clock2014.10.22 09:04
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第3回:ビッグデータを競争力強化に使うとはどういうことか?/「会社を強くするビッグデータ活用入門」を振り返る

AUTHOR :  網野 知博

私は2013年の11月下旬に著書「会社を強くするビッグデータ活用入門」を出版致しました。準実用書と言う位置づけで出版しており、商業的には成功も失敗もしていない予定通り淡々と細々と出荷されている本ですが、読んでもらう人を明確に定義したため、”読んで頂いた方からは”比較的好評を得ております。
そうした中で、この本を読んで頂いた読者、及びこのテーマに関したセミナーにご参加頂いた方からの質問などを整理する形で、対して売れていない自分の本を改めて振り返ってみよう、と言う企画の記事になります。笑

会社を強くする  ビッグデータ活用入門  基本知識から分析の実践まで

ビッグデータの失敗事例

ビッグデータ活用の成功事例と同様に、「ビッグデータをどのように使うと失敗しますか?」「ビッグデータ活用の失敗事例を教えてください。」と言う質問を受けることが多くなりましたので、前回は失敗事例というものに関して焦点をあててみました。簡単に言ってしまえば、目的不在のビッグデータ活用プロジェクトは間違いなく失敗します。そのため、最近弊社が係るプロジェクトでは、失敗を避ける意味でも、まずは最初に作文を作ってみてくださいという依頼をするようにしています。(失敗を避ける事と、成功することは一致しない点はご理解ください。)ビッグデータ活用の本論を議論する前に、最後に作るべきビッグデータ活用の企画書を相当な思い込みベースの作文でも良いので、まずは作ってもらうことから始めることがあります。そして、ビッグデータを活用してサービスを提供すると言う立ち位置で企画書を作ってみてくださいと付け加えます。そして、「ビッグデータ活用プロジェクトの背景と目的」をしっかりと日本語で書いてもらうようにします。まずは、これだけで手段が目的化するプロジェクトを回避することができますので、失敗の可能性が下がります。

「儲け話のメカニズム」「キードライバー」

  今回はビッグデータを競争力強化に使うやり方に関してです。実は最初にカミングアウトしてしまう事があります。この本を書いたあとに、数十社のクライアント企業様と議論をさせて頂きましたが、実はここのテーマであるで言う「儲け話のメカニズム」「キードライバー」を理解し、実際に競争力強化につなげるビッグデータ活用を検討するには、ある程度と言うよりは、相当の経営戦略論に対する知識と経験が必要とされます。薄々気づいてはいましたが、、、「自社って結局はどういうメカニズムで競争優位性を構築していて、市場において勝って行けているのか?」「それを支えるキードライバーは何なのか?」という質問をぶつけても、なかなか答えが返ってこないのです。つまり、、、自社の業種業態や、売り物や、その商品の特徴は説明できても、競争環境において自社がなぜ、どのように収益を上げて行けているのかをきちんと理解している人があまりにも少ないのです。
 薄々と書いたのは、本来であれば、本書を書く際に、前提となる知識や考え方も懇切丁寧にお伝えすべきかも知れませんが、するとビッグデータ本の最初の数章が経営戦略本になってしまうという事態になります。
 もの凄く丸投げをしてしまうと、三谷宏治さんの著書「経営戦略全史」及び、そこに出て来る方々の著書を全て読んで頂ければ十分とも言えます。三谷さんの新書の「ビジネスモデル全史」でもいいかもしれません。また、楠木建さんの著書「ストーリーとしての競争戦略をお読み頂き内容をきちんと理解頂くのでも構わないと思います。
 結局この商売って「どうやったら儲かるの」「どうやったら客に価値を提供できるの」「どうやったら他社に勝てるの」などの考えが本質的に身に付いている方なら、アカデミックな書籍をお読み頂かなくてもよろしいかと思います。
 (ビジネスだけによりませんが、)ビジネスとは有限のリソースの中での競争です。そしてスポーツのように明確な勝利の基準がないため、成し遂げたい収益を上げる事を勝利と定義すれば、勝利者は多数存在します。野球のペナントレースで言えば、優勝するチーム、つまり勝利するチームは各6球団のうち1球団だけです。ですが、野球と言う興行により観客数を150万人集めると言うものを自球団の勝利と定義した場合に、セパ12球団の全球団が勝利者になれる可能性があります。自動車業界など明確なシェアがでる業界においても、シェア1位が勝利者である時代ではないでしょうし、また業界シェアも業界の定義によって変わります。その業界の定義(言い換えれば顧客のターゲティング)において上位にいる(結果的収益をあげている)企業が勝利者とも考えられます。
 おそらく全ての企業の目標は最終的には「利益の最大化」を前提とした数値目標になります。事業の目的が高尚な理念であることは必要ですが、そもそもその利益と言うガソリンが無いと事業が続かないため、目標は利益になります。その「利益」をより効率的・効果的に得て行くやり方が「儲け話のメカニズム」になります。ビジネスモデルは通常では静的な意味合いで取られる事も多いため、あえて動的な意味あいも含み「メカニズム」と呼び変えております。

