本日、2023年10月2日、株式会社ギックスと西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本)は、合弁会社「株式会社TRAILBLAZER(トレイルブレイザー)」を設立いたしました。
TRAILBLAZERは「GO WILD WEST!」をミッションに掲げ、JR西日本グループの保有するデジタルアセットをフル活用して、西日本を起点に日本全体の課題を解決することを目指します。その実現に向け、高度デジタル人材の雇用・育成を推し進め、「JR西日本グループの事業共創を、デジタルの力で加速させる」役割を担います。
TRAILBLAZERの社長に就任した奥田英雄氏の新会社にかける意気込みや想い、今後の活動方針について、同社設立に深く関わってきたギックス代表取締役CEO 網野がお話を伺いました。
目次
投資先 兼 コンサルティング・パートナーから、共同経営チームへ
株式会社ギックス 代表取締役CEO 網野 知博(写真左/以下、網野):本日はどうぞ宜しくお願いします。奥田さんとは、奥田さんがJR西日本イノベーションズの社長をお務めになっている際に弊社に御出資頂いたことに始まって、その後、デジタルソリューション本部、通称デジ本を立上げられてからは、いろいろな領域でご支援をさせていただく機会を頂戴しました。
JR西日本グループは私たちギックスにとって大切なクライアントであり、重要な株主であり、そして、今回、さらに強固な結びつきを持つビジネスパートナーとなりました。こうした形で奥田さんとお話させていただけるのは、とても光栄ですし、ありがたいことだなと思っています。
株式会社TRAILBLAZER 代表取締役社長* 奥田 英雄(写真右/以下、奥田):ギックスに出資したのは2018年の暮れでしたね。あのタイミングではCBM**の領域を主に改善していくということでの資本業務提携でした。その後、「顧客体験の再構築」の観点で、マーケティング分野を中心としたデジタル戦略推進による業務プロセス改革とビジネスモデル変革の実現に協業範囲を拡大し、追加出資もさせていただきましたね。
*:西日本旅客鉄道株式会社 取締役兼執行役員 デジタルソリューション本部長 と兼務
**:Condition Based Maintenance:設備状態を常時監視・把握し、必要な時のみメンテナンスを実施することで品質と効率性を両立させる予防保全の考え方
網野:はい。追加出資は2021年の5月でした。コロナ禍のまっただなかで、いろいろと先行き不透明な中で、当社のデータ活用ケイパビリティを高く評価していただいて、”データインフォームド”という考え方を、JR西日本グループ内のより幅広い業務領域に適用していく流れを作っていただきました。
マーケティング分野では、サーキュレーションエコシステムと言うコンセプトを提唱しました。コロナ禍が本格化する直前の2020年3月にスタートしたこの構想は、自社の鉄道や商業施設、グループ企業の枠を超え、エリアや沿線にお住いの皆さんの生活を活性化するという取り組みです。そうやって、地域・エリアが活性化することで、結果的にJR西日本も収益が高まっていくというアプローチは、ひと世代前の「顧客囲い込み」のような考え方とは全く異なるものだと言えるでしょう。
取り組みの範囲は、スマホアプリの活用、顧客データ分析を中心に据え、各種サービス間の会員連携やエアラインのマイレージに相当するポイントの在り方、クレジットカードやICOCAを補完する決済の方向性まで、非常に幅広いものでしたので「いつまでにやり切る」という達成時期は明確には定めず、あくまでも「目指す姿」として設定するに留めました。が、あれから3年ほどで、ほぼ全てやり遂げています。準備にも実装にも多大な時間がかかる決済の仕組みなども、既に具体化されて立ち上げが進んでいる。振り返ってみると、本当に驚異的な3年半だったと思います。
また、実際にこのような構想を具体化・実現していく過程においては、一つ一つの取り組みに関して、データに基づいて仮説を立て、施策を打ち、その結果をデータで検証していきました。組織一丸となって、データを見ながら、ああでもないこうでもないという”大喜利”大会を行って、より良い判断・意思決定につないでいくわけです。あの会議体に参加する人たち全員に、データインフォームドな行動様式が定着化していきました。
