CMスキッパーが望むCM
トップランナーと「アドテクノロジー」を語る
デジタルマーケティング領域で日本を代表する第一人者の菅原健一氏。
2月中旬に菅原氏の共著作である『ザ・アドテクノロジー データマーケティングの基礎からアトリビューションの概念まで』(翔泳社)が発刊されたのを機に、弊社の網野知博が対談を行って参りました。
(インタビュー日時:2月24日 ※発言内容は当時の状況になります)
網野:
最後の話題になります。〆なので、対談なのに、最後にそれぞれ思いの丈をぶつける感じで。(笑)
「枠から人へ」に戻るネタなのですが、私はCMスキッパーなのですよ。オンタイムでテレビを見られる時も、HDDに録画して、15分遅れで見て、CM飛ばし、しかも早再生で見て、最後には追いついちゃう、みたいな。実はHDDレコーダーが20万円くらいした、2000年くらいに導入して、それ以来時短生活者。でも一方で、私はチラシやDMも大好きなのですよ。日経電子版で新聞を読んでいますが、わざわざチラシが欲しいために紙版も購読しているくらい。自分で欲しい情報を取捨選択して、読みたいものには読みたいだけの時間を使えるのが良いのだと思っています。ですので、本来は私に取って広告類は情報収集の手段の一つとして捉えたいのです。自分の知らない最新の情報を提供してくれるメディア。
きっとDMPの最終形になるのだと思っているのですが、私はエランドの排除を望んでいるのです。馬に鹿の角が生えているみたいな動物のエランドではなくて、エランド(errand)はイギリスでの言い回しらしいのですが、雑務的な用事というか、自分としてはあまりやりたくはないが、やらざるを得ない用事のような位置づけのもの。
そして、このエランドは当然人によって異なります。旅行の情報収集は私にとってはエランドです。旅行に行く前の情報収集が楽しいし、それも含めて旅行!という人にはエランドではない。でも、私は現地で楽しめればいいので、事前の情報収集は私にとってはエランドになってします。
関連記事:エランドを排除する とは
菅原:
ああ、それ凄く分かります。人によって欲しい情報が違う以前に、その前にそのプロセスを好む場合と省きたい場合がありますからね。
網野:
更に言ってしまうと、例えば、この本のこういう考え方が好きとかなった時に、そういった考え方 とか、表現が記載されている本のリコメンドとか。音楽も、アーティストではなく曲のリコメンドは当たり前ですが、そうではなく、この曲はこのギターのリフが好きで、こういうエッジのたったギターリフが聞ける曲をリコメンドしてほしい、とか。
自分の時間は限られていて、知れたら嬉しいのに、知れないまま終えることの方が世の中には多いのです。私が知りたいことにマッチする広告(情報)を私は待ち望んでいるのですが、そういう人に、喜んでもらえるのが、「枠から人」への広告だと思っています。
広告はその商品の良さ、特徴などの論点を整理して、UVP(Understandable Value Proposition)を15秒や数行の表現で伝える凄さもある。それは私からすると、ものすごく嬉しい事なのです。
究極的の人への広告は売り込みではなく、友人が「お前これ知ってる?これ、お前多分好きだと思うよ。」という世界だと思っています。そういう世界が来ればいいな。そのための広告なら金を払ってでも受領したい。(笑)
菅原:
その通りだと思います。人によってエランドと感じてしまうことは違うのですよね。
結局、誰かの可処分時間の消費の仕方を設計してあげることになるのだと思います。
紙がよかったのは一覧性があって、取捨選択ができて、能動的に情報が集められたからだと思うのですよね。
一方で、メールがよくなかったのは、個人のスペースに押し入ってしまったからスパムのように言われてしまった。広告をする側は、侵してはいけない領域を知る必要があります。
自分に有益だという前提がついた広告だからSEOが衰退しないのだと思うのですよね。
網野:
昔から思っていたのですが、自分の行動や情報を全てさらけ出すから、有益と思われることは全て紹介してくれるサービスがあったらいいなと。
自分が見に行くから、情報をストックしといてくれって思います。
自分が探してたどり着ける情報は有限なので、好きになるはずのモノ・コトに出会えないまま死んでいく位なら、自分の情報を全て曝け出してでもそれらの情報をリコメンドしてほしい。(笑)
菅原:
情報を知りたい時に教えてくれるのが喜ばれる広告なので、検索連動型は結局伸びていますからね。
広告主側の観点で語る人が多いですが、広告受領側の観点に立てば、関連する広告を最適なタイミングで出してもらえる方が嬉しいわけです。「リコメンド」と思われるか、「広告」と思われるかの違いですね。これは、伝える中身とチャネル自体の設計によると思います。
少し極論を言うと、今後はデータが取れれば取れるほど、マーケティング4Pのプロモーションの位置づけが相対的に下がってくるのではないかと思っています。世の中がどんどんと「ダイナミック・プロダクト (product)」、「ダイナミック・プライシング (pricing)」、「ダイナミック・プライシング (placing)」になっていく気がしています。
言い換えると、目的にどう誘導するのか?
ダイレクト・プロダクトという観点で言えば、ワインとか嗜好品のようなすぐに作れないものではできないですけど、シャンプーのようなものであれば、中身をユーザーが決めて、ある一定量の声が集まったら出荷してあげるといったサービスができると思います。
ユーザーが欲しているモノを、リアル店舗に揃えて待っているという世界が来る気がしますね。SEOそのものを広告と言わないのは、消費者が検索した結果に最適と思われる情報を伝えるからです。グーグルグラスをかけて、グーグルグラスから「次は左に曲がるとお気に入りの店があります。」と言われた時に、それを広告と思うか、リコメンドと思うか。
でも、究極的に言えば、そうなってくると、相対的にプロモーションの位置づけというか、役割が下がっていくのではないかと思っています。
網野:
ありがとうございました。
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連載記事一覧
- 第一回 「枠」から「人」へ 前編
- 第二回 「枠」から「人」へ 後編
- 第三回 TTLとMOT 前編
- 第四回 TTLとMOT 後編
- 第五回 RTBとDMPの世界
- 第六回 アトリビューション
- 第七回 CMスキッパーが望む広告 ⇒今回
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