第三戦:vs 辻風組残党 (第1巻より):多勢に無勢を押し切る鍵は”自然体”|バガボンドを勝手に読み解く

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自然体が大事。でも、それが難しい。

この連載では、バガボンドの主人公、宮本武蔵の”戦闘”シーンを抜き出し、武蔵の成長について読み解いていきます。連載第3回の今回は、辻風組の残党との一対多の戦いです。

連載の概要はコチラから。

凄惨な殺陣で10数名を切り倒す

さて、前回、辻風組のリーダーである辻風典馬を倒した武蔵ですが、今度は、その残党と戦うことになります。300名は下らないという辻風組ですが、なぜか全員というわけでもなく、10名強が武蔵が寝泊まりしていた小屋に押しかけてきます。もちろん、全員が、槍や刀で武装しています。

その小屋は実は無人なのですが、武蔵は、そこに寝泊まりの世話をしてくれたお甲という女性がいると思っていますので、木刀だけで殴りこんでいきます。

殴りこむなり、戸の外に3人を吹き飛ばします。

そこからは乱戦です。すべての切りあいが完全に描写されるわけではありませんが、一人目が切りかかってきたところを掴み、二人目が槍で突いてきたのを一人目の体でカバー。そして、その一人目の刀を奪って槍で突いてきた男(つまり、二人目)を横向きになで斬り。振り向きざまに3人目を下から上に逆袈裟切り。四人目とは刀で打ち合った際に刀が折れますが、折れた刀で構わずに顔面を切りつけ、その四人目の刀を奪いながら体をひねって五人目の槍を躱し、振り向きながらその首を切り落とす。六人目は正対した状態で両腕を一刀両断。七人目は首を水平に切り飛ばします。

その後も、残った敵を全員切り殺して(ほぼ、無傷のまま)勝利します。

センスと剛腕の絶妙のコンビネーション

この戦いにおける武蔵の勝利は、単なる怪力・剛腕だけではありません。圧倒的な剣術センスが垣間見えます。

敵の攻撃を、他の敵の体を使って防ぐ。背後からの攻撃を、身をねじって躱す。振り向きざまに切り捨てる。これらは力の強さでは説明がつきません。相手の攻撃を読み、それに対して最適な答えを見つけ、その通りに体を動かす。センスとしか言いようがありません。

一方で、その力の強さが発揮されるシーンも多いです。例えば、両腕を一刀両断にするのも、首を水平に切り飛ばすのも、容易なことではありません。しかし、そんなことよりも驚くべきは「折れた刀で相手の頭を切り裂いて致命傷を負わせる」という部分です。

日本刀は、自重の重さとその長さによって攻撃力を生み出しています。つまり、重さ+遠心力で相手を切り裂くわけです。刀が折れてしまったということは、その重さも遠心力も使えない状態にっています。その状態で、人間の体で一番固い頭蓋骨を切り裂く(というか、叩き割る)のは、ちょっとやそっとの腕力では不可能です。しかも、武蔵は、これを片手でやってのけます。半端ない、半端ねぇよ、武蔵。

平常心で、強みを活かせ

今回の武蔵の戦いぶりから感じられるのは、自然体であることの強さです。多勢に無勢の状況でも、まったく動じません。相手が色々な言葉を使って威嚇しても、聞いているそぶりも見せません。相手に対して何かを言うこともなく、斬りつける際の掛け声もなく、「お甲さん、又八、どこだ!? 無事か!?」と問いかけるだけです。そして、相手に一切とらわれることなく、まるで無抵抗な草を薙ぎ払うかのように、敵をなぎ倒していきます。

無人の野を行くが如し、とでも言うのでしょうか。別に、相手が立ち尽くしているだけということでもなく、切りかかり、槍で突いてくるにもかかわらず、バッサバッサと切り捨てていきます。

こういう臨機応変な戦い方は、自然体によって生まているのだと僕は思います。緊張したり、興奮したりすると、自分の本来の力が発揮できません。武蔵は、10人以上の野武士を前にして、自分の100%の能力を発揮します。この精神状態は素晴らしいです。

友達5人となら楽しく会話できる人も、知らない人5人とだと苦労するかもしれません。あるいは、10人くらいにプレゼンするのは平気な人でも、100人を前にすると足がすくんでしまうかもしれません。こういう「ちょっと、普段と違う状況」において、100%の能力を発揮できないと、(バガボンド的に言えば)切り殺されて死んでしまうわけです。

でも、冷静に考えてみてください。確かに知らない人5人と話すのは大変かもしれませんが、相手の名前を聞いて、職業を聞いて、自分と共通のポイントがあればそれを掘り下げていけば、あっという間に10分や15分は時間が過ぎてしまいます。これを4人繰り返せば1時間くらい経っちゃいます。あるいは、100人にプレゼンというとドキドキするかもしれませんが、相手が10人でも100人でも1,000人でも、会場の広さや音響設備が違うくらいで、話す内容ってそこまで変わりませんよね?(場合によっては、まったく変わらないと思います。)つまり、普通にやれば、だいたいのケースは上手くいくんです。

武蔵は、まさにこれを地で行きました。「10数人の野武士」を目の前にして、3人の落ち武者狩り(同時に、という意味だと2人)に相対したときと同じように、自然体で戦います。相手が切りかかってきたら、受け止めるか躱すか。岩でも木刀でも刀でも、手元に武器があればその武器で、武器が無ければ素手で相手を攻撃する。シンプルです。

これを、ビジネスシーンで実現できると、きっと良い結果を招くようになると思うんですよね。ただ、ポイントは、平常心・自然体を保っても、自分の強みが明確でないと、それを発揮しようがありません。武蔵にとっての「怪力・剛腕」が、自分にとって何であるかを見極めることが、ほんとに大切ですよね。

 

連載の概要はコチラから。 → ※年末年始を挟みますので、次回は1/8(金)公開予定です。

 

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