奥田:多くの参加者がリモート会議に参加して、データを見ながらあれこれと意見を戦わせるスタイルは、とても刺激的です。誰かが資料を読むのを皆が一方的に聞いているのではなく、あれこれと積極的に意見を述べていく。口頭で発言する人に加えて、チャットに自由に意見や感想を書き込んでいくことで、会議の参加人数が多くても全員参加でリアルタイムに意見交換がなされていくのはリモート会議ならではだなぁと思っていました。
データの見方も学びながら、自由闊達な意見交換を経て、より良い判断・意思決定につながっていくわけです。こういうスタイルで仕事を進めれば、効率向上だけでなく、質の向上という観点でも生産性が上がるなと実感しました。
網野:ギックスが目指しているのは、まさに、そういう世界です。「あらゆる判断を、Data-Informedに。」というパーパスを掲げていますが、ここでいう「判断」の質を上げていくことが極めて重要です。データは、勝手に答えを導き出してはくれません。データを見ながら、人間の思考能力を最大限に引き出していく必要があります。そのためには、一人でうんうん考えているだけではなくて、色々な人と闊達に議論していくことが求められます。
マーケティングチームの皆さんとの打ち合わせでは、まさに、その状態が実現されています。
奥田:データを用いて、ビジネスを伸ばす。デジタルの力で、ビジネスを伸ばす。そういうギックスと一緒にやってきたことをもっともっと強力に推進して、JR西日本グループ全体の成長を実現したい。そんな思いが、今回設立した新会社「TRAILBLAZER(トレイルブレイザー)」に繋がっています。
JR西日本グループの事業共創を、デジタルの力で加速させる
網野:新会社の位置づけ、ということで「JR西日本グループの事業共創を、デジタルの力で加速させる」を掲げていらっしゃいますよね。これは、会社が進むべき方向をクリアに指示している、とても良い言葉だなと思っています。
奥田:私も、良い言葉だなと思っています。TRAILBLAZERは、JR西日本グループの一員です。JR西日本が目指していく「事業共創」をしっかりと下支えし、加速していくことがTRAILBLAZERの使命です。
JR西日本は、もともとは鉄道会社です。それが、どんどん社会全体のインフラとしての役割を担うように成長してきました。現在、JR西日本グループは「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」という言葉を存在意義として定めています。単に線路を敷いて電車を走らせて人や荷物を運ぶ、というだけではなく、人と人、人とまち、人と社会をつなぐ存在になりたいと考えています。その際に忘れてはいけないのが「安全・安心」です。
安全・安心を高めつつ、人、まち、社会をつなぐ。言葉で言うのは簡単ですが、実際にはいろいろな困難が待ち受けています。そういう難しい「JR西日本グループの事業共創」をしっかりと、そして着実に実現するにあたって「デジタルの力」は不可欠です。TRAILBLAZERは、そうした大変なチャレンジを、最前線で引っ張っていく会社です。
網野:そもそも、英単語としてのtrailblazerが、先駆者、開拓者という意味ですよね。
奥田:そうなんです。祖業である鉄道事業の「RAIL(線路)」にも通じる良い言葉なので、社名として使うことに決めたんです。鉄道から始まって、社会全体をより良くしていくための先駆者でありたいと考えていますし、同時に、JR西日本の変革の先駆者でもありたいと思っています。
JRに限らず、大企業は、どうしても変化の速度が遅くなりがちです。その組織の外側に、ベンチャースピリットを持った組織を作ることで、変化をぐんぐん加速させていきたいなと。そういう意味で、TRAILBLAZER’s VALUE という3つの価値を制定した中に「はよやろう」というキーワードを入れています。はやく動きたい、はやく変わりたい。そんな気持ちを込めています。
網野:今回、ギックスが資本参加させていただくと共に、取締役を派遣させていただいているのも、「重厚長大の”対極”」に位置するグロース企業、ベンチャー企業のDNAをTRAILBLAZERに注入することを狙っています。
ギックスのデータ分析能力、データ活用能力だけをご提供していくのなら、これまで通りのコンサルティング・パートナーとしての関与で構わなかったわけです。しかし、今回、ギックスの変化への対応力、むしろ、自発的に率先して変化していくぞというマインドセットを、TRAILBLAZERにインストールしたいと思っています。
奥田:ベンチャーマインドに刺激を受けて、仕事の現場で関わる人材が変化し、JR西日本という会社・企業グループ全体にその変化が波及していくことを期待しています。先ほども話題に出たマーケティング領域の会議の場においても、JR西の社員に大きな変化のきっかけを与えてもらったと思っています。TRAILBLAZERによって、その流れをさらに強力にしていければ良いなと考えています。
