なぜコンサルタントは免許制にならないのか?|馬場正博の「ご隠居の視点」【寄稿】
- TAG : Garbage in Big “X” Out | 横丁のご隠居
- POSTED : 2015.03.19 09:06
f t p h l
目次
コンサルティングという仕事の本質
前回の「誰がケーキを分けるのか」で書いたように、どんな組織でも組織としてきちんと機能するためにはマネージメントが必要になりますが、世の中にはマネージメントを専門にしている職業があります。それはマネージメントコンサルタントです。もちろんコンサルタントでなくても企業の中にはマネージメントを本職にしている人が沢山いる、というより本来マネージメントは企業の中にいる数の方がずっと多いのですが、企業の中にいるために他の組織のマネージメントの手伝いをするというわけにはいきません。
そこでコンサルタントの登場となるわけですが、NPO法人がコンサルタントを雇ってケーキを配分する仕組みを作るというわけには普通いかないでしょう。マネージメントコンサルティングは企業を主たる顧客にするため、コンサルティング料金が数百万、数千万円という金額になってしまうのが普通です。
資格があるコンサルタントを顧客が望む?
では、コンサルタントなど信用できるものなのでしょうか。コンサルタントに対する悪い印象を代表するものに、経済事件などで事件の渦中で動き回っている、実態不明な人物がコンサルタントを名乗っているケースがよくあります。コンサルタントは弁護士などと違って免許があるわけではなく、コンサルタントを名乗った瞬間にコンサルタントになれてしまいます。
それならコンサルタントを免許制にしたらどうでしょうか。世の中に資格と名のつくものは無数と言ってよいほどあり、マネージメントコンサルタントも中小企業診断士、情報処理検定試験など沢山の資格、検定試験があります。ただ、これらは資格ではあっても免許ではありません。一般的に言えば、職業として役に立つのは「それなしではその職務を行うことができない」という免許で、資格はどんなに取得が難しくても自己啓発の役には立ってもそれだけではなかなか評価はされません。逆に保有者が多数いる運転免許のようなものでも、宅配の配達員など免許なしではなることが不可能な仕事があり、職業を得るのに有利になります。コンサルタントが免許制になれば、仕事の高度さ、収入の高さから考えても医師免許、弁護士免許などと同等、あるいはそれ以上の価値を持つものになるでしょう。クライアントの側からみれば免許を持っていることでコンサルタントとして認定されているかどうかを判断できるわけですから高額な料金の支払いにも納得しやすくなるはずでし、コンサルタントの側も自分たちの職業の価値をはっきりと証明できることになります。
コンサルタントは行動の代行業ではない
しかし、コンサルタントに免許というのは本来のコンサルタントの目的にはそぐはないものがあります。ジェラルド・M・ワインバーグは、ソフトウェア開発のコンサルタントですが、著作の一つ「コンサルタントの秘密」の中でコンサルティングとは「人々に、彼らの要請に基づいて影響を及ぼす術」と言っています。これは言葉を替えると、コンサルタントは「人の行動に影響」を与えることが仕事で、実際の行動は行わないということです。
これに対し、免許が必要な医者は患者の手術をし、税理士は納税報告書を顧客に代わって作り、弁護士は依頼人に代わって交渉事を行います。もし、癌への対処を教えても、手術をしなければ医者の免許はいりませんし、節税法をアドバイスしても税務申告をしなければ税理士の免許はいりません。顧客の行動を代行したり、実際の作業を行うことのないコンサルタントは、免許制の必要はないのです。
これには違和感を持つ人は多いでしょう。言うだけ言って結果に責任を持たないというのはコンサルタントに対する典型的な顧客の不満です。ただ、これはコンサルティングという仕事が十分理解されていないからだとも言えます。「ケーキをどう分けるか」という問題をコンサルタントに依頼する時に、実際にコンサルタントにナイフでケーキを切り分けることを頼む人は少ないでしょう。必要なのはケーキの分け方の実際的な方法やそのための手順、人の配置へのアドバイスです。実際の作業を行うこととコンサルティングはやはり別物です。
コンサルタントが役に立つか立たないかは「影響を受ける側」に依存
物事は何でもやみくもに実行に突き進めばよいというものではなく、計画を立て、手段を吟味し、成功の可能性を検討してから行わなければいけません。特に何か問題がある時、問題の本質が何であるかを見極め、キーになる問題に対処することが大切です。問題の分析をせずに対策を立てるのは逆効果になる場合も多いのです。
例えば、スターバックスで売り上げが低迷するという問題がありました。スターバックスは当初顧客の要望に合わせて品数を増やしていったのですが、売り上げはむしろ低下してしまいました。状況を分析した結果、顧客の満足度を下げ、売り上げ低迷を招いた原因はレジの行列だということが判りました。品数の増加はスタッフの生産性を下げることで問題を悪化させ、かえって売り上げを下げることになっていたのです。スターバックスは小銭の処理を減らすためにスターバックスカードを導入し、さらにコーヒー一杯の支払にクレジットカードを使うことに「どうぞご遠慮なく」と表示することで問題を改善しました。
コンサルタントを雇い問題解決の方策が判っても、実際にそれが実行されるかどうかはコンサルタントを雇う側の問題です。スターバックスがコンサルタントを雇ってもコンサルタントが上手にコーヒーをいれられるわけではありません。もちろん、これはコンサルタント側の理屈です。コンサルタントも簡単に「問題解決の強力なメソッドがあります」と言いがちです。方法論は必要ですがメソッドで問題が解決できるわけではありません、弁護士が「必勝のメソッドがあります」と言っても感心する人は少ないでしょう。問題解決は常に個別で一般化できない部分が多いのです。
コンサルタントが役に立つか立たないかは、「影響を受ける側」にかかっています。これはコンサルタントの無能や責任感のなさを弁護するのではなく、コンサルティングという仕事の本質です。車を運転するのに免許が必要でも、地図で行先を教えてあげるのに免許はいりません。正しい目的地に着けるかどうかはドライバー次第なのです。
(本記事は「ビジネスのための雑学知ったかぶり」を加筆、修正したものです。)
馬場 正博 (ばば まさひろ)
経営コンサルティング会社 代表取締役、医療法人ジェネラルマネージャー。某大手外資メーカーでシステム信頼性設計や、製品技術戦略の策定、未来予測などを行った後、IT開発会社でITおよびビジネスコンサルティングを行い、独立。
f t p h l