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戦略コンサルティングのプロジェクトって何をするの?
この連載記事は「私個人としては起業において、コンサルティングファームでの経験が役に立ちまして、それはプロジェクトの責任者として活動した経験でした。」と言うことを前提に、コンサルティングファームのプロジェクトマネジメントに関してとても主観的に勝手に話を進めていく連載ものです。
ここでは「プロジェクトマネジメント」を、以下の一連の活動として定義しています。
自分を信頼してくれるクライアントを抱え、クライアントから難しい経営や事業の悩みや相談を受け、それらの真因を探り、答えるべき問いを設定し、解決策の方向性と案を提示し、その解決案と実行策を考えるための期間と工数(金額)を算出し、それを提案書にまとめプレゼンテーションしてクライアントにご理解を頂き、最終的には大きな仕事につなげることしか考えていない(コンサルティングファームも自社を経営しているので、責任あるポジションの方はKPIとして金のことしか考えていないのは当然。)社内の上司にもこのプロジェクトの重要性を説明し承認を得て、そして契約書を作成して先方の法務とやりとりをして妥協点を見出し契約を結び、限られた予算と期間の中で最高のアウトプットを出すためにプロジェクトをデリバリーするためのメンバーをアサインし、そして数週間に渡って紆余曲折しながらプロジェクトをデリバリーし、最終報告書を作成し、最終報告書のプレゼンテーションを行い、クライアントの意思決定者に理解と納得をして頂き、意思決定をしていただき、その後はきちんと実行して頂くように働きかけ、最後に滞り無くお金を頂き、そして次の取り組むべきテーマの話題を振り議論を重ね、、、(最初に戻る 以降繰り返し)。
戦略立案プロジェクトの始まり
今回は戦略立案のプロジェクトが始まる最初の部分、「クライアントから難しい経営や事業の悩みや相談を受けて」〜「受注」に至るまでの一連の流れに関して説明して行きたいと思います。シンクロナイズドスイミングの水面の下ではないですが、戦略立案プロジェクトも始まるまでに色々と苦労と格闘が存在しています。始まってからも大変ですが、始めるまでも相当大変です。多少裏話も暴露しますが、これらの経験をお読みいただくと、コンサルタントは机上の空論だけを紙に書いているビジネスセンスのない人と言う誤解も解けるのではないでしょうか。
まずは簡単に流れを書きますと、図のような形になります。
「相談」はどのように始まるか
まず戦略立案のプロジェクトの最初の始まり、「相談を受ける」ですが、実はこれは大きく分けて2パターンがあります。
- 「クライアントから相談を受ける」
- 「コンサルティングファーム側から売り込む」
まずは、後者から簡単に触れましょう。コンサルタントは通常クライアントの悩みや課題を解決する職業なので、こちらから売り込むというのは少し意外に感じるかも知れません。ですが、これが意外ではありません。誤解をして頂きたくないのは、”酷い”コンサルタントではない限り、クライアントが要りもしないものを売り込むことはありません。長年その業界やクライアントに携わっているコンサルタントは、「このような検討をしておくべきだ」という必要性を感じるものです。そして、そのテーマに思い入れがある場合、こういったプロジェクトをやらせてくれとコンサルティング・ファーム側からクライアントに進言することも多々あります。結果として仕事が取れる、取れないは抜きにして、「コンサルタントが心からやるべきだ」と思ったことは進んで提言するのも求められる価値だと思います。そのクライアント企業を心から強くしたいと考えていたら、そのための進言は進んですべきということです。私もどちらかと言うと、「クライアントに取ってやるべきテーマ」×「自分が携わりたいと思うテーマ」を見つけて、こちらから進言していくことが多かったです。
ただ、自らの数字のノルマのために「不必要(やらないよりはやったほうが良いかもね、と言う程度のテーマ)だが金になること」を提案するコンサルタントがいることも確かです。個人的には彼らのことは「コンサルタント」としては全く信用も尊敬もできない存在だと軽蔑してましたが、一方で「コンサルティング」と言うサービスを売ることを目的にしたビジネスパーソンと捉えれば、そういう人がいるもの理解はできます。
では、前者に関して少し触れていきましょう。
クライアントからの相談は3つのうちのどれか
経営戦略立案に関する相談先は、通常の場合ですと「社長」、「カンパニー長」、「事業部長」、「事業ユニット長」など、事業に責任を持ち意思決定をする方であることが一般的です。そうした方からの相談は、ざっくり書くと、結果的に以下3つに対して足りないものを検討してもらいたいということになります。
- 何をやるのか?
