ギックスの本棚/アイデアは才能では生まれない(美崎栄一郎 編著|日本経済新聞出版社)
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- POSTED : 2014.05.24 10:01
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目次
アイデアは才能”だけ”では生まれない
本書は、「アイデアは才能では生まれない」という、一見、万人に対して優しいタイトルになっています。しかし、実際に中を読み進めると、却って”残酷な結論に導いている”のではないかと思います。今回は、そのあたりを読み解いていきます。
「才能」ではなく「手法」という主張
本書では、アイデアを出す ということは「手法を学べばできる」のだと主張されます。
「才能ではなく、手法を学んで、身につけていれば、どの業界でもアイデアを出すことができるんだ!」
化粧品メーカー、ゲーム会社、(中略)など様々な職種において、クリエイティブでユニークな商品やサービスを作っている人の、新しいものを創造し、開発するプロセスは共通しており、才能ではなく、手法を分かっていれば成果は生まれるという事を、この本で紹介したいと思います。
そして、本書では、様々な企業の、様々な「発想」を具体的に取り上げていくことで、「発想法」に迫ります。
各社の「アイデア商品化」事例は具体的で分かりやすい
本書の構成は、1~8章を具体的な事例を紐解くことに割き、9章で「手法」をまとめます。
各社の事例「アイデアを商品化する」というプロセスを一気通貫で解説しており、また、とても詳細且つ具体的ですので、普通に読み物として面白いと思います。また、いろいろな「発想の種」が見つかると思います。
例えば、8章のキッチンの「足元収納」から幾つか「発想の種」を引用します。
藤原さんは、リーダーとして改めて商品を眺めたときに愕然としたそうです。
それは、ある日、各社の最新システムキッチンの特集が組まれた住宅雑誌を見たときのことです。正直どれが自社の商品なのか、各社商品の写真を一目見ただけではわからなかったのです。
これは「違和感を感じとるためには、”客観的な視点”と”直感”が重要」ということですね。
今までフォーカスしていた「調理から後片付け」のキッチンの役割範囲を、「買い物からゴミ捨て」ととらえることで、キッチンの収納に関わる新たな問題が2つ見えてきました。
これは、「プロセス」思考で”範囲を広げる”ということですね。(関連記事:考え方を考える|プロセス思考)
研修会では、この新収納の開発経緯をそのまま話すことにしました。後に全国で始まった新製品研修会で、この収納アイデアが形になるまでの開発プロセスを、わかりやすく営業マン用のセールストークにまとめ、展開していってくれました。
このセールストークによって、商品に込められたアイデアとお客様への想いがストーリーとなり、商品と共に全国に広がっていったのでした。
「プロダクトそのもの」がマーケティングにおいて非常に重要であり、飾り気のない真実のストーリーが興味を惹くこともある、という好例でしょう。
このように、様々なヒントが得られる事例集として、非常に使いやすいと思います。
本当に才能ではないのか?
では、これらの事例を読み解いた答えは「アイデアは才能では生まれない」なのでしょうか。残念ながら、より正確には「アイデアは才能”だけ”では生まれない」だと僕は思います。
僕は、本書で語られているアイデア具現化のステップは下記だと理解しています。
このうち、真ん中と右の「製品化」「商品化」は、本書の中でも熱く語られる通り「手法」であり「テクニック」です。鍛えればものになります。しかし、一番左の「アイデア出し」は、非常にハードルが高いです。
本書では、「経験」「問題意識」があれば、アイデアが出せる、と説かれますが、実際にそうなのでしょうか。それらの重要性そのものに関しては疑いの余地はありませんが、”それだけでいいのか?”と問われると・・・?
どれだけ「経験」を積んでも、どれだけ”問題”、”課題”を集積して「問題意識」を持ったとしても、そこに”優れた着眼点”、”一味違う切り口”がないと「アイデア」にはつながりません。ここに「才能」という不確定な要素が入ってくると僕は思います。
訓練したからできる、というわけでない
人生はロールプレイングゲームではありません。そのため、「敵を後xxx匹倒したら、レベルが上がる」というような分かりやすい指標はありません。また、「レベルをあと5あげたら、あの中ボスを倒せる」ということもないです。
結局のところ「才能」とか「向き不向き」とかいうものが重要になります。
「好きこそものの上手なれ」は「好き だから 上手い」という因果関係を意味しません。(だって、下手の横好き とも言いますし。)「上手い人 は 須らく好き」と言う理解の方が正しいでしょう。具体的には、プロ野球選手になる、という事に似ています。野球を大好きな人の中にも、野球に向いている人と向いていない人がいるわけです。(マイケルジョーダンは、バスケも野球も好きで、バスケに”尋常ならざるレベルで”向いていて、野球にも”凡人よりも数万倍”は向いていた、ということなのでしょうね。きっと。)
訓練するのは当たり前。才能もある人が、必死で訓練するから、モノになるわけです。
”センスが良い”ってどういうこと?
