第十戦:vs 吉岡清十郎(第3巻より):一位と向き合うことで、己を測れ|バガボンドを勝手に読み解く
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- POSTED : 2016.02.19 08:31
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目標と自分の距離を測れ
この連載では、バガボンドの主人公、宮本武蔵の”戦闘”シーンを抜き出し、武蔵の成長について読み解いていきます。連載第10回の今回は、京で最強の呼び声の高い吉岡一門当主 吉岡清十郎との戦いです。
連載の概要はコチラから。
圧倒的な強さ。吉岡清十郎。
前回、植田良平との戦いに割って入った伝七郎ですが、伝七郎と武蔵の立ち合いに、伝七郎の兄である当主清十郎がさらに割って入ります。吉岡オールスターズ全員集合。その際の詳細なやり取り等は原作をお読みいただくとして、本稿では、吉岡清十郎と武蔵の立ち合いに焦点を当てます。
最強!吉岡清十郎。
武蔵の挑発によって伝七郎が彼方を抜こうとした刹那、伝七郎の抜き手よりも早く、清十郎の剣が一閃! 武蔵の持った木刀を真っ二つにしつつ、武蔵の額を横一文字に切り裂きます。
何もできずないで、ただ立ち尽くすだけの武蔵は、こう考えます。
なんという太刀の疾さ
あの小さな体から腕が大蛇のように伸びた・・・!!
これが・・・ 吉岡清十郎!!
この圧倒的なまでの強さを感じた上で、武蔵は、もうひと勝負と願い出ます。
あ・・・ ありがとう 清十郎殿
俺のような者にも腕を見せてくれて
改めて試合を願います
実力差は計り知れないが、それを知ってなお一歩も引かない武蔵。しかし、
清十郎は、それを受け流して色街へと去ります。
執着は見苦しいよ 宮本とやら
君の全てをぶつけさせる器量・・・ といったね
俺にそんなものはない
だってやりたくないもの
このように、武蔵が清十郎の突然の一撃を受けただけでこの立ち合いは終わってしまいます。
一歩も引かない「覚悟」
武蔵は、色街へと去った清十郎を追いかけようとします。
色街はどこだ
こっちの腕をまだ見せていない 一太刀返したい
京で一番強いのはやはりーーー 吉岡清十郎
それ以外と戦う理由はない
この感覚は、僕には理解はできません。いや、正確に言うと「理論としては理解できる」のですが「実践できる気がしない」のです。圧倒的な力の差を見せつけられて、出直して再戦を挑む、ということではなく「現時点の自分自身の能力を相手にも見せておきたい」という一念での行動です。負け惜しみでもなく、虚勢でもなく、ただ純粋に「相手に腕前を見せておきたい」ということだと思うのですが、この場合、文字通り命を賭けることを意味していますので、まったくもって真似できる気がしません。
目標までの距離を知ることから、全ては始まる
立ち合いの前、武蔵は武者震いで体を震わせながら、清十郎にこう問います。
清十郎殿 俺の全てをぶつけさせてくれる器量はあるか?
そして、額を割られた後に、こう考えます。
やはり剣の道は険しく これから登る山は高い
これでこそ 全てをかけるかいがある
不意打ちをされたことに対して、卑怯だとかなんだとかも思わず、ただ純粋に「腕前を見せてくれたことへの感謝」と「独学で辿り着ける限界まで鍛えあげた現在の能力では、”最強”にはまだまだ届いていないということを知った嬉しさ」を感じているのです。
ビジネスの世界においてもこのマインドセットは重要です。前回述べたように、己でたどり着ける限界までは独力で鍛えるということが前提になりますが、目指すべきゴールは、他人を基準とすることでしか得られません。
最終的に目指す目標との差を知ることで、はじめて、そこに至るための道筋を考えることができるようになるわけです。
戦いたがらない清十郎
その一方で、清十郎は、まったく戦いたがりません。争いを避けます。
武蔵が吉岡道場を訪れる前に、街中で清十郎と(そうとは知らずに)遭遇した際には、「そんなに殺気ムンムンじゃあ(中略)死ぬよ」と声をかけます。それに対して「簡単に命を捨てる気はない」と言い放った武蔵の喉元に、抜き手も見せずに剣先を突き付けて「ホラ死んだ」と言いながら、争うこともせずに走り去ります。
そして、道場で再会したときも、手に持った日本酒を勧め「これを持ってお引き取りを」と争いを避けようとします。
その理由は、武蔵の額を割った後に明かされます。
獣は敵に会うとうなり声をあげ おそろしいカオで吠える
なぜかわかるかい?
ひき退がってくれれば 戦いを避けられるからだ
本能はまず 戦いを避ける
強者は常に標的とされます。業界のリーダー企業もそうでしょうし、トップビジネスマンもそうです。経営者もそうかもしれません。「最上位」にいるということは、常に孤独です。そんな状況下で、清十郎の「戦いを避けるのが本能だ」という言葉は、非常に重みがあります。要するに、必要最低限の戦いに留めることが、強者の戦略なわけです。(金持ち喧嘩せず、って奴ですね)
今回の当主清十郎との戦いは、清十郎の武蔵に対する一撃だけで終わってしまう非常に短いものでしたが、「強者の戦略」と「挑戦者の立ち位置」に関して、非常に含蓄深いものがあると思います。
次回は、京都編のクライマックス、吉岡家次男 伝七郎との戦いを取り上げます。
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