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WESPO、WESTERポイント…JR西日本の「ポイント」をめぐる8年物語 対談:JR西日本SC開発 石神孝浩氏 ギックスCOO 花谷慎太郎

AUTHOR :   ギックス

JR西日本エリア各地にあるショッピングセンター(以下、SC)。そうしたSC事業を営む11社で構成する「JR西日本SCカンパニー」を統括する役割を担う「JR西日本SC開発」。JR大阪駅およびJR天王寺駅において、国内最大級の駅型商業施設「ルクア大阪」と「天王寺ミオ」の運営も行っています。

そうしたSC運営に欠かせないのが「ポイント」サービス。それまでSCごとに有していたポイントシステムを統合し、2019年から「WESPO」、さらに2023年には「WESTERポイント」が誕生。JR西日本圏内での買い物体験はより便利に、オトクになってきています。

この共通ポイント化構想は、実は2016年からスタートしていたそう。どのような変遷をたどり今に至っているのか、JR西日本SC開発株式会社 カンパニー統括本部 事業戦略室 マネージャー石神孝浩氏と、ギックス 代表取締役COO/Data-Informed事業本部長 花谷慎太郎が対談しました。

最初は響かず…それでも「グループシナジーだ」と推進

花谷 振り返ると、最初にお付き合いをさせていただいたのは2016年末でしたね。

石神 そうですね。2023年に「WESTERポイント」というJR西日本グループ共通のポイントサービスがスタートしましたが、2016年当時から共通ポイント化する構想がありました。当時は未だSC圏内のをどう統合していくかという段階ではあり、色々と情報収集していたのですが、中々成果を出すための勝ちパターンの事例が出てこない。それでギックスさんにご相談したのは、ビューカードさんとデータ分析によって再現性のある形で、きちんと収益をあげられていた実績をお伺いしたからでした。

JR西日本SC開発株式会社
カンパニー統括本部 事業戦略室 マネージャー
石神 孝浩氏

大阪公立大学(旧 大阪市立大学)大学院 修士過程修了。
天王寺ステーションビル㈱入社後2度の会社統合を経て、現在はカンパニー統括本部 事業戦略室にて、WESPOアプリの開発・運営並びに、SCカンパニーにおけるCRM戦略の策定・推進を従事。

花谷 それで、グループ共通ポイントプログラム勉強会を2回実施したのが最初ですよね。マイレージの事例なども分析して、勝ちパターンはこうですよと。ポイントの魅力で、関心を持って下さったお客様に打ち手を打ってどんどん規模を拡大していこうよということを議論していました。それが起点で、WESPOにつながり、2023年にWESTERポイントにもつながって…。

石神 8年ですか。今がようやくスタートラインみたいな感じですね。SC産業で言うと都心型のルクア大阪、天王寺ミオと比較して、地方は中々武器を持っていない。だからグループとしてはもちろんシステム共通化というのが本軸でしたが、都心型SCレベルのサービスを地方でもきちんと提供するという目的でプロジェクトが始まっていました。当時からCRM・マーケティング思考・LTV最適化の話をしていましたが、ようやく8年越しに、グループ・社内でも、言語として飛び交うようになりましたね。

花谷 8年間伴走させていただきながら、我々も大きな変革を目の当たりにさせていただきました。この8年を振り返ると、毎回「先陣を切る取り組み」をご一緒してくださったのが石神さんだったな、と思います。

石神 「WESTERポイント」よりも前に、JR西日本グループSCの共通ポイント「WESPO」の構想がありました。ただその当時は「WESPO」も当時13社・39SCが乗り入れるサービスになるので、社内での説得も大変でした。たとえば「ルクアのお客さんをなんでミオに紹介せなあかんねん」みたいな空気もありました。

花谷 39館ものSCが全部同じアプリに乗っかった「WESPO」がアプリで実現したポイント共通化ですが、それまでは「ルクアカード」とか「ミオカード」とか会員カードでしたよね。それが全部アプリに乗っかって、共通で横串で使えたらいい。それを更にグループ全体へ拡大したら良いと言っていて、石神さんはその考えのもと推進されていました。ただそれが社内の賛同をを得ていく過程ではは正直芳しくない反応もあったのではないかと思います。

石神 時代ですよね。プラスチックカードをいつまで使うんだろうと思っていましたけど、個人情報の取り扱いの問題も年々強くなっていますし。デジタルにはシフトしないといけないんだけど、アプリにして幅広い年齢層をカバーできるのか?みたいな。当時、SCカンパニー内でもアプリに対しての反応はあまり良くなかったです。ただ、当時の創造本部本部長であった長谷川さん(現 JR西日本代表取締役社長)は、「長期的に見るとやっぱりグループシナジーだ」とずっとおっしゃっていましたね。

「マイグル」で「お客様の買い物体験の向上」が実現できた理由

花谷 「WESPOへのSC全館のポイント共通化」は、大きな意思決定でしたよね。

石神 かなり喧々諤々ありましたけど、最終的には本社が全部投資して。「縦割り打破」「グループシナジー」というのは当時本当に先見の明があって、ここで実現していなかったら「WESTERポイント」にも進んでいなかった。結果的にはグループ内でSCカンパニーが先立ってトライできています。