「WTP(Willing to Pay)-Cost=Profit」

 卑近な例を出してみようと思います。ビジネスモデルと言う静的な図では、小売りは、仕入れて、店舗と言う付加価値をつけて、売ると言うモデルになります。収益は売った金額と仕入れた金額の差分からコストを引いたものになる訳です。
マイケル・ポーター的にかっこ良く言えば「WTP(Willing to Pay)-Cost=Profit」と言う数式になります。
 そしてマイケル・ポーター氏によれば、戦略の方向性は大きく3つと言っております。WTPを上げる、Costを下げる、そしてニッチな領域で戦う。
 小売りで言えば、
WTPを上げる
=差別化戦略:他には無い魅力的な商品を仕入れて売る(その仕入れに継続的に再現性があるケイパビリティがある)
Costを下げる
=コストリーダー戦略:他社と同じものを仕入れるが、オペレーションなどをcostをひたすら下げてProfitを確保する
競争しない
=ニッチ戦略:10人しかいない商圏に7人買ってくれれば商売が成立する程度のビジネスを展開し、事業を行う(決して成長は追い求めない。10人の市場なら競合もわざわざ入って来て泥仕合は仕掛けない。
と言う形になります。
 事業はそこまで決して単純ではありませんが、あえて分かりやすく書きます。「儲け話のメカニズム」が「WTPを上げる事」で成立し、その「キードライバー」が、「より高く買って頂ける商品の仕入れ」であれば、そこのケイパビリティを向上させるためにビッグデータをどのように活用すべきなのか、と言う事を徹底的に考える事になります。
 一方、costを下げるなら、同様にどのようにしてビッグデータを活用してローコストオペレーションを作り上げるのか、という発想になります。
 WTPを上げるべき企業が他社のビッグデータを活用したローコストオペレーションを学んで真似しても、結果的にはWTPを上げると言う戦略的方向性とは背反しそちらのビジネスを壊しかねません。
 自社の「儲け話のメカニズム」を知る、「キードライバー」を知る、そしてそこでのビッグデータ活用を本来は考えるべきなのですが、先に何か同業界のビッグデータ事例を知りたいとなってしまうのです。自らの事業強化に向けて発想を得るために事例を把握する事は全く悪い事ではありません。ですが、やはりその際は、「儲け話のメカニズム」や「キードライバー」に即した事例収集であったり、そこにどのようにしてそのアイデアを転用するのかと言う思想が必要になってきます。
 書籍の中では、さらっと「競争力強化の領域を把握する」と表現しておりますが、実はこここそが事業企画部署のスタッフの腕の見せ所であり、ここを欠いたビッグデータの試行が世の中で蔓延しているからこそここをデザインできる方々が価値を出して行くことができるのです
 実はここの価値に気づいた人からは、「あえて書籍で内容をあまり見せない事により、弊社に相談が多くきて、コンサルティングビジネスで儲けるためではないか。」とのご指摘もありましたが、実はそれは全く違います。ページの制約もありますが、それ以上にそこを書き出したら、世の中の経営戦略領域に大きく踏み込む事になり、そういった本なら既に良書が多く出回っているからです。
次回に続く。
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