昨日に引き続き、「仮説とデータをつなぐ思考法」の書籍解説を行っていきます。よろしくお願いします。
昨日は「文系ビジネスパーソンの持つ業務知識・経験を最大限活用するために、データを使おう!」というお話をしました。本日は、もう少し具体的に、ビジネスパーソンが担うべき役割について掘り下げていきます。
そもそも「データ活用」とは、なんなのか
まず、前提として「データを活用する」という際に、あらかじめ認識しておくべきことを整理しておきましょう。
こちらの図は、以前から僕が良く使っている「英字 ”Data Scientist” & カタカナ ”データサイエンティスト”」の図です。
当然ながら、ここで論じているのは表記方法ではなく、求められる役割を端的に表現しているのであって、「カタカナで書いてあるからどうだ」ということではありません。(というエクスキューズを入れておくのが昨今の…)
データサイエンティストもしくはData Scientistという言葉は、おそらくは2012~13年頃に日本に輸入されてきました。当時、アクセンチュアに在籍されていた工藤卓哉さんが「データサイエンス超入門」を出版されたのが2013年11月です。2013年9月に「データサイエンティスト養成読本(技術評論社)」、2013年8月に「データサイエンティスト ‐データ分析で会社を動かす知的仕事人(ソフトバンク新書)」も発売されていますので、そのあたりが皮切りだったのかなと思います。(もう10年も前の話なので当時の記憶は曖昧ですが、僕は、先に工藤さんの本を読んでから、データサイエンティスト養成読本を読んだような記憶があります。ちょうど、トレンドワードになってきたタイミングだったんじゃないかなと思います。)
上述の、データサイエンス超入門が出版された際に、弊社代表の網野と工藤さんが対談を行ったこともあります。5回連載のこの対談のうち、第3回にこんな会話があります。
網野:
さて、ここで今流行のデータサイエンティストに関して少し議論させて頂こうかと。工藤さんの本では、データサイエンティストの定義として、「分析の前提理解」、「特徴次元空間を意識」、「一専多能型のコミュニケーション」が要件として挙げられていますよね。
ちなみに、そんなスーパーマンに出会ったことがありますか?しかも、工藤さんが活躍していたNYではなく、このIn Japanで。笑工藤:
ビッグデータ対談 その③
うーん、正直いないですよね。苦笑
サイエンティストなので、サイエンスの知識が必要な事は言うまでもないのですが、データサイエンティストには当然ながらビジネスセンスも必要だと思います。
決して悪く言うつもりはないですが、統計専門の先生方はデータ分析のテクノロジーなどに関していい方向性を示してくれるのでとても尊敬しているのですが、必ずしもビジネスセンスがあるかというと、そうではないこともあるでしょうし、、、。
この世界ではビジネスとして成り立たせることができないと持続性がないと思います。エンドカスタマーが喜んでくれることで、会社を大きくし、更に雇用を増やすことがデータサイエンティストだと思いますから。
この会話にもある通り、この日本において「データサイエンティスト」という表現で示される人の多くが(すくなくとも10年前は)、上図でいうところの左側「データを取り扱う役割」に長けている人、ということになります。本来、米国で生まれた「Data Scientist」は左側の能力に加えて、右側のビジネス領域に関する理解があり、どのようにしてビジネス・インパクトを起こしていくのかを考える力を兼ね備えたスーパーマンのことを指します。
つまり、日本においては、右側の役割がホワイトスペースになってしまっているわけです。この状況は、あれから10年経った今でも、大きくは変化していないと僕は捉えています。(言うまでもなく、ひとりもData Scientistがいない、なんてことは言っていなくて、そういう人はレアキャラだということを言っているに過ぎません。というエクスキューズを(以下略))
データ人材とビジネス人材
実際にビジネスを変革し、売上を伸ばしたり、コストを引き下げる、あるいは最適化したりすることを「ビジネスの成果」とした際に、データを取り扱っている「だけ」では、その成果を得ることはできません。そして、それはつまり、カタカナ「データサイエンティスト」だけに、データを委ねていてはいけないということです。
では、どうするのか。答えは「分業制」です。
左側の”データを取り扱う役割”をカタカナ「データサイエンティスト」を中心とする人たちが担い、右側の”データ分析をビジネスにつなぐ役割”を文系ビジネスパーソンが担うのです。
当然ながら、左右両方の役割を一人で担い、上図に書かれたデータ活用プロセスを単独で遂行できる英字「Data Scientist」が理想的なのは間違いありません。しかし、そんなスーパーマンがゴロゴロいるわけがないのです。で、あるならば「適材適所」「できるところからコツコツと」という考え方になるのが自然です。理想を追いかけることと、目の前で成果を得ることは、両立可能なはずです。
そういうわけで、右側の「ビジネス人材」としての役割を、文系ビジネスパーソンには、ぜひ積極的に狙いに行ってほしい、と僕は思います。但し、そのためには新たな努力・挑戦が必要です。
業務知識、業務経験があるビジネスパーソンは、それに基づく「勘・経験・度胸(KKD)」を持っています。上図のプロセスのうち1~3、12~14は、得意分野のはずです。事業を理解して、事業を伸ばすための打ち手を打つ、は、ホワイトカラービジネスマンの仕事のど真ん中です。
一方で、4.見たい切り口、11.示唆の抽出 というあたりになると、データに関する一定程度の理解が求められます。ここが、新しいチャレンジになります。そして、さらに言えば、4の先の5.分析設計。11の手前の10.新たな発見にまで踏み込んでいく気概が求められてきます。
データを取り扱うデータ人材に丸投げして「お客様」っぽく振る舞っていては、データ活用は前に進みません。自ら、データの海にじゃぶじゃぶと浸かっていくことで、ビジネス人材として「データ分析をビジネスにつなぐ役割」を担うことができるようになるのです。
さて、本日は、文系人材が目指すべき「データ人材」という役割について解説しました。明日は、ビジネス人材が考えるべきこと、および、昨今話題の「リ・スキリング」に注目して進めていきたいと思います。