「音がない「静寂」は人間の体にどのような影響を与えるのか?」Gigazine/ニュースななめ斬りbyギックス
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- POSTED : 2014.08.30 10:32
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データから何を読み解くか、が「アート」
本日は、8/25にGigazineで公開された「音がない「静寂」は人間の体にどのような影響を与えるのか?」を”ななめ斬り”ます。
記事概要
にぎやかな都会に住む人が「たまには喧噪を離れて静かな場所に行きたい」と願うのは、「静寂」を求めているからではないか。
不快な騒音は心身の健康を損ねる。古くはナイチンゲールもそう唱えていたし、心臓病の原因になるとWHOも認めている。
然しながら、「静寂がどのような影響を心身に与えるか」は良くわかっていない。
連続して音を出すよりも、断続的に音を出す方がリラックスする傾向にあることなどがわかってきており「静寂は、体に良い効果を与える」と言えそうだ。
(全文はGigazineでお読みください)
データは何を語るか
この記事を読んで、僕が最初にひっかかったのは「静寂の定義」です。そして、それは「あるデータ・事象に対して、どういう仮説を持つべきか」というデータ解釈に関する疑問でもありました。
まず、当記事の最大のポイントとなっている箇所を引用します。
このように音が健康に影響を与えることは分かっていましたが、「音がない状態である『静寂』が人間の体にどのような影響を与えるのか?」ということについては、ほとんど注目されていませんでした。しかし、2006年に内科医のルシアーノ・ベルナルディ氏が行った「音楽が人間の生理現象に与える影響」を調べる実験で、偶然、静寂の効果が見つけられることになりました。
ベルナルディ医師は、12人の被験者に6種類の音楽を聞かせて、その間の血圧・血中二酸化炭素濃度・脳内血流を観察したところ、どんな音楽でも肉体が覚醒状態にあるのと同じ状態の生理的な変化が生じたとのこと。しかし、曲と曲の間にあった2分間のインターバルにおいて、体は音楽を再生しているときよりもはるかにリラックスした状態にあることを発見しました。この時から、意味を持たないと考えられていた空白の時間が、ベルナルディ医師の最も興味深い研究対象になったとのこと。
つまり「音楽」を聞かせて効果を見ていたら、「インターバル」に意味があるように思えた。 ということですね。
これは非常に面白い「発見(Findings)」です。しかし、これはあくまでも「事実(Facts)」に過ぎません。このポイントから、もう一歩踏み込むとき(即ち、示唆(Insights)を見出すためのアプローチを考えるとき)に、僕なら、どういうことを考えるのか、を以下にご紹介します。
- 「2分間」のインターバル に意味があるのか?もっと長いとどうなるのだろうか。
- 例えば、音が全くしない状況が、長時間(数日間とか)続いた場合はどうなってしまうのか。(反対に悪影響にならないか)
- まったく音がしない、というのは、そもそも自然界に存在するのか。存在しないのであれば、その作用が良かろうと悪かろうと「自然に反する」状況ではないか。
- 「音がしない」と「音はしているが認識していない」という状態はどちらがリラックスしていると言えるのか。たとえば、森にいて、遠くで鳴く鳥の声や、風で木々が揺らぐ音は聞こえている状態=「ほぼ静寂」な状況はどうなのか。
- 街の中での雑踏などで「音はしているが、それらの音には意味がない=雑音にまみれている」という状況に慣れ親しんだ人の場合と、山奥で静かに暮らしている人では、「完全なる静寂」に対する感覚が違うのではないか。あるいは、同じような反応をするまでに必要な時間の長さが違うのではないか。
原点(論文)にあたっていないので、これらに関する論考の有無はわかりかねますが、「何らかのデータに触れた最初の段階(瞬間)」で、このような視点を「どれだけ出せるか」が重要だと僕は思っています。
尚、この記事の中にも、下記のような視点があります。
ただし、神経学者の中には「真の静寂」というものは存在しないと主張する人もいます。ダートマス大学のデイビッド・クレーマー博士は、「例えば、ラジオで自分がよく知る歌が流れているのを聴いていて、突然、音楽が止まったとしても頭の中ではその曲が続けて流れるはずです」という例を持ち出して、記憶が作用することで音がなくなったとしても脳の聴覚野が活動的な状態を継続する場合があることを説明しています。
このような脳の働きは「バックグラウンド活動」と呼ばれ、脳が消費するエネルギーのうち大部分を占めていることが明らかになっています。パターン認識や複雑な計算などの作業を実行しても脳の消費エネルギーはわずか数%しか増えないことが知られており、脳を完全に休ませることは非常に難しいことが分かっています。