- どうやってやるのか?
- どの程度やるのか?
上記3つのうち、「3つとも考えてくれ」ということは決してありません。上記のうち、1つ、もしくは2つが決まっており、残りを検討してほしいという形になります。例えば、「何をやるのか?」「どの程度やるのか?」が決まっており、「どうやってやるのか?」が相談される場合などはこのような感じでしょうか。
「競合と比較してもこの事業領域に遅く参入しながら順調に着実な成長を続け、現在は業界4位、シェアは10%にまで成長してきた。今後業界2位、シェア30%を目指すためにどのような手を打っていく必要があるのか?」
「何をやるのか?」は既存事業を成長させるになり、「どの程度やるのか?」が、シェアを20ポイントup、業界2位にまで躍進するということになります。それに対して、目標値に到達するための具体的な道のり、「どうやってやるのか?」を検討することが求められるテーマになります。
また、「既存のリソースやアセットを活用して新規事業を立案したい」というケースがあります。この場合は実質的に2.5つを考える形になります。例えば、最近のトレンドだと、「自社の保有する膨大なデータを活用して新規事業をたちあげたい」と言うニーズをよく聞きます。その場合、「何をやるのか?」はXXを活用した新規事業として決まっていますが、その新規事業の具体的な中身はこれから考えることになります。また、それを立ち上げるために「どうやるのか?」もゼロから考えることになります。「どの程度やるのか?」も、ざっくり目標とする規模感はありながらも、何をやるかが実際に決まっていない中で、目標感を具体的に先に決めることはできません。それらはビジネスケースとして現実的な値を作っていくことになります。とは言え、現実的とは言いますが、その企業に取っての新規事業の位置づけを考えると、「どの程度の規模に成長しないと意味が無いか」ということはわかります。100億円の企業に取って10億円の新規事業は次の事業の柱になりうる事業ですが、10兆円の企業に取って100億円はあまり存在感の無い事業と言うことになりますので、そこに新たなリソース(人や金)を投下し、リスクを取ってまでやるべき事業にはなりえないということになります。
クライアントとの信頼関係が既に構築されている場合は、上記のような粗い相談内容のタイミングからお話を伺い、一緒に「何を」「どうやって」「どの程度」などを議論しながら詰めていくことになります。
「悩み」「課題」の解決の仕方が「答えるべき問い」ではない
あるテーマに関して相談を受けたら、まずはそのテーマに対して初期化説を立案して、それを叩きにしてクライアントと議論をすることになります。「やりたいこと、もしくは目指したいことは理解しました。結局それってこういうことなのだと思います。よってこんなことを検討して行くのが良いと思いますがどうでしょうか。」と言うことを議論して、合意を得て、実際に提案書を起こすことにつながっていきます。
クライアントと議論を進めながら検討すべきテーマをより明確にしていきます。私達は「答えるべき問い」と言う言い方をしていましたが、何の問題を解決したら、結果として求めていた成果にたどり着くことができるのかを考えることになります。「答えるべき問い」を定義するためには、初期仮説と言ったものが避けられません。仮説立案力は第4回にきちんと説明いたしますが、ここで少し脱線して初期仮説に関して例を出したいと思います。
クライアントの課題が「営業生産性が低い」だったとします。競合と比べても3割程度営業生産性が低いことも数字でわかっていたとします。また、競合はSFAの仕組みを導入してシステマチックに活動を行い高生産性を実現していた事実もわかったとします。競合は営業スキルを上げる教育にも力を入れていたとします。成果に対して多くのインセンティブを支払い、それにより営業マンのやる気をあげていたとします。その際に、「答えるべき問い」がイケてる競合をベンチマークして、自社の営業効率を改善する施策を検討するであったら、おそらくコンサルティングと言うマーケットがここまで大きくなることはなかったでしょう。