花谷 その後、2019年にLTV最適化プロジェクトが立ち上がって、そこから「マイグル」の構想もスタートしました。マイグルを作りたいと石神さんにお話ししたら、ぜひということでWESPOアプリに接続してマイグルを実現していくことになった。石神さんチームと毎週ミーティングして「WESPO」の構想に沿った形で「マイグル」キャンペーンの企画会議をしていたのが懐かしいです。

2020年から2021年にかけては、「WESPOスタンプラリーキャンペーン(館横断)」「WESPOスタンプラリーキャンペーン(ekie)」「WESPOスタンプラリーキャンペーン電車でぶらり天王寺ミオへICOCA」「ピオレ姫路時差ランチ&ショッピングでおトク!WESPOスタンプラリー」「京都で再発見WESPOおでかけスタンプラリー」と、約1年間で5件のキャンペーンを実施しました。今考えると、この5つのキャンペーンによって、現在のマイグルの多くの機能の原型があるから驚きです。

株式会社ギックス
代表取締役COO/Data-Informed事業本部長
花谷 慎太郎

京都大学工学部卒業後、日本工営株式会社、IBM Business Consulting Services 社(現日本IBM株式会社)を経て、2012年、株式会社ギックス創業メンバーとして取締役に就任。

たとえば最初に開催したのは館横断のスタンプラリーで「3つの施設での買い物」をミッションとしたものでした。館の組み合わせをお客様の居住地ごとに出し分けて。今で考えれば大したレコメンドではないんですが、それでも当時1万人くらい参加してくださったかな。

石神 当時は、月間アクティブユーザーが10万程度で、キャンペーン参加者が1万2,000くらい。いまは月間アクティブ70万くらいなので、当時はまだだいぶ少なかったですね。

花谷 一番最初の段階から、WESPOというネイティブアプリにマイグルをウェブビューでつなぐとか、CAFIS ExplorerとAPI接続して自動的にスタンプを付与するなどの機能も実装していました。

石神 個人的には「宣言型スタンプラリー」が利用にドライブをかけたと思っています。従来のアナログスタンプラリーでは、決められた店舗を回ることしかできない。お客様・参加者の立場からすると意図しない買い回りを強要されるような。宣言型スタンプラリーではお客さん自身が行きたいお店を選んでスタンプラリーをするので、事業者視点の買い回り向上と参加者のインセンティブも期待しながらポジティブに参加できる。我々が目指している『お客様の買い物体験の向上』が体現できた施策になったと思います。

花谷 それがekieのキャンペーンで導入されましたね。

その後の天王寺ミオでは、買い物をしてくれた方へICOCA利用での鉄道運賃を還元する施策を実現しました。ICOCA連携は今でも利用している機能ですが、開発したての2020年にはすでに実装していたんですね。こんな大規模なことも、いきなりよくやりましたね。

石神 館自身も、インセンティブをつけて買い回り店舗数を増やしてほしいという意図があって、お客さん自身もストレスなくそれに参加できるのが、やっぱりちょうどいい。当時から今も一貫している目的は、お客さんの買い物体験を向上することで、その1つを体現できている。先日も直近の実績を送ってもらいましたが、すごいことになっています。

『WESPO Myリワード』アンケートで集まった「驚きの成果」

花谷 今年8月5日に『WESPO Myリワード』として、アプリの利用者様向け特典機能をリリースされました。その中で、特典を獲得するためのアンケート機能の部分の機能は「マイグル」との連携で実現いただいています。

石神 アンケートがね、また調子よくて。初期アンケートでは、ローンチ3日で11,000サンプル、2週間で約36,000サンプル取れています。自社のユーザーに対して、短期間でこのサンプル数を獲得できたことは非常に大きく、今後の施策推進などあらゆる場面で活用できる期待があります。この成果は、ギックスさんとの打ち合わせから、現場との調整まで若手メンバーが本当に活躍してくれて。僕は構想だけですね。

花谷 その数はすごいですね。アンケートは私も実施しましたが、確かに答えやすかったです。うまくリワードの中に組み込んでいただいたからこその結果ですよね。

石神 アンケートの結果は、結果を記事化(コンテンツ)したり、テナントさんが発信する情報に活用するなど、最終的には施策に繋げるところまで行こうともちろん思っているんですが、初速としてはすごく良い。リワード(景品)についても、用意している景品に対して具体的には言えませんが、期待以上の応募が来ている状態です。

若手メンバーからオリジナルキャラ「天上帝くん」が誕生~これからも新たな企画が生まれる組織に

花谷 JR西日本グループさんの中で、最初にお取引いただいたのも、マイグル開発の契機も、「WESPO」などアプリとの連携も、石神さんが先陣を切ってくださった試みでしたが、昨年子会社になったギディアも、石神さんに最初にご紹介させていただきましたよね。

阪急百貨店様でのFRED様のポップアップストアをご覧いただきました。率直に、ギディアの仕事についてどんな感想を持たれましたか?

