この連載では「会社を強くする ビッグデータ活用入門 -基本知識から分析の実践まで-」で取り上げたビッグデータやアナリティクスの活用事例を抜粋し、ご紹介していきます。
書籍の中では大きく2つの場合で事例を区分しており、合計8回にわたり、「自社活用:自社の競争力強化にビッグデータを用いている事例」」のビッグデータやアナリティクスの活用事例をご紹介します。
A:他社活用:他社や外部に向けた情報提供によるサービス提供にビッグデータを用いている事例 第1回〜第4回⇒掲載済み
B:自社活用:自社の競争力強化にビッグデータを用いている事例 第5回〜第12回
今回は「⑤マーケティング・販売」に関するビッグデータ活用事例です。この「販売・マーケティング」では、大きく⑤-a「認知系」、⑤-b「(初回)購買系」、⑤-c「再購買系」の3つに分けおり、今回は⑤-b「(初回)購買系」の事例をご紹介します。
ビッグデータ活用事例:マーケティング・販売領域-(初回)購買系
続いては⑤-b「(初回)購買系」になります。小売業による「商品の陳列」は、ECにおける商品の掲示であり、リコメンデーションに近いのかもしれませんが、ここでは「(初回)購買系」の分類に入れています。
ウォルマートでは、通常の購買履歴に加え、同じ買い物かごに入っていた商品、来店時間、その日の天気などのデータからイベント毎に商品同士の相関(一緒に売れる商品)を分析しており、イベント毎によく売れる商品を一箇所に陳列し、売り上げ増大につなげているとのことです。誰もが知っている古典事例で言えば、オムツと缶ビールを思いだすかもしれません。この事例では、商品どうしだけでなく、天候などのイベントも含めて大量の変数となるデータを用いて分析していることが近年のビッグデータの特徴と考えられます。ハリケーンの場合には、懐中電灯と特定のお菓子が一緒に売れることを発見し、同一棚に陳列したという事例があるようです。
正直なところ、この程度なら、レジの人間やフロアマネージャーが気づきそうな感じもしますが、大量のイベントに対して、その時々の最高の組み合わせを人間に気づきなどに頼ることなく提示できる事がビッグデータの意味なのでしょう。
ここで一つ注意が必要なのが、人間の勘と経験によりこの程度の人間データマイニングが可能であるなら無理にビッグデータなどを使わなくてもよいということです 。おそらく日本の中堅のスーパーであれば、このような事は店長の日常の観察で実現可能な程度の商品展示なのかもしれません。ですが、ウォルマートのように、非常に多くの店舗と多くの店員を抱える企業としては、一部の優れた人間の力に頼るよりも、変動要素の少ない仕組みによる業務の高度化を目指す事は非常に合理的です。
これらの事例は、活用の仕方であったり、分析されて出てきたアウトプットがすごいか、すごくないかという観点ではなく、その企業にとってどれだけのOutcome(結果、成果)をもたらすことができるのか、また、自社であればどの程度のOutcomeをもたらすことができるのかいう点で検討すると、気づきが得られるでしょう。
Webでは、誰が、どの商品を、どのくらいの時間手に取って、買ったか買わなかったかが詳細に把握できます。同様のデータを実際のリアル小売店鋪でも実現可能なソリューションが出てきました。モーションセンサーで収集した小売店での顧客の行動を分析し、商品陳列棚のどの商品に手を伸ばしやすいかなどをリアルタイムでセンシングすることにより、商品配置の最適化を行ったり、商品を一旦手に取った跡に陳列棚に戻す顧客に対して、デジタルサイネージなどを活用し、該当商品のプロモーションをリアルタイムで実施することが実現しそうな世の中になってきました。
スーパーマーケットなどの小売業はそれぞれの企業に応じて「儲け話のメカニズム」の差異を打ち出しにくい業態です。ですが、自社がおもにどのような「儲け話のメカニズム」や「キードライバー」で戦い勝って行くのかを再整理する事で、自社が特に力を入れるべきビッグデータ活用の領域が見えてくるでしょう。
「認知系」は知ってもらう事が、その後ろの購買に寄与するキードライバーであると考えられる場合です。一方、「購買系」は、その時のプレゼンテーションが勝負になる場合を想定しています。
もの凄く大量の一見客が次々に何かを買う目的でもなくやってくるような小売店鋪があれば、その企業にとっての商品陳列は「認知系」ととらえても良いのかもしれません。例えば、観光地のお土産屋さんがこれに当たるでしょうか。時期(季節)、曜日、天候、気温、時間帯、景気動向、為替相場などからデータを分析すると、最適な商品陳列ができると考えられます。地方の土産屋でそこまでのビッグデータ活用が実施されたら、本当にビッグデータブームと言えるでしょう。
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