ギックスの”絵”本棚/ダース・ヴェイダーとルーク(4才) (ジェフリー・ブラウン|辰巳出版)

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原作に「深み」を与えてこそ、オマージュの意味がある

本日は、先日ご紹介した「おやすみなさいダース・ヴェイダー」を含む”暗黒卿の子育てシリーズ”の1作目「ダース・ヴェイダーとルーク(4才)」を取り上げます。

関連記事:ギックスの本棚/おやすみなさいダース・ヴェイダー

暗黒卿だって子育てに悩む

本書は、暗黒卿ことダース・ヴェイダーが、ルークという4歳児の息子を育てるために四苦八苦する様子を描いた絵本です。名作です。

尚、本書は「子供に読み聞かせる」ということよりも「大人が読んでニンマリする」というタイプの絵本だと思います。僕のように子供のいない人でも十分楽しめます。

本書(正確には、本シリーズ)におけるダース・ヴェイダーは、子煩悩です。原作のスターウォーズシリーズ同様、フォースも使えますし、帝国軍の指揮官としての権力もあります。そして、それらの力を「子育て」に最大限活用します。

しかし、そんな人間離れした能力・一般人とは桁違いの権力をもってしても、ルークは言うことを聞きません。子育てとは、かくも難しいものなのですね。ヴェイダー卿でさえも子育てに悩むのならば、僕たち凡人が子育てに悩むのはあたりまえなんだな、と思えてきます。本書を読めば、世のパパさんたちが心強く感じるのは間違いないでしょう。

 おなじみのセリフにニンマリ

本書は、スターウォーズをそれほど深く知らない人でも、ダース・ヴェイダーというキャラクターを知っていれば楽しめてしまう作品です。

しかしながら、スターウォーズに詳しければ詳しいほど、その「ニンマリ度」は上がります。間違いありません。

その際の、とても重要な要素が「ヴェイダー卿のセリフ」です。 ※()内は、映画のセリフです。本書には書かれていません。

わたしはおまえの父だぞ( I am your father. )

このセリフは、原作では衝撃的な告白ですが、本書の中では「いうことを聞いて片付けしなさい」という際に使われます。

そして父と息子としてともに銀河を支配するのだ ( Join me, and together we can rule the galaxy as father and son. )

続いて、こちら。原作では、父であることを明かし、お前ならば皇帝さえも倒せると呼びかけます。が、本作では「そしたら、おやつくれる?」と返されてしまいます。

一緒に来るがいい ほかに道はないからだ ( Come with me. It is the only way. )

このセリフは、原作では一方的に投げかけられますが、本作では4歳児のルークに「なんで?」「どうして?」と合いの手を入れられて困っています。かわいいな、ヴェイダー。

お前の忍耐のなさには、不安になる ( The boy has no patience. )

原作ではヨーダのセリフですが、「もう帰ろうよー」という息子の我儘に対する発言としてでてきます。

お前にはまだ準備ができておらん ( He is not ready. )

こちらも原作ではジェダイの修業をしたいというルークに向かってヨーダが発したセリフですが、スピーダーバイクを「運転したい!」というルークに、父親としてダメだと伝える場面で使われています。

このように、劇中のさまざまなセリフが「父親から息子への言葉」としてでてきますので、原作を深く知れば知るほど、ニンマリする頻度が増えるでしょう。(そういう意味では、英語版のほうがよいのかもしれませんね)

素晴らしいのは「企画」の力

先日の「おやすみなさいダース・ヴェイダー」の紹介記事でも書いた通り、この絵本が優れているのは「ダース・ヴェイダー」と「子育て」という非常に距離の離れている二つの概念を「父親」という共通項だけを手掛かりにくっつけしまったところにあります。

もちろん、絵柄やセリフの選び方などがあってこそなのですが、企画という意味では、この「一点突破」に賭けていると思いますし、それが成功の鍵になっていると思います。

また、これも、先ほどの記事においても述べていますが、本作が素晴らしいのは「原作に対して付加価値を与えている」ところだと思うのです。

今回の「ダース・ヴェイダー」+「子育て」という足し算は、原作の冷徹なダース・ヴェイダーに「親近感」「人間らしさ」を追加しています。これが荒唐無稽に見えないのは、ラストシーンで、ダース・ヴェイダーが「父として」ルークを守るシーンがあったからです。この部分が共感できるが故に、我々がこれまで慣れ親しんできたスターウォーズ世界のパラレルワールドとして、こんな風に子育てするダース・ヴェイダーが存在していてもいいんじゃないかなと思わせてくれます。

あのダース・ヴェイダーも、どこかでボタンを掛け違えなければ、こんな風に、子育てに悩む父親としての側面があったのかもしれません。そう思うと、スターウォーズの世界に対する感情移入も強まりますし、ヴェイダー卿とルークという親子に対して、悲しさ、寂しさを感じずにはいられません。

そんな、パラレルワールドとしての深みを与えてくれる本書の最後のページは、ルークのこの言葉で締めくくられます。

パパ、大好き

4歳児のルークがダース・ヴェイダーの膝にしがみついてこのセリフを言っている絵姿は、原作世界において、この親子が辿った悲しい運命を思い起こして眺めると、涙を誘います。

というわけで、前回、3作目「おやすみなさいダース・ヴェイダー」を全力で批判してしまったのは、この1作目の素晴らしさが故であるということで、なにとぞご容赦いただきたく存じます。はい。

 


ダース・ヴェイダーとルーク(4才)

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