実は業界有数の競合は、営業人員も多く、面を使って全国のエリアをくまなくカバーしているのに対して、クライアントはシェアも低いために人員もカバーできるエリアも限られるのに、業界一位の競合と同様に全国をカバーしていたとします。ケーススタディであるように、トヨタの多チャネル化を見習い、販売店のブランド数を増やして沈んでいったマツダと同じ過ちをおかしている可能性もあります。クライアントの営業生産性が低いのは、営業マンのやる気がないとか、スキルが低いとか、そういった一因にあるかもしれません。ですが、根本的には、クライアントが保有するリソースに対して戦線を広げすぎている、と言う結論かも知れません。つまり、答えるべき問いは、「営業の生産性をあげる取り組みを考える」ではなく、自社のリソースでも特定エリアで勝っていくための、「エリア戦略を策定する」と言う可能性があります。何を正しく考えるべきかを導き出すには、常にその時点で最も正しいと思われる仮の答え、である仮説の立案が必要になります。
初期仮説は思いつきではない
きちんとした「初期仮説」の立案を経験したことのない人たちは、仮説は意味が無いと主張される方が多いようです。所詮「思いつき」や「思い込み」であったり、「勘に頼った当てずっぽう」と言う認識を持っているようです。ですが、コンサルタントは初期仮説であっても、今までの経験やインプット情報をもとに、統合的に物事を判断して仮説を立案します。「アナリシス」の反意語が「シンセシス」になるのですが、まずは分解して分析(アナリシス)して、その後構造化して整理して理解・把握した後に、シンセシス、つまり統合していき、解釈して、要はこういうことなのではないか、と仮説を立案します。仮説立案は第4回に説明するので、今回は多くは語らず流れの説明だけに留めます。
「答えるべき問い」を見いだすのが最初の大仕事
提案をするまでの最初の難しさは「答えるべき問い」を見出すことです。まずはここをクリアしないと価値のあるコンサルティング結果が生まれません。「見た目の課題」を直接解決する施策を提言しても受注できることも多々あります。クライアントはそれが課題と思っているからです。そして、先の礼なら、競合を参考にSFAを導入したり、スキルを上げる教育をしたり、インセンティブ制度を構築することにより、多少は良くなることも事実でしょう。ですが、それでは本当に勝っていくことできないのだと思います。
先の例で言えば、生産性を上げるには特定エリアにおいて競合に匹敵する競争条件を整えることになります。そのため、あるエリアは戦わずに撤退かもしれませんし、あるエリアは自前で育てるかもしれませんし、あるエリアはローカルプレーヤーを買収かもしれません。もしくは、自社と同等の規模のプレーヤーをM&Aして一気に規模を拡大するかも知れません。「答えるべき問い」も「それに対する答え」も、常に仮説をもとに作られていますが、常に最善と思われる仮の答えを複数持ち続け、一番可能性が高いと思われる答えを見つけ続ける事が仮説思考だと思います。
このように、クライアントと真因を探りながら、仮説をベースに答えるべき問い見極めていく活動は、まさにプロジェクトの責任を追うプロジェクトマネージャの醍醐味とも言えます。コンサルタントやアナリストは、定義された答えるべき問いや、定義された解決アプローチにしたがって活動せざるを得ないからです。これらの活動は、ビジネス上で常に大局観を持って現時点では正しいと思われる方向性をその都度定義し、それに従い解決策をブレークダウンしていくという流れになります。こういったことを経験したことは、起業後も非常に役に立っています。弊社のようなスタートアップ仕立ての小規模ベンチャーは、小舟だからこそ舵取りを誤るとすぐに転覆して沈んでしまうために、情報を整理して3ヶ月後に結論ではなく、今ある情報と過去の経験や知識から、今考えうる最高の仮の答えを導き出し、それをベースに意思決定していかないと間に合わないからです。
今回はプロジェクトが始まるまでの前編として、「相談」〜「答えるべき問い」までを紹介しました。次回は「提案準備」〜「受注」の流れで普段皆さんが余り見ることのない社内調整系を中心に説明していきます。
第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトが始まるまで 前編 ⇒今回
第3回:戦略立案プロジェクトが始まるまで 後編
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告
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