2023年8月。ギックスは、デザインファーム「株式会社ギディア」を立ち上げました。
コンサルティングファームであるギックスが、なぜ、デザイン領域の子会社を立ち上げたのか?ギディア取締役(ギックス取締役と兼務)の田中耕比古(たなかたがひこ)に話を聞きました。
戦略コンサルティングとデザインは、決して遠くない
インタビュアー(以下、質問):
本日は、年末恒例となっている「ブログを頑張って書くぞ!」という取り組みの一環でお邪魔しました。田中さんは、ギックスきっての武闘派と伺っています。お手柔らかにお願いします。
㈱ ギディア(以下gidi+a)取締役 兼 ㈱ギックス取締役 田中耕比古(以下、田中):
それ、誰が言ってんの? 笑
まぢで風評被害ですよ。勘弁してほしい… めっちゃ優しいですよ、僕。 いや、ほんとに。ほんとだって。
質問:
・・・はい。
田中:
いや、ダメじゃん。その反応、もう、絶対無理なやつだ。ああ、こうやって誤解が広まるのか。
質問:
・・・ということで、早速なんですが、ギックスというデータ活用を軸にした戦略コンサルティングを行っている企業が、デザインファームというかなり毛色の異なる会社を設立した理由や狙いについて、教えていただけますか?
田中:
僕は、その、ガン無視を決め込んで普通に話を続けられるあなたの精神力の方が怖いですよ。
えっとですね。そうですよね。戦略コンサルティングもデータ分析も論理的、左脳的に捉えられますよね。そしてデザインというと、感覚的、右脳的なイメージがある。だから「コンサルティングとデザイン?」とか「データとデザイン?」とかいう風に対比構造で捉える人が多いんだと思うんです。
でも、実際には、そんなことはないと僕は考えてます。
質問:
そうなんですか?
田中:
そもそも、デザインという言葉をどのように捉えるのか、という話にもなると思うんですよね。
デザインという言葉を、最終的に完成されたアウトプットの話だと捉える人がかなり多いんじゃないかと思います。格好いいロゴとか、いい感じの名刺とか、パッと印象に残るパッケージとか、美しいと感じる流線形のフォルムとか、そういうやつですね。クリエイティブ、という言葉で指し示されるタイプのものです。こういうのは、確かに「感覚に訴えかけている」ものですから、右脳的な印象が強い。
質問:
確かに。最初に思い浮かぶのは、そういうものかもしれません。
田中:
ですよね。そこを起点にして話をしていくと、まず最初に気づくのは、その「アウトプットとしてのデザイン」を作るための途中のプロセスのことも、デザインと呼びますよね。つまり、動詞としてのデザインがある。日本語的に言うと「デザインする」という行為。
質問:
はい。デザインする、というのも、デザインですね。
田中:
デザインする、という話になると、これは、多くの場合「何らかの課題を解決する」とか、そういう話になってきます。「意味を付与する」というような表現が使われることもあります。僕自身、この領域は専門家ではないので、まだまだ勉強中ですが、デザインは、新しい価値を定義したり、いままでとは異なるやり方で価値提供ができるようになったりすることを目指しているわけです。
こういう意味でのデザインは、必ずしも右脳的とは言えません。なんとなく、とか、直観的に、とかいうことでは、取り扱える課題領域に限界があります。この「デザインする」というプロセスは、高度に論理的・左脳的だと捉えるべきなんじゃないかなと僕は思っています。
質問:
そういう観点では、戦略コンサルティングと近い、と。
田中:
そうです。本当に、近しいものがあると思うんですよ。
アナリシスとシンセシスという言葉がありますよね。細かく分解して考えるアナリシスと、それを統合するシンセシスの組み合わせ。データ分析は、データをいろんな角度で見ていくアナリシスと、そこから見えてきたことを統合して意味を見出すシンセシスの組み合わせです。
アナリシスとシンセシスを組み合わせて、データの背後にあるコンテクスト(文脈)を探すという行為は、言い換えると「意味の付与」です。この考え方は、いわゆるデザインのそれと極めて似ているんじゃないかなと思っています。
論理では解決できない課題に取り組むのが「デザイン・シンキング」
質問:
デザイン・シンキングという言葉もありますよね。
田中:
その話をしだすと、このインタビュー、gidi+aまで届かない気がするんですが、いいですか?
質問:
手短にお願いします。
田中:
・・・はい。頑張ります。
僕の理解では、デザイン・シンキングは「設計的思考」です。コンサルの「論理的思考・批判的思考」と対を為す ”考え方”、”思考のアプローチ”です。定量化しにくいゴールに対して、どうやったら、その状態にたどり着けるか?ということを考えていく。
ただ、それはそれで、別に、論理的思考と相性が悪いものでもない。むしろ、補完関係にあるものなので、戦略コンサルがデザイン・シンキングに手を出しちゃだめ、という話でもないなと思うんですね。特に、僕のコンサルティングスタイルはファシリテーションを多用するんですが、その際にゼロベースで「解空間」を広げるというアプローチをとっています。これは、かなりデザイン・シンキングに近いと思うんですよ。
質問:
なるほど。とりあえず、そのあたりで留めておいてください。
田中:
ズバズバ話を切りますね。まぁ、嫌いじゃないですけども。笑
ちなみに、ここまでしてきた話は、自分ひとりでうんうんうなりながら考えたわけではなくて、周囲の知人・友人、諸先輩方にあれこれ教えていただいたり、インプットしていただいた結果を僕なりに消化してまとめつつあるものです。サービスデザイン領域がお得意なインフォバーンの井登さん、クリエイティブデザインやデザインファーム経営に通じたセイタロウデザインの山崎晴太郎さん、デザインシンキングについては元SRI(Stanford Research Institute)の矢部さん、UI/UX領域については株式会社nodeの金さんなど、様々な方に「完全に専門外の『デザインファーム』の役員に就任しちゃったので、助けてっ!」とご連絡して、色々教えてもらったという感じなんですよね。
こういった領域については、もちろん昔から興味は持っていたものの、 gidi+a の取締役に就任していなければ、しっかり学ぼうとは思わなかったなと感じています。新しい仕事に取り組むことで、とても視野が広がったなと思いますね。
gidi+a が、デジタルとリアルの架け橋に
質問:
だいぶ、前段が長くなってしまってますが、そろそろ gidi+a の話を聞かせてください。
田中:
なんか、僕のせいみたいな空気になってるのが気がかりなんですけど…
gidi+a は、ブランディング/クリエイティブデザインが得意な企業です。デジタル領域のものも担当していますが、僕個人としては、「リアルな世界の造形物」を作り上げるところに注目しています。
質問:
リアル、つまり、物理的な「モノ」ということですね。ただ、それこそ、ギックスのデータとかデジタルとかいったものから遠く離れていませんか?
