ギックスの本棚/ドラゴンクエストⅣ: 「第三章 武器屋トルネコ」|実は、ファミコン版キッザニアだったのではないか?

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商売のイロハが、ここにある。子供に遊ばせたいゲームNo.1。

どうも、こんにちわ。「ギックスの本棚」では、ちょくちょく漫画についても触れています。そして、「まぁ、漫画は一応『本』だよな」と思っていただけていると勝手に信じております。

が、みなさん。ちょっと待ってください。最近はKindleに代表される「電子書籍」が大好評なわけですよ。つまり『本』という概念が覆されつつある、と。うん、そうですよね。そりゃそうです。

ってことは、みんな、iPadとかで本を読むことも多いわけです。ええ。時代ですね。

あれあれ~(コナン風)、じゃぁ、iPadとかで読んでる『本』と、iPadとかでやってる『ゲーム(特に、会話やストーリーがテキストベースで進むもの)』の違いって、なんなんでしょうかね。ちょっと挿絵が豪華でBGMとか流れてるだけですよね。うん。そうだ、ほぼ一緒だ。そうに違いない。

ということで、本日は、ロールプレイングゲーム 「ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち」を題材に取り上げ、その中でも非常に示唆深い、「第三章 武器屋トルネコ」に焦点を当てていきたいと思います。

ドラクエⅣ 概要

ドラクエⅣは、ドラクエシリーズ唯一の「オムニバス」形式で話が進みます。

1章は戦士、2章は姫(格闘家)+お供の僧侶と魔法使い、3章は商人、4章は踊り子と占い師の姉妹が、それぞれの主人公です。そして、第5章で「勇者」が主人公となり、1~4章の主人公たちと出会い、仲間となって、怪物たちが跳梁跋扈する世界に平和をもたらす、というストーリーになっています。

第三章 武器屋トルネコ とは

トルネコは商人です。そのため、他の章が「戦って敵を倒して、誰かを救出する」「戦うことで、誰かの依頼をかなえる」「戦って、親の仇を倒す」「戦って、平和を取り戻す」という「戦い」が前提の物語となっているのですが、この章だけは目的が違います。

「金」です。そもそも、旅立ちの最初の目的が「自分の店を持つ」です。なんと、リアリティーのある物語でしょうか・・・

苦労の末、自分の店を手に入れたトルネコさんの雄姿

※iPad版 ドラゴンクエストⅣ のスクリーンショットです

子供も喜んでくれてます

※iPad版 ドラゴンクエストⅣ のスクリーンショットです

子供に「現実」を教えてくれる名作

僕が初めて本作をプレイしたのは、1990年当時ですので、・・・12歳とかですね。どうやら当時の僕にとって、この章は「まったく面白くなかった」ようで、ほとんど記憶に残っていません。

しかし、再プレイをしてみると、非常に示唆深いなと思う部分が多々ありましたので、今回、皆さんにご紹介していきたいと思います。

お金を稼ぐのは大変

トルネコは、最初、武器屋の雇われ店員です。どうのつるぎ100Gを1本売って、大体6Gくらいもらえる歩合制です。

ゲームの世界観で6Gというのは、はした金です。薬草すら買えません。いざというときの強い味方「キメラの翼」は25Gです。どうのつるぎ3本売ってもキメラの翼さえ買えないわけです。切ない・・・

また、困ってるトムじいさんを教会まで押していくと、8Gもらえます。でも、まぁまぁ面倒です。

基本的に、ドラクエの世界において、お金は「敵を倒して稼ぐもの」なのですが、トルネコは一般市民の商人なので、最初は地道に稼ぐわけです。頑張れ、トルネコ。

この一連の活動を自分で行うことで、子供たちは、お父さんの苦労を知るわけですね。いわば、ファミコン版キッザニアです。

(参考:貨幣価値の検証)

ちなみに、この世界での1Gは、どれくらいの価値があるのかと考えてみましょう。トルネコさんが後に手に入れる「自分の店」は35,000Gです。35,000Gの「店」とはどれくらいの価値か、ということで考えると、エンドールというそれなりに強大な国の城下町の2階建ての戸建て住宅兼お店です。東京の都心だとまでは言いませんが、地価もまぁまぁにするだろうと思いますが、今日のところは、計算し易く3,500万円だとしましょう。すると、6Gは6,000円になります。そう考えると、なかなか悪く無いですよね。(笑)

ちなみに、トムじいさんの8Gも、そういう意味では8,000円になるわけで、、、息子がいなくなって困ってる年金暮らしのご老人から、毎朝8Gずつ奪うトルネコが極悪人に見えてきてしまいますね。

交渉することが、利益を生む時がある

雇われ店員をしているときに、客が「100Gでよいんだね?」と聞いてきます。ここで「いいえ」を選択すると、客がランダムに「高い値段」「安い値段」を言ってきます。ここで「高い値段」で売ることによって、お店の利益を上げる+自分の歩合を増やすことができます。(裏側の計算ロジックはわかりませんが、定価との差額が自分の歩合に乗っているのかもしれません)

これは、後述の「ボンモール城で防具を売る」際にも同様ですが、交渉すれば「自分に有利な値段」で取引できる可能性があるわけです。

機械的なオペレーショでは利益は出ない

当然ながら「自分に不利な値段」を提示されることもあります。そのため「損か得か」をちゃんと見極めないといけません。

1回断ったら必ず得する、というようなシンプルロジックにはなっていないため、「商売とは考える事だ」ということを学べます。

うまい話には裏がある

トルネコが旅していると、森の中に不思議な村があります。そこでは、市場小売価格2,000Gの、一般に流通している武器の中では最強クラスに属する「はがねのつるぎ」がなんと10Gという破格値で販売されています。