実は、JR西日本という会社は、ずっと変わろうと試み続けています。その流れの中で、最近は別の風土・異なる文化の人がどんどん入社してきていただいています。変化はすでに始まっている。そこに、TRAILBLAZERが加わることで、さらに強い追い風を吹かせたい。そんな風に思っているんです。
網野:私はIBMに所属していた時代から「サンドボックス」という言葉を好んで使っているんですね。直訳すると「砂場」です。ここで、先進的な取り組みをどんどんやって、そこで得られた有益な学び・示唆を全社に展開していくという実験場の役割を担わせるわけです。
私は、TRAILBLAZERは、JR西日本グループのデジタル領域におけるサンドボックスとして機能させていくのだと理解しています。TRAILBLAZERでトライするのはデジタル施策だけではなく、採用、人事・評価制度、働き方などにも踏み込んでいきます。また、その中で、プロアクティブに社会を変えていくことにも取り組む風土を作ります。そういう様々なことにトライしてみてた結果、良かったことはどんどんJR西日本やグループ各社が取り入れて自社に実装していく。そうやって、変化の種を各所に撒いて、芽吹かせていく。そういう流れになると良いなと思うんです。
奥田:そういう変化の種をしっかり見出して、TRAILBLAZERだけでなく、親会社であるJR西日本やグループ全体に良い影響を及ぼしていきたいですね。ポストコロナの世界で、鉄道事業においても、周辺事業においても、AIを使い、データを使って業務効率を高め、業務制度を高めることが強く求められています。いわゆる「匠の技」をデータによって可視化し、形式知化していく取り組みも進んでいます。こうした動きを、爆発的に加速させたいと思っています。
日本はいつも西から変わる
網野:デジタル人材は、当社(ギックス)も含めて多くの企業が採用しようと試みています。TRAILBLAZERでは、どういう人材を採用・育成していきたいと考えていらっしゃいますか?
奥田:JR西日本という巨大な企業グループの中で、先進的な取り組みを行い、変化を先導する役割を担うのがTRAILBLAZERです。従って、このチームに参加していただく方には、自ら変化を求め、変化を推し進める気概を持った人たちであって欲しいなと思います。
クライアントに言われたとおりに作業して、言われたとおりのものを作りました、ということではなく、「もっと、こういう風にした方が良いんじゃないですか?」「他にも、こんなやり方がありますよ。そっちの方がこの取り組みにはフィットしているのでは?」「そもそも、本当にそれをやるべきですか?違う考え方で、こういうアプローチをとりませんか?」などの自らの意見、意思を持って取り組んでいける人が集まってほしいですね。
網野:反対意見を言うだけではなくて、その背後に「技術力」や「論理的思考力」という裏付けが求められますけれど、単なる御用聞きに終わらず、より良いものをつくるために”共に働く”という意識が大切ですよね。
奥田:その通りです。さきほど 「JR西日本グループの事業共創を、 デジタルの力で加速させる」 という言葉のお話をしましたけれど、それに共感し、それを実現するために、どういう貢献ができるのか?という視点で、日々の活動に向き合っていただきたいですね。
網野:手段よりも目的を重視する人、成果に対して貪欲な人が良いですよね。
奥田:JR西日本のDXの活動は、デジ本を中心にギックスの支援も得ながらしっかり推進してきました。従って、JR西日本内に「デジタルを活用する」という土壌は既にあります。そのため、具体的に、今後どういう取り組みをしていけばよいかというイメージは、既にJR西日本グループ内にあります。
今回、TRAILBLAZERを設立し、会社の外側からその土壌に種を撒いて作物を育てていくわけです。ご入社頂いた皆さんにとっても、入社直後から、具体的に肚落ちして取り組めんでいただけるテーマがたくさんあると思っています。実現手段ももちろん大切ですが、そうしたテーマに共感し、一緒に楽しく取り組んでいただける人に、是非、参加していただきたいですね。
網野:ミッション「GO WILD WEST!」と、会社の位置づけ「 JR西日本グループの事業共創を、デジタルの力で加速させる」の間に、ビジョン「日本はいつも西から変わる」という言葉がありますよね。これは、奈良とか京都とか、そういう歴史的な古都のイメージでしょうか?
