どのタイミングでハラをくくるか
前回はプロジェクトの立上げ時に関して説明を行ってきました。立上げ時に特に注意すべき点は大きく5つありました。
- 自らが誰よりも勉強をする
- 自分の頭の中身をクライアント、スタッフに共有する
- 仮説の筋道を構想する
- 問題の大小を切り分ける
- 全体スケジュールの実現可能性を見極める
本日はプロジェクト中盤になりますが、それほど難しい話はありません。プロジェクト中盤に注意すべき点は大きく2つしかありません。笑 ですが「言うは易し、行うは難し」という典型例になります。
- どこまで拡散させて、いつ収束させるか
- どのタイミングでハラをくくるか
どこまで拡散させて、いつ収束させるか
まず一つ目になります。「どこまで拡散させて、いつ収束させるか。」
これは言い換えると、「どこまで分析(アナリシス)して、いつ統合(シンセシス)させるか」ということになります。
この図は第4回の「プロジェクトマネジメントを支える仮説力」で説明した長並列型仮説立案を説明したものになります。この図で言う「aである」「bである」の分析が精緻であり、かつ数が多ければ多いほど、仮説の精度は増していきます。ですが、その反面、多くの事象から結論を導き出すために、yであるの解釈もセンスが求められるようになりますし、統合(シンセシス)が困難になり、またその背景の説明(方程式)が難しくなることも事実です。プロジェクトが6週間であれば、6週間のうちどの程度までこの拡散させるのか、また分析するために時間を使っていくか、が非常に難しい判断になります。収束が早ければ、提案時の初期仮説とあまり変わらない「ありきたりの結論」になるかもしれません。収束が遅ければ、最後のシンセシスに時間をかけられず、分析結果から色々な事が分かったが「要は何だったのかがイマイチ」と言う結果になる可能性もあります。ではどのタイミングが適切か。これは、状況に応じて違うので、自らの肌感覚で判断するしかなく、これがプロジェクト・マネジメントの醍醐味であるとも言えます。笑
昔話をします。あるプロジェクトの話ですが、10週間のプロジェクトにおいて、8週目くらいまで拡散を続けたため、6週が終わった段階での中間報告に耐えられる成果物がなく、クライアントに激ギレされて、中間報告会後の夜の懇談会で胸ぐらを掴まれたことがあります。最終的には残り2週間で徹底してシンセシスをして、打ち手の方向性を立案し、最終報告会を迎えて、万端無事に終了することができたため、懐かしい話として回想することができます。笑 思考レベルが非常に高いクライアントであったため、非常に難解な最終報告書でもなんとか全てを理解頂くことができたのですが、本来であればもっと時間をかけてわかりやすいストーリーラインにすべきだったと後から猛省したことをこの記事を書きながらも昨日のことのように思い出します。拡散をすればするほど、後ろの時間がなくなり、収束の時間やそれを説明する報告書作成の時間が削られるという当たり前のトレードオフの関係になるために、拡散と収束をどこで見極めるかと言うこの舵取りは永遠の課題なのかも知れません。
どのタイミングでハラをくくるか
拡散と収束と同じくらい難しい舵取りに、どこでハラをくくるか、言い換えると諦めるか、と言う問題もあります。開き直って宣言をすると、「世の中に100%証明しきれるものはない」と言うことだと思います。戦略の方向性に関して絶対的な正しさを証明することはできません。先ほどの拡散と収束のトレードオフにも近いものがありますが、正しさを証明するためには時間を要しますが、時間を要したら他社が先に手を打って出る可能性も広がります。ある程度正しいと思われる仮説や打ち手、戦略の方向性を検討した際に、それが正しい可能性が高いということをどの程度証明する必要があるかということになります。
上記の長並列型仮説思考の図で説明すると、yと言う方向性や打ち手が浮かんできた際に、それが正しいものか否かをどの程度証明していくことが必要かということになります。演繹的なアプローチを取るにしても、帰納的なアプローチを取るにしても、「aである」「bである」というものが増えれば増えるほど証明の確度は上がっていきます。ですが、経営の意思決定において、70%の可能性で証明出来ているものを90%までその可能性をあげていく必要があるのかどうかという点です。これはプロジェクトマネージャーとしてはハラをくくらないと行けない点ですが、経営者としても同じことだと思います。成功したいという想いから見れば、ある程度の段階で見極めて、より実行に時間を費やしていこうと言うことになります。一方、失敗したくないという想いから見れば、より成功の可能性を上げるというより、失敗の可能性を検討に検討を重ねてることで摘んでいくことになります。この両面を天秤にかけながら、どこまで証明のために時間を使っていくか、というトレードオフの関係から意思決定をしていくことになります。
今回はプロジェクト中盤に関して説明を行ってきました。今回はあまりTips的なことをお伝えすることができないのが申し訳ないのですが、逆に言うと、このトレードオフのバランス感覚というものは経験の量が質を凌駕してくるタイプのものですし、また意思決定の都度にマネジメントとしての成長が見込めるものとも言えますの。そのため、ここでは「是非多くを経験してみてください」としかアドバイスができないというのが本音になります。笑 ただ、これらのことからも、戦略コンサルティングのプロジェクト・マネジメントを行いながら、擬似的な経営者としての意思決定を経験できることがご理解頂けるのではないでしょうか。
次回はプロジェクトの終盤、「報告会前夜」に関して説明をしていきたいと思います。
第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトの始まり 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り
第7回:プロジェクト中盤 ⇒今回
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告
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