ATLは「資産」である
アド界隈ではATL/TTL/BTLという言葉が使われています。本日は、その用語について掘り下げてみたいと思います。(この連載”基礎から学ぶマーケ用語”では、「当たり前に使っているマーケティング用語」をギックス独自の視点で、捉えなおしていきます。)
ATL/TTL/BTLとは
ATL/BTL/TTLとは何でしょうか。
THE AD TECHNOLOGY(ザ・アドテクノロジー)より引用します。この本の中ではこの用語は、IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の文脈で語られます。
IMCの特徴は、生活者のデータベースを使ってターゲット別にセグメンテーションを行い、全てのコンタクト・ポイント(生活者との接点)において企業のメッセージをセグメント別に届けるようにマネジメントするという点です。
広告業界では、ATL(above the line:一般的にマス広告)、BTL(below the line:一般的にセールスプロモーション施策)、TTL(through the line:ATLとBTLの統合)などと言われますが、すべてのコンタクトポイントを有機的に統合し(integurated)、つまり、above the line も below the lineも一気通貫で利用し(through the line)、マーケティングをマネジメントするという概念です。
これは、非常にシンプルで明快な説明だと思います。このように理解していれば十分なのだろうと思います。
LINE ってなに?
然しながら、コンサルと言う大変因果な商売をやっていると、「言葉の定義」というものが気になって仕方がありません。特に「LINEってなんだよ?」というのが気になります。Above the LINE は「LINEの上」、Below the LINE は「LINEの下」といっているわけですから、何らかの「線」がそこにはあるのだろう、と推察されます。
Wikipedia(英文)の定義から抜粋して意訳します。
ATL(above the line)とBTL(below the line)の違い(原文はコチラ)
- ATLはマス向け。BTLはニッチ向け。
- ATLは効果の計測が困難。BTLは比較的計測しやすい。(従って、BTLの方がRoIを測りやすい)
- ATLはメディアバイイングの為に広告代理店にコミッションを支払う。BTLはコミッションの支払いが発生しない。
- ATLは認知向上に適する(AIDMAの”A”)。BTLは関心・欲求段階の醸成に適する。(AIDMAの”I & D”)
- ATLは「将来的に価値を生む費用(capital expenditure)」。BTLは「短期的に価値を生む費用(current expenditure)」。
(ATLは「B/S」に記載されるべき意味合いの費用であり、BTLは「P/L」に記載されるべき費用。)
また、この中で、語源は「会計用語」である、という話も語られます。
調べたところ、会計用語では、above the line は営業費用(本業の費用)、below the line は営業外費用を意味する(つまり、経常利益=”LINE”)という話もありましたが、それだと「逆向き」に見えてしまいます。よって、ここでは「Above」「Below」はさておいて、今回のケースでは、キャッシュフロー計算書上の「営業活動」か「投資活動」かを意味しているという風に僕は理解しました。(参考:Current vs Captal Expenses)
要するに、将来的に価値を生み出す「資産(asset)」を購入した”投資活動”がATLであり、日々の営業活動の一環として支出を行ったものがBTLである、という理解です。そして、その”境界線=支出の意味合いの違い”が”LINE”である、と。 ※くどいようですが、これはあくまでも”境界線”の話であり、上下の概念は逆転してしまっています。
これらは、ATLがマス向けのブランド形成(特に認知段階)に向いていること及び、効果が定義しにくく測定が非常に難しい、ということを踏まえると、かなり「しっくりくる」ように思います。
TTL では何が起こるのか
先述のWikipediaにおいて、TTLは、ザ・アドテクノロジーの記述と同様に「ATLとBTLを統合して最適化する」と定義されています。
また、そこから一歩踏み込んで、「TTLにおいてコミュニケーションの最適化を推し進めると、BTLに傾注していくこととなる」とも述べられます。つまり、”最適化”を行うという事は”投資対効果を最適化する”ということを意味しますので、比較的成果が測りやすく、また投資金額が比較的小さくて済むBTLに注力したくなるのも当然だと思われます。
さらに、現状では、BTLに含まれている”インターネット”が、今後は ”資産としての意味を持つ広告・マーケ施策”(=現在の定義で言うATL)となってくることでしょう。もちろん「そもそも、本当にマスで認知をとり、マス向けにブランド構築する必要があるのか? 特定のユーザー層だけでよいのではないのか?」という議論も起こってくると思います。(実際に、ダイハツのオープンスポーツ軽自動車であるCOPEN(コペン)は「マス広告を打たない」と明言しています。)
もちろん、この考え方がそのまま全商品に適用されることはあり得ません。(特に、単価が安く薄利多売で稼ぐFMCG(First Moving Consumers Goods = 日用品)にはそぐわないと思います。)しかし、商品・サービスの特性に応じて「ATLの必要性を疑う」もしくは「BTL(特にインターネット)を認知段階にも活用する」ことになっていくのは、もはや避けられない流れだといえるでしょう。
マーケティング用語は日々移ろいゆくものではありますが、特に、新しいテクノロジーの出現によって影響を受けるものと、そうでないものを見極めていくことが非常に重要になりそうですね。
参考記事:
- Markezine:クロスメディアが変える!広告コミュニケーションの現場 第2回 オンライン広告とオフライン広告の複雑な事情2~認知を取るためのマス広告とアクションを生み出すプロモーション~ (※少し古い、2006年の記事ですが、非常に参考になります。)
- Wikipedia(Eng):Below the line(Marketing)
- 日経ビジネス:テレビCMに背を向けた軽自動車 透けるダイハツの危機感