奥田:もっと古くは邪馬台国とか、出雲大社とか、そういう話もありますよね(笑)。まぁ、そういうイメージも含めて、ではありますが、西日本には、食文化や観光資源など、素晴らしいものがたくさんあると思っているんですよ。そういう西日本のすばらしさを、しっかり発信していく起点になりたい。そんな思いが強いです。
それと同時に、JR西日本が変わり、その変化を全国に波及させていくんだという意味も「西から」という言葉に込めています。
網野:JR西日本グループの保有する膨大なデータも、「データ分析をする側」から見ると、一つの魅力だと思うんですよ。私自身、これは宝の山だなぁと常々思っています。
奥田:そうなんです。ギックスとやってきたCBM領域も、マーケ領域も、大量のデータが存在しているからこそ、さまざまな改革を推進できたと思っています。そういったデータを使って、お客様への提供価値を如何に増やすか、あるいは、事業構造改革をどのように進めるか、などを考えていくことができます。
これは、JR西日本グループならでは、TRAILBLAZERならではの特徴だと言って良いでしょうね。
”共創パートナー”の一員として価値創出を
奥田:TRAILBLAZERの設立にあたっては、JR西日本の取締役ひとりひとりと深く濃密な議論をしてきました。そうするなかで、社外取締役の皆さんから、積極的な後押しをいただいたのがとても印象に残っています。「そういう新しい取り組みは素晴らしい」「せっかくやるなら、新しい制度や賃金体系など、JR西日本の常識の”枠”の外側にも取り組んでみては?」「JR西日本グループ内に閉じないで、社外からも『ぜひ、TRAILBLAZERのメンバーに仕事をお願いしたい』と言われるくらいの組織を目指してほしい」などという好意的で前向きなご意見をたくさん頂戴しました。非常に心強く感じると共に、これは、気を引き締めて良い組織を作り上げなければいけないぞという気持ちを新たにしました。
網野:素晴らしいお話ですね。今回、TRAILBLAZERに出資するにあたって、投資家から「ギックスの競合になるのではないですか?」という質問をいただいたりもするんですね。これに対する答えは「競合になっても、別に構わない」というものになるんですが、いくつか理由があります。
教科書通りに答えるなら「JR西日本グループのデータ利活用ニーズが高まっていけば、予算全体の中でギックスが受注する『比率』は減るかもしれないが、『受注額』は増えるので問題ない」というものになります。まぁ、教科書通りですよね(笑)。
ただ、本音の話をすると、実際に、強大なライバルになって、ギックスが負けるなら、それもまた良しと思っているんです。負けてしまったなら、ギックスがそれまでの存在だったということです。もちろん、ギックスもTRAILBLAZER以上の速度で変化し続けます。成長し続けます。そんなに簡単には負けないですよ(笑)。
せっかく合弁企業として設立したわけですから、人材の採用・育成にも全力でご支援します。ギックスのノウハウを全力で投入します。だから、負けるんだったら他の会社じゃなくて、TRAILBLAZERが良い。ギックスを倒せる唯一の存在はTRAILBLAZERだと思っています。
そういう姿を目指して全力で人材育成をお手伝いしていく中で、TRAILBLAZERのメンバーをギックスのプロジェクトにも、どんどん参加させるような取り組みも行っていきたいと思います。
奥田:ギックスでバリバリ活躍できるような人材を育てていきたいと思います。そのレベルの人材を育てていくことができれば、TRAILBLAZERは非常に強く、価値の高い組織になれます。
網野:ギックスは10年かけて、データとの向き合い方を研究してきました。そして、そのノウハウ・アセットを人材育成に効果的に用いる術も開発してきました。これらを活用することにより、短期的に強力な組織を作り上げることが可能だと考えています。
奥田:TRAILBLAZERは、立上げ初期は、主にJR西日本のデジ本と一緒にプロジェクトを推進することになります。デジ本が社内のDXニーズ、分析ニーズを把握しているためです。そうやってデジ本のメンバーや、マーケ部門のメンバーとプロジェクトを通じて触れ合っていくと、あちこちでいろいろな化学反応が起きていくと思うんですね。多種多様なスキル、能力を持つ人が集まって、それぞれの良さを引き出しながら働く。所属組織の垣根を超えた、ハイブリッドなチームを目指したい。
そして、そういうことを何度も繰り返していくなかで、TRAILBLAZERのメンバーひとり一人が、いろいろな部署やグループ企業と協働して価値を出していく存在になっていくと良いなと思っています。みんなで一緒に、新しいJR西日本グループ、新しい西日本、新しい日本を作り上げていきたいです。
網野:事業共創の「共に」の部分ですね。
奥田:まさにその通りです。TRAILBLAZERも、デジ本も、ギックスも、共創パートナーです。一緒に価値を創り、一丸になって事業を創っていく。そして、JR西日本の変革を強力に後押しし、加速させることで、西日本を元気にする。さらには、日本全体を元気にする。TRAILBLAZERは、その一翼を担っていく存在として、頑張っていきます。
網野:ありがとうございました。壮大なるビジョンを実現するために、ギックスも全力でサポートさせていただきます。
奥田:はい。引き続きよろしくお願いいたします。