当然ながら、そんなに世の中は甘くありません。キツネに化かされていたということで、「ひのきのぼう」になってしまいます。

いたいけな子供たちは、これで”詐欺”を知り「オトナを信じちゃだめだ」と気づくのです。

ニーズがあれば「高く売れる」

商売の基本は「安く買って、高く売る」なわけですが、トルネコの稼ぎの基本もまさにコレです。先ほど述べたような交渉術もそうなのですが、「欲しいのにモノが無い」と言う所に行くのが王道です。

一般的に「モノが流通してない」と言う場合は、そもそも市場がそのモノの必要性を認識していないケースも多く、市場創造から行わないといけなかったりするのですが(この辺りは関連記事:ナーチャリングの活用をご参照ください)、幸い、ボンモール城は「防具が欲しいのに、モノが無い」という状況です。しかも、「防具を売ってくれ」と向こうから頼んできます。

しかも、かなり高値で買ってくれます。なんと、数十歩(まぁ、イメージで言うと片道徒歩で4時間くらい?)の距離にあるエンドールで買ってきた防具を、市場販売価格の1.5~2倍程度の値で買ってくれます。※もちろん、先ほどの「交渉」が重要で、油断すると買値より低い価格を提示されます。

こういう「需給バランス」を活用するのが商売の基本だ、ということを教えてくれます。

店員の接客スキルが重要

そして、さらに、コレが重要です。トルネコが店を構えると、看板娘として妻のネネがカウンターに立ちます。

こいつが相当のやり手です。若くて美人と噂のネネは、おどろくことに「市場小売価格の1.5倍以上」での販売をトルネコに確約します。しかも、どれだけ大量に仕入れても、1日2日あれば、完全に売り切ってしまいます。

具体的な手練手管は紹介されませんが、普通に考えればありえません。一般人にとっての最強武器「はがねのつるぎ」99本(仕入れ値=市場価格 19万8,000G)を入荷した場合、2日もあれば最低でも29万7,000Gのキャッシュに変えてしまうわけです。おそるべし、ネネ。

向かいの店で仕入れた武器も、ネネが売れば1.5倍の価格で飛ぶように売れる。商品に違いは無く(だってトルネコが向かいの店で買ってくるわけですから)、違うのは店員のみ。おっさんか、若い美人か。

可能性として、某AKB48総選挙投票権のような仕組みにした、というビジネスモデル上の工夫が潜んでいる可能性はありますが、いずれにしても、ネネの才覚には驚かされます。やはり「商売は、誰がやるかが成否を分ける」ということなのですね。

(ちなみに、ネネは第5章では「銀行業」を始めています。旦那が商品を仕入れてこないから、小売りはできない。ということで、新しいビジネスを始めてしまう商才には驚きです。尚、主人公たちのお金を”預かって保管して返す”という行為には手数料が発生しないため、裏で金貸しをして稼いでいるのだろうと思います。それにしても、あんなに無防備な一軒家で、どうやってお金を保管しているのか・・・謎は尽きません。怖い女だぜ、ネネ。)

金があれば「公共投資」「世のため人のため」も実現できる

そして、第3章のラスト。トルネコは、6万G(先ほどの試算前提でも6,000万円)もの私財を投じて、トンネル工事を行います。

ここで子供たちは気づくのです、「お金があればすごいことができるんだ!」ということに。資本主義社会へようこそ、子供たちよ。

確実に稼げる仕事 が 面白い とは限らない

しかし、ここに非常に重要なポイントがあります。

この作品は「平和を求めて戦う勇者の物語」なのです。第三章は、そのなかの一節にすぎません。

そして、第三章の後半、プレイヤーは「簡単にお金が稼げる」ということに気づきます。「向かいの武器屋で仕入れて、ネネに渡して、一晩寝て起きたら、ネネが1.5倍で売っているので、そのお金で再度仕入れる」の無限ループです。

じゃんじゃん稼げます。永遠に稼げます。そして、そのお金でカジノで遊び放題です。

しかし、、、「つまんない」のです。

同じ毎日の繰り返し。起きる⇒売上回収⇒向かいの武器屋で仕入れ⇒妻に渡す⇒寝る という毎日。完璧なルーチンワークになります。そして、貯まったお金は仕入れ資金を残して、カジノで憂さを晴らす。

な・ん・だ・こ・れ・は!?

こんな、大体おんなじ毎日をまぁまぁそれなりOKって言ったところで、なんとなく空見あげちゃうのが関の山です。

要するに、「稼げたらそれでいい」ってわけではないのです。やはり、やりたいこと、楽しいことを見極めていくことが人生の喜びなのです。それに気づいた子供たちは、第三章を程よい所で切り上げて、次なる物語へとあゆみを進めていくわけです。

これは、目覚ましい成長ではないですか!?そして、なんと含蓄深いゲームなのでしょう!!!お金は「手段」であって「目的」であってはならないのです!!!

そんなわけで、「ドラクエⅣ」は、僕の中で「子供に遊ばせたいRPGゲームNo.1」なのです。(尚、第三章だけプレイする、のはあまり意味が無く、全章プレイする中で「第三章」から学ぶことが多い、というお話です)

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