この人たちは科学者なので、当然ながら「なんらかの論拠」が先にある(少なくとも、先にある”ように”記述する)わけですが、実ビジネスにおいては、「仮説」ということで、論拠レス(正確には、経験などが論拠になるわけですが)だとしてもいろいろ思考実験することが望ましいと僕は考えます。【関連記事:ギックスの本棚/仮説思考】
正しく「妄想」しよう
この「思考実験」を端的に言い換えるならば、『妄想』だと思うんですよね。多分、想像する、という方が分かりやすいとは思うのですが、「想像する」という言葉は、非常に一般的な言葉なので、敢えて「妄想する」と表現させていただきます。
例えば小売業のひとなら「自分が、この売り場に”初めて来たお客”として、この風景を見たらどう思うだろう」と”妄想”してみる。あるいは、メーカーのひとなら「この商品を買って、手元に届いたときに、使い方の説明がなくてもわかるか。わからないなら、最低限どこまで説明があれば使えるだろうか」と”妄想”してみる。という具合です。
今回のケースは「このデータ(情報)から、この結果を出した時に、xx部長ならなんていうか、〇〇課長ならなんていうか」という思考実験が近いかもしれません。この思考様式には「疑似人格」を持つのがオススメです。
”切り口”を増やす「疑似人格」のススメ
実際、僕の頭の中には、常に「疑似人格」が数人います。
プロジェクトでクライアントの担当者と共に資料作成をする場合だとこんな感じです。
- 常に「あの部長さんなら、果たして、この報告を聞いたら、なんて思うだろう。どういう指示を出したくなるだろう。」と考えます。
- そうすると、部長さんの立場ならば「その上の事業部長さんに説明するためにはどういう事が追加情報として欲しいだろうか」という視点がでてきます。
- その結果、「事業部長さんなら、何を知りたいだろうか」も一緒に考える必要が出てきます。
この「部長さん」「事業部長さん」が僕の中に疑似人格としているわけです。
尚、本来なら、その上の本部長・役員なども考慮すべきですが、「まったく知らない誰か」を妄想すると、大外しするか理想論に走りすぎて現実的に使えないことが多いので、ほどほどに留めておくのがよろしいかと思います。
この疑似人格を上手く使う=ロールプレイで妄想することができれば、疑似人格の数だけ「着眼点・切り口」が増えますので、発想の枠が大きく広がります。
また、反対に、「自分の嫌いな人が、この内容で報告してきたら、どんな意地悪な返事・切り替えしをしてやろうか」という考え方をするのも、思考実験としては悪くない試みです。自分の持つ切れ味を最大限に発揮して、議論の穴を突きにいくわけなので、自分と同じ程度に賢い人の見つけそうな穴は全て見つけられると思いますよ。(自分よりも断然賢い人と戦う時は、疑似人格方式で、切り口を増やす方が良いですよ。精神的にも健全ですし。)
※似たような考え方で「思考模写」という思考様式をギックスCEO網野が提唱しています。→ 企業に役立つ戦略知識:「思考模写」を考えてみる
妄想には「経験」「知識」が重要
では、その疑似人格はどのようにつくればよいのでしょうか。
少し話はズレますが、世の中でいうところの「センス」という奴は、僕は、知識+経験 と 知恵+想像力 だと思っています。(ギックスの本棚/アイデアは才能では生まれない で使った図を再掲します。)
経験は、日々積んでいくしかないのですが、知識は、本を読むなり、ネットで調べるなりで、幾らでも手に入ります。やればやるだけ身につきます。
右側の「知恵」「想像力」というところは、不確実なものですが”右側だけある”という人は、「デンパな人」になる傾向があるので、必ず、左側を鍛えないといけない(社会生活を営む上では)でしょう。
話を戻しますと、疑似人格を持つコツは、この経験と知識をしっかり積み、そしてその本質を体系化することで「疑似的な人格」として、自らのレビュワーとして育てること、だと思います。
具体的なアドバイスとしては、小説を読むのがオススメです。小説を一冊読めば、多くの場合5~10人程度の魅力あふれる登場人物に出会えます。彼らなら「どう考えるか」を蓄積していくことは、発想の幅を広げるのにとても有効です。また、学術書を読む場合にも、単純に「書いてあること」を読み解くのみならず、著者の視点・切り口が生々しく記述されていることに着目し、その考え方(≒生き様)を読み解くことが鍵です。とにかく、あまり好き嫌いせずに、いろんな文献・書籍に触れて、切り口のバリエーションを増やしてみることをお勧めします。
昨今は、データドリブン、データありき、と言われていますが、そんな状況下でこそ「人間の感性」が活きてくるのだと僕は思っています。そのために、自分自身を磨くことを怠らないようにしましょう。データで分かることが増えれば増える程、人だから判断できる何か、の重要性が強くなるわけですからね!
参考)データアーティストというケイパビリティ
ちなみに、僕たちギックスでは、こういった能力を駆使して、データを読み解き、ビジネスに役立てるケイパビリティをデータアーティストと定義しています。ご興味のある方は、関連記事もご一読いただければ幸いです。→【関連記事:データアーティストとは何か】
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