  • ※ギックスグループのギディアが、LVMH Watch & Jewelryグループ フレッドの「FRED “HAPPY BLUE SHADES” POP-UP SHOP」にてスペースデジタルインスタレーションの制作を担当(2023/11/08)
    https://www.gixo.jp/news-press/23156/

石神 これまで別のプロジェクトで映画コラボのような大規模な施策にも何度か関わってきましたが、成功の秘訣は「その世界観がどのくらい出せるか」が大きい。FREDさんの展示会で感じたのは、ギディアさんは世界観の作り込みがすごいなと。

そこからギディアさんともプロジェクトを開始することになり、天王寺ミオではクリエイティブ以外にブランディングの上流のところからも伴走いただいてます。MVVに紐づけながらきちんと整理してもらえ、非常に助かっています。

花谷 2025年の天王寺ミオ30周年に向けて、ギディアが10月から結構大き目のPRを担当させていただいて。また先ほどの『WESPO Myリワード』でも、ご依頼するイラストレーターの先生を見つけて……。

石神 リワード企画のクリエイティブの方向性はギディアさんに提案いただきました。結果、「天上帝(てんじょう・みかど)」くんというキャラクターが生まれていますが、キャラクターを生み出すことが目的ではなく、結果としてキャラクターが認知されているが正しいでしょうか。詳しくは、ギディアさんと当社の若手メンバーに話してもらいたいですが。決まっていたことは、クリエイティブの方向性がキャラクター、若しくは二次元のクリエイティブで行くということです。SCのターゲットとなるような世代のメンバーに刺さることは、施策の打ち出しでもなく、インセンティブのインパクトでもなく、クリエイティブの認知からというアプローチもあるということでしょうか。もう僕らの世代だと理解できない部分が大きいですけど。

担当してくれた若手メンバーは世間の反応を自発的にエゴサーチしてくれていて、反応を見たら、僕も社長も納得せざるを得ないです。「だってこんなにバズっているのに、これ以上の説明要りますか?」みたいな。もちろん橋本社長だからこそ、理解してくれる、だから挑戦できる部分はありますけどね。

花谷 バズっているのは、届いてほしい層へ響いているってことですよね。この1ヶ月で、大阪駅のサイネージにもめちゃめちゃ出てますよね。

バラバラなようで「地続き」で繋がる8年間。グループシナジー強化の面白さを次世代へも

花谷 こうして振り返ると、石神さんが要所要所でパートナーとして選んでくださったからこそ、JR西日本SC様としてチャレンジングな取り組みをご一緒できてきたんだと再認識しました。

直球で聞いてしまいますが、そもそも、なんで僕らのことを信頼して任せてくださったんですか?

石神 「スピード」の部分が大きいですかね。新しい取り組みって、十中八九当たらないものとは思ってます。でも、やらないと振り返れないじゃないですか。それでギックスさんに相談すると、構想から形になって、ローンチするまでの時間がめちゃくちゃ早い。

新しい取り組みだからこそ、作っている最中に開発とともに企画運用設計が走るので、そのタイミングで「これ違うな」となった時に変更できるのはやっぱり大きいですよね。普通の開発会社だったら基本ウォーターフォール型で決めて、要件定義で決めたものは途中で変えられませんとなるので。

花谷 開発のスピードなんですね。お褒めいただき嬉しいです。

石神 僕の中では、ギックスさんとの取り組みはバラバラなことをやっているようで「地続き」の感覚なんです。最初はWESPOやマイグルを使って施策から入り、WESPOアプリでの機能連携やキャラクターの企画設計などの少し上流の取り組みを行って、現在はデザインコンセプトやMVVと最上位の概念の部分を扱う。そのあたりは全部私の中ではつながっている感覚です。

花谷 僕らも意図できていないところで、ギックスとギディアがそれぞれ取り組んでいるものが地続きに繋がっているというのは嬉しいですね。

開発の速度のお話も普段から意識はしていますが、こう明確に言っていただけると励みになります。

最後に、今後の展望についてお聞きできますか?

石神 昨年WESTERサービスがスタートして、グループ全体でもマーケ・CRM文脈の動きに一層ドライブがかかっています。これまで培ってきた勘や経験、またお客様・テナントからの声(定性データ)と分析データからなる定量データを組み合わせ施策設計することで、今後、さらに精度の高い施策推進が可能になることを期待しています。

施策を打つ中でも、さまざまな検証項目が出てくると思うんです。そのデータを分析して、仮説を設計し、そして施策実施による成果を体感してもらう――。次の世代が「自分ごと化」して仕事をする世界観というのは徐々に出来てきたと思うので、この分野における楽しさを一人でも多く体感してもらうことが僕自身の次の目標であり、その成果がグループ全体へ波及することを期待して取り組んでいきたいですね。ギックスさんには、JR西日本本体に対して、さらなる働きかけを期待しています。(笑)

花谷 はい、頑張ります!

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