事業企画者必読の一冊
”戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業変革ドラマ” 三枝匡
初心者が読みやすいビジネス書と言われたら、未だに三枝匡氏の三部作を推薦する方も多いのではないでしょうか。私も三枝三部作はとても気に入っており、事業会社の経営企画時代は事業計画を作る際に必ず三枝三部作のどれかを読んでから事業計画作成に入ったものです。笑
三枝三部作の中で本日紹介するのは『戦略プロフェッショナル シェア逆転の企業改革ドラマ』になります。
この本を特に読んで頂きたいのは「営業企画部」やコンサルタントであれば「営業改革プロジェクト」などに従事する前に二読頂くと良いでしょう。小説仕立てなのでとても読みやすいため、まずは全編を通して一読頂き、次に5章を再度じっくり読む事をお薦めします。
本書は簡単に言ってしまうと、ハーバード大学でMBAを取った30前半の若者が、子会社に出向し経営を行い、大成功すると言う物語です。本書のタイトル通り、経営や戦略のプロフェッショナルとはどうあるべきか、と言う内容が物語仕立てで分かりやすく具体的に記載されています。
まずは三枝氏は「戦略プロフェッショナル」と言う役割をどのように定義しているのでしょうか。
1. トップとして強いリーダーシップを発揮する覚悟。その目標をなぜ達成されなければならないかを部下に説得し、士気を高め、ともに考え、ともに戦う。
2. 新しい戦略を考えだす作業手順をマスターしている。作業ステップ毎に選択肢をチェックし、それを精緻につめていく。
3. (新しい戦略を実行するのだから)多少のリスクは気にせず、夜は熟睡できる事。
その反面として、「目標先行のプラニング」型の駄目なトップにも言及しています。
1. トップの野心やエゴが強すぎて目標を高く設定する。トップが焦って競合の圧力を過大に感じて、早く先に行こうと無理を言う。
2. トップに精密さがかけるために、「目標と現実のギャップを埋める具体的な戦略」が構築されない。
3. 幹部やミドルの創造的発想が貧困で、彼らも「目標と現実のギャップを埋める具体的な戦略」が構築できない。長年こうしたことを考えた事の無い社員に、いきなり考えろ、と言っても無理。これもトップの責任。
5章「本陣を直撃せよ」から何を学ぶか。
攻撃目標はどこか?
×うれそうな客から攻める。
◯戦略的に重要な顧客から攻める。
ここでは市場をセグメントする事の重要性を説いています。
企業戦略の中でセグメンテーションほど創造性を求められるものはない。セグメントする際の要素は、戦略目的に完全に合致していないといけない。
言い換えれば、「客になってくれそうな方々がどこにいるか」≒「客になってくれない方々がどこにいるか」でしょう。この考え方は弊社のヘッドショットマーケティング(Headshot Marketing : HSM)に通じる所があります。HSMでは「使うべき顧客は誰か?」を考え、その中でも自社に対する収益貢献の観点から優先度を決めて行きます。
本書では「製品に対する興味・ニーズの強さ」×「売れた際の当方のメリット」で各セグメントにABCのランクを付ける事をきめています。そのABCランク毎の顧客を次のセグメントとし、それぞれ既存顧客と新規顧客に分けて、顧客訪問を優先順位を決めます。
- まずは市場をセグメンテーションする。(今回は私立/国立×別途数(大・中・小)の合計6セグメント)
- そのセグメントに魅力度(「製品に対する興味・ニーズの強さ」×「売れた際の当方のメリット」)にてABCの評価をつける。
- 次に魅力度ABC×新規顧客・既存顧客の6セグメントに対して優先順位付けを行う。
※今回のケースは既存商品とのカニバリゼーションを避けるために、新規(=競合の顧客)を重点的に狙う
次に優先順位をつけた顧客に対してきちんと営業をしているのか、進捗しているのか、を確認するフォーマットを作っています。進捗状況をコード化し、そのコードを縦軸に、横軸を日付(週次)にする事で、毎週進捗があるのか、停滞しているのかを把握可能になります。
この考え方はステージ管理やパイプライン管理と言われるものですが、高価なERPやSFAツールを導入しなくても、Excelベースで原始的に行って行く事も可能になります。優れた管理フォーマットは視覚的に素早く経営状況を把握する事ができますが、まずはツールの前に使い手ありきというのはいつの世も変わらない法則です。
本書は小説仕立てで読みやすく、半日もあれば読み切れてしまうでしょうが、営業企画部の方々は5章を深く反芻すると実務に役立つと思われます。
戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)