって「理想」を描いたらどうなるんだろう、みたいなことも良く考えます。
ほかにも、「子供」だったらどう思うだろう?とか。子供でもわかるように、ってよく言うじゃないですか。あれ、ありきたりに聞こえるかもしれませんが、自分の発想のスイッチを入れるのに、やっぱりとても役立つなぁと思います。
さっきの理想の話も、そのままにしておくんじゃなくて、現実的な「ビジネス」に落とし込んでみるとどうなるか、っていうのもありますよね。商業デザインの世界においては、やっぱり最後はビジネスにつながらないとダメじゃないですか。単に美しいとか綺麗とかじゃなくて。
そうやって考えたときに、「データ」も、こうした物事の考え方、切り口のひとつだなぁと思うんです。

質問:ひとつの物事を並行して多面的に観る・見るということですよね。そして、データも、そのなかのひとつとして使うことができる。

山崎:ええ。だから、デザイン経営と幸せな関係を築けるのは、データドリブンじゃなくて、データインフォームドなんじゃないかなと思うんですよね。

データを無碍にもせず、信望もしない

山崎:データインフォームドと幸福な関係を築こう、と捉えると、大事なのは「データを無碍にしない」ことだと思います。恣意的に出してるんでしょ?誰かの意思が働いてますよね?みたいな色眼鏡で見ない。もちろん、実際には何かしらの操作が入ったデータも存在するのかもしれないけれど、でも、客観的な事実ではあるのだから、それはそれで無碍にはしない。
その一方で、信望もしない。「データが示しているんだから100%正しい」なんてことは、やっぱり無いですよ。盲目的に信じるべきではない。あくまでも、人間を知るための情報の一つとして、データを位置づけていくべきです。
データもデザインもビジネスも、対立関係にあるわけじゃないと思うんです。みんな「人の心を動かす」という同じ山を登っているわけです。だから、データも体験も、理想も社会も、その他あらゆるものを等価なものとして取り扱って、物事を想像していく。そうやって、人間の顕在化していない本質を浮き彫りにしていくことが、デザイン経営とデータインフォームドとの一番良い付き合い方なんじゃないかなと僕は思うんですよね。

質問:人間を理解するための、材料の一つとして、適切な距離を取ってデータと付き合っていく。当社でも「考えるための材料として、データを使おう」という言い方をしています。

山崎:人間の存在が前提ですよね。理解される対象としての人間もいるし、理解しようとするのもまた人間。僕は、デザイン経営において必要なのは「人間不在のデータ」ではなくて、「データと人間の曖昧さを等価」なものにすることだと思うんです。
曖昧さ。これ、とても大切な概念で、ぜひ、曖昧さを排除しないでいただきたいなと思うんですよね。
日常の中に、ものすごくたくさんの曖昧なことがある。その曖昧さを見つめていると、そこに自分の本質が眠っていたりもする。データという客観的な情報を使う時にも、曖昧さを愛しながらデータと向き合い、データと良い関係を築いていっていただけると良いんじゃないかなと思っています。

データインフォームドは、人間を取り戻す

質問:講演の最後に、いくつかの重要なメッセージをいただきました。そちらを振り返って、今回のインタビューも終わりとさせていただければと思います。まずは「論理を突き詰めていくと正しい答えには辿り着く。でも、心が動く答えには辿り着かない。」でした。

山崎:最近、ずっと思ってるんですけど、論理を突き詰めていけば「正しい」答えに行きつくんですよね。でも、その答えでは、心が動かないんじゃないかと僕は思っているんです。ロジカルシンキングとか、データとかも、もしかしたら同じお話なのかもしれないんですけど。

質問:そこで「正しいものを心動くものに変えていく。」ですね。

山崎:やっぱり、正しいものを心動くものに変えていく、まさにそれこそがデザインの力だと思うんです。そして、経営も事業も、同じように、心が動くことを目指して進めるべきだと思うんです。正しさを追い求めるだけじゃなくて。

質問:次が「デザインで動かしたいのは、ワクワクする気持ち」でした。

山崎:はい。心を動かすというときに、デザインでは「ワクワクする気持ち」を動かしたいんですよね。それは、別に「何%ワクワクします」とか、そういう話じゃない。感覚の世界で、どう感じるか。これをデザインの力で実現していきたい。

質問:その次が「デザインは、データからこぼれ落ちるもの、人間の曖昧さにコミットできる。」

山崎:講演の壇上に登ったら緊張しちゃう、あがっちゃうとか。最初の方にお話ししましたけど、新しい服を着たら人に会いたいなと思うとか。本当にそういうことを、デザインの力で実現していきたいんですよね。
そのためには、人間の曖昧さ、ぼんやりした部分にコミットしていかないといけない。そこで、データとデザインが手をつないで、事実は事実として押さえることが僕たちデザイナーを支えてくれる。それによって、曖昧さに対して向き合うことにコミットできるという風に思っています。

質問:そして、最後です。これは、スライドをお借りします。

山崎:はい。僕がたどり着いた結論がこれです。
「データドリブンは、人間を取りこぼす。データインフォームドは、人間を取り戻す。」
データドリブンっていう言葉は、データが駆動する、という風に読めますよね。この言葉がひとり歩きすることで、人間を取りこぼしていったように僕は感じています。
そんな中で、今回、データインフォームドという言葉をギックスさんが提唱しているのは、とても面白いし素敵だなと思うんです。データインフォームドは、取りこぼされた人間を、もう一回取り戻すことができる付き合い方なんじゃないですかね。

質問:ありがとうございます。当社が大切にしている「データインフォームドという概念」を、デザイナーである山崎さんに再解釈していただいて、とても参考になりました。講演に引き続き、長時間のインタビューにお付き合いいただき、まことにありがとうございます。

山崎:いえいえ、とんでもないです。非常に面白かったです。普段、あまり近づいていくことが無いデータについて考える、とてもいい機会を頂いたなと思っています。また、機会があればお声掛けください。

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