少し話は飛びますが、世の中には「センス」という言葉があります。センスが良い、とか、センスが悪い、って奴ですね。
僕は、センスが良い、ということの大前提として「想像力が凄い」ということがあるのではないかと思っています。何かの「仮定」を置いて、その仮定(前提)を軸に「思考実験」「空想」をしていくことができる能力が高い、というのが重要です。
- センスの良い接客:他人の立場を”想像”して接客できる
- センスの良い調理人:素材・調理法・調味料の組み合わせから、味を”想像”できる
- センスの良い小学生:親の機嫌を感じ取り、親にみせた場合の結果を”想像”して悪い成績を隠す
この想像力は、経験によって広がり、また、反対に、経験によって狭められます。
想像力が「広がる」
一度も触れたことが無いものは「想像」できません。経験によって「思考の範囲」を拡げていくことになります。
子供は実際に体験したことや、絵本などの疑似的な体験によって世界を広げていきます。そして、想像していきます。彼らにとっての想像は”創造”に等しいでしょう。
然しながら、子供には、経験したことのないことが沢山あります。たとえば、道に飛び出したり、エスカレーターで身を乗り出したり、電車の連結部分に立ったりしますよね。それらの行為が「危ない」ということが分かりません。(僕は、子供の頃に、電球の入っていないソケットに指を突っ込んだことがあります)
これは「本でも何でもいいから、情報に触れて世界を広げる」ことが非常に重要だ、ということを示しています。
想像力が「固定化」される
一方、経験を積むと「知ってるもの」で世界が埋め尽くされます。
そして、昨日と同じ明日。去年と同じ来年が訪れるようになります。
こうなってくると、今度は「想像力」が広がりません。むしろ、衰えていきます。
”センスを磨く”とは
それらを踏まえ、センスは「知識」「経験」「知恵」「想像力」に分解できるのではないかと僕は思っています。
僕は、センスとは(知識+経験)×(知恵+想像力)だと思っています。そして、上図のように、左右のバランスが重要だと考えています。右だけでは頭でっかちですし、左だけでは固定化されてしまいます。
知識・経験が足りない人は、知識・経験を積みましょう。これは、やればやっただけ身につきます。
そして、知恵・想像力は「頑張って身につくとは限らない不確実な領域」です。なぜなら、そこに「向き・不向き」「才能」という、どうしようもないものが影響するからです。(もちろん、この、知恵・想像力の領域も「考える訓練」などで”ある程度は”身につくとは思いますよ。)
つまり、「才能が無いからできない」ということは現実的に起こり得る、という事です。(プロ野球選手に誰でもなれるわけではない、というのと同じです)
誰にでも身につく=価値が低い
才能があるのかどうか、は、いずれわかります。
しかし、「努力してみないことには、自分に才能があるかどうかがわからない」のです。そして、また、本書のテーマである”アイデア出し”も「才能だけあっても努力しないとダメ」という話なわけですから、何にしても、努力するしかないわけですね。
凄い頑張って努力した結果、やはり才能という部分でその領域には向いてなかった、ということが起こり得る、というのは非常に残酷な結論だと僕は思います。しかし「誰でも”必ず”できるようになる」ようなスキルを身につけたところで、正直なところ、あまり価値があるとは思えません。(スライムを10万匹倒したら誰でもラスボスが倒せる、というのが分かっている以上、RPGをクリアしたからといって大した価値はありません。なかなか解けない謎があり、誰でもクリアできるわけではない「たけしの挑戦状」をクリアすることには価値があるわけです。(いや、それも無いか))
では、そんな困難な(そして価値がある)成果を得るための”努力”にはモチベーションが必要です。そんな「モチベーションの源泉」はなんなのでしょうか?僕は、それは「やりたい」という気持ちだと思います。自分のやりたい事であれば、頑張れます。やりたくないのにやらされてる、という時点で、向いていても向いていなくても、その領域への溢れんばかりの才能があっても無くても、どうせ大成しないので他の事に時間を使った方がいいですよね。(このあたりは、関連記事:ギックスの本棚/世界を変えるビジネスは、たったひとりの「熱」から生まれる。 もご一読いただけるとよろしいかと思います。)
ちなみに、例え「やりたいこと(領域)」だとしても、早い段階で(当該領域に関する)自分の才能に見切りをつけ、向いてることにのみ注力する方が効率的だ、という考え方もありますが、それはまた別の機会に触れたいと思います。
本稿の主題は、あくまでも
- 才能があっても無くても、努力しないとモノにならない
- どうせ努力するなら、「やりたいこと」の方がモチベーションが上がる
- モチベーションを持てる領域で「正しく努力する」ことが重要
ということです。
一度しかない人生です。折角なので、”やりたいこと(or やってみたいこと)”を見つけ、そこに注力して、自分の実力を試してみましょう。別にやりたくないのに「アイデア出しのプロ」を目指す必要はないわけですし。それでも尚、どうしても「アイデア出しのプロ」になりたい方は、本書を読み、8つの事例から自分なりに「アイデア出し」のエッセンスを抽出し、自分なりの”正しい努力の道筋”を見出していただければと思います。
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