田中:
うん、遠いよね。笑
確かに遠いけど、相性は良い。具体的には「マイグル」との組み合わせに期待しています。
質問:
デジタルスタンプラリーのマイグルですね。どういうことでしょう?
田中:
マイグルは、スマホを使ってスタンプを集めていくというスタイルです。これはとても便利だし、途中で離脱した人の行動履歴なども分析できるので、非常に優れた仕組みだと思います。その一方で、周りの人からしたら、なにやってるのかよく分からない、ということになってしまうリスクがあります。
質問:
なるほど。スタンプカードを配っているわけでもないし、スタンプを押しているところを見る機会も少ない。QRコードをカメラで読んだり、NFCにスマホを近づけたりするだけだから、知らない人はなんだかよく分からない、と。
田中:
そうなんですよ。「スタンプラリーが開催されている」ということが、いまいち周りに伝わりにくい可能性がある。それを gidi+a のチカラで解決したいなと思っています。
具体的には、告知ポスターとか店頭POPとか、あるいはデジタルサイネージなどをうまく活用していきたい。また、スタンプラリーのスタート地点とか、終了地点とか、そういう役目を持ったブースを設置するとかいうことまで踏み込みたいなと思っています。
質問:
ブースですか。そういうのもできるんですか?
田中:
gidi+a が強いのは、空間そのものを作ることができるというところです。実は、先月(2023年11月)、大阪の阪急うめだ本店で、LVMHのジュエリーブランドであるFREDさんのポップアップストアを担当させていただいたんですよ。
質問:
なるほど。…まったくギックスっぽくないですね。笑
田中:
いや、ほんとに。こんな感じのことができるコンサルティングファームなんて、そうそうないと思いますよ。すごいよね。
gidi+a のBranding & Creative Directorを務める石山さんが、とても才能豊かな方でね。gidi+a設立前に、FREDのポップアップストアを伊勢丹新宿店で担当したご縁が、今回のお話に繋がってるんですよ。ほかにも、ニコライバーグマンのフラワーボックス生誕20周年のイベントを担当したりもしていて、空間デザインには定評がある方なんです。
その他にも、百貨店の年間キャンペーンマネジメントに携わったり、ヘルスケア企業の新ブランド設立に際してロゴデザイン、店舗デザイン、什器類のデザインなどを一手に担当したりもしています。石山さんのリアルな空間をうまくまとめあげるチカラは、マイグルと組み合わせると非常に良い効果を生むと思うんですよ。
質問:
では、基本的には「マイグルを強くする」ことがgidi+aの役割なんですね。
田中:
もちろん、デザインファームとして直接的にクライアントに価値提供できる部分は狙っていきます。ただ、ギックスの子会社であることの必然性を問われると「マイグルの強化」というのが最も大きな役割になります。
マイグルから少し離れたお話としては、「継(TSUGU)」が良い例なんじゃないですかね。日本の伝統的な工芸品を「受け継ぐ」ということで、そういう名前になっています。日本各地の工芸品のオリジナルデザインアイテムを作って、ECサイトなどで販売しています。
質問:
物販!?ギックスっぽくないっ!笑
田中:
タオルとか、お皿とか、そういうリアルなモノです。工芸品なので、もともと品質が良いものなわけですよ。そこに「デザインのチカラ」を追加した、と。面白い発想ですよね。
こういうこともできる強力な「デザイン・チーム」が、ギックスに追加されたことで、今後の広がりにもとても大きな可能性があるなと感じています。gidi+aができてから、まだ4ヶ月しか経ってないんですけど、かなり色んな方向・角度でギックスの成長に貢献できる可能性があるぞ、と思ってるんですよ。
質問:
なるほど。良く分かりました。さて、ボリューム的には十分すぎるくらいお話を聞けたかなと思います。何か、言い残したことはあれば最後に是非。
田中:
本当は、社名の由来とかロゴの説明とか、いろいろ話したかったんですけど、そのあたりは、gidi+aの社長である上山さんと、ギックスCEOの網野さんの対談記事にも書いてあるので、そっちを読んでもらうことにしましょうか。
次回は、石山さんにインタビューするなんていう企画をしてもいいかもですね。過去に取り組んだ事例などをご本人から紹介していただけると良いかもしれません。ちょっと検討してみてください。
質問:
かしこまりました。では、本日はこれで。ありがとうございました。