他社のビッグデータ活用事例を参考にするとはどういうことなのか?
私は2013年の11月下旬に著書「会社を強くするビッグデータ活用入門」を出版致しました。準実用書と言う位置づけで出版しており、商業的には成功も失敗もしていない予定通り淡々と細々と出荷されている本ですが、読んでもらう人を明確に定義したため、”読んで頂いた方からは”比較的好評を得ております。
そうした中で、この本を読んで頂いた読者、及びこのテーマに関した
セミナーにご参加頂いた方からの質問などを整理する形で、対して売れていない自分の本を改めて振り返ってみよう、と言う企画の記事になります。笑
他社事例はアブダクション(仮説的推論)の宝庫
私の本でもビッグデータ活用の事例を幾つか紹介しておりますし、巻末に77個の事例も載せています。本質的にご理解頂きたかったことは、「競争力強化の考え方」です。ここで注意頂きたいのは、事例を紹介する事が目的ではありません。知らない事例や新しい事例を紹介するための本では無くて、その事例を見た時に、自分達なりに考えるようになれる事を目的にしていました。最新の事例をお伝えしていく本なら、海外の最新事例を入手してきやすいグローバルファーム、国内事例なら多くの記者さんがいて、主要な企業にコネクションを持っている日経BPさんのような会社の方が適しています。
事例を紹介する中で読者の方に実践頂きたかったことは、「この企業の「儲け話のメカニズム」はこうで、「キードライバー」がこのような状態だから、この企業はきっとこの領域にビッグデータ活用を求めて、それで成功しているのではないか。」と言う推察です。
もしくは、「この企業の「儲け話のメカニズム」「キードライバー」を踏まえると、ビッグデータ成功事例と言うには無理があり、実は競争力強化の観点では殆ど意味のない自己満足案件なのではないか」、などです。
こういったことを見て取って頂く考え方を身につけて頂く事を狙いとしていました。
勘違いをして欲しくないのは、決して多弁な評論家になって頂きたいわけではありません。「自社だったら、どのプロセスやファンクションにビッグデータを活用して行くべきなのか」を考えるために、「そのためのヒントは他業界も含めて事例はないか?」と言う事を常に考え続けて頂くきっかけになって頂ければと考えておりました。
弊社の支援領域は主に⑤マーケティング/販売が中心と思われる事が多いですが、実は①経営管理や⑥アフターサービスこそが鍵だと思っております。⑤マーケティング/販売はデータ分析を活用して効率化して行く事が可能です。そこはより上手くやって行くと言う競争領域になります。そのため、顧客基盤がある程度出来上がり、分析する環境が出来上がっている企業なら、誰がやってもとは言いませんが、それでもやることをやればある程度の高度化していくことができます。ですが、大きな戦略の打ち手や既存の商品の付加価値を一気に上げに行くなどの試みになると、むしろ①経営管理から見えることが大きいですし、またガラッと勝負の仕方を変えるなどは⑥アフターサービスの領域になってきます。
経営管理は事業構造を分析することが必須になってきますが、こちらは本の中では7章で説明しています。
⑥アフターサービスはセンサーデータやログデータが無限に取れる時代になったからこそ行える領域です。こちらは、前回の記事の中でも触れていきましたが、故障管理や障害対応のためのデータとしてだけでなく、それらのデータを活用して自社の商品やサービスの競争力強化に向けて検討していくことができます。
余談ですが、事例の区切りや整理がこれで良いのか、この事例は別の区切りにあった方が良いのではないか、と言うご指摘も頂いております。ご指摘は真摯に受け取りつつ、実は自分でも、変えたほうが良いなと思う時もあります。笑
ただ、整理・分類が目的ではなく、自分が考えるためのフレームワークとして使って頂ければ良いので、自社の業界に即した、もしくは自社に即した区分を各人に作って頂ければと思っています。
また、別のご指摘では、「儲け話のメカニズム」や「キードライバー」に即して全ての事例を説明して欲しかったと言う要望も頂きました。回答としては、「はい、本来は仰る通りですが、あまり知らない企業や業界の内情を学んで、適切な「儲け話のメカニズム」や「キードライバー」を検討していくのは手間と時間がかかるため、ビジネスシステム(バリューチェーン)で逃げました」と言うのが本音です。
ですが、お仕事をご用命頂いた時にはその辺まで突っ込んで議論をさせて頂いていますので、本書ではご容赦下さい。笑
どの事例が一番凄いですか?聞かれます。いや、凄さの定義により異なります。個人的には結果が出たものが凄い活用事例だと思っていますし、この解答で結果が出ていないのに、最先端の尖った事例を凄い事例ですよね、とお話したら本書を読んだ方から突っ込まれてしまいます。笑
と言うことで、何をもって凄いかは定義が難しいため、一番好きな事例でお答えします。「ザ・ナンバーズ・ドットコム」の事例でしょうか。個人的には経営に近いポジションで収益に大きなインパクトを与える分析を行いたいと常に思っているため、この事例を好んでいます。本でも書きましたが、経営管理系の分析は、割と大変な割には、王道な分析なので事例で出てくる事はあまりありません。また、DWHを構築している会社からすると、もうやっているよ、とツッコミを受けやすい領域でもあります。
トランザクションデータを全件ぶん回して経営の高度化に活用して行くと言う思想を持つ私としては、経営管理領域での活用がこうしたキャッチャーな事例により脚光を浴びる事は好ましい事だと考えています。
弊社からみると、期待通りのDWHが構築されており、期待通りの分析にたどり着いている企業に出会うことはあまりありません。次回は少し脱線して弊社が勝手に名づけている「ダイナミックDWH」と言う概念に触れていきたいと思います。これを説明しておくと、ビッグデータ活用の2つ目である、「大きなPDSと小さなPD(CA)∞サイクルを回す」が非常に説明しやすくなります。
次回に続く。
本書